一般財団法人 日本水土総合研究所の21世紀の新たな展開方向
農村を生命と風土からなる「農村空間」としてとらえる
1.食料供給力の確保
@我が国の農業生産の中核的な役割を果たす生産性の高い大規模な優良農業地域である国営事業地区が、都道府県営事業等との一体的な実施等を通じて、国民の食料の安定供給を果たす。
A人口減少が進行する中で効率的な産業としての「攻め」の農業を確立するため、競争力のある担い手に農地の利用集積を加速化させ、安定的かつ持続的な農業生産体制を確立する。
B足腰が強い農業を確立するための前提条件となる基幹的な農業水利施設を適切なストックマネジメントの実施とともに計画的に更新していく。
2.高度な技術的課題への対応
@施設規模が大きくかつ高度な技術力が必要とされる国営事業地区において、計画、設計、施工、管理のそれぞれの段階で要求される施設の性能を確保するためのホームドクター制度による円滑な事業運営、新技術の導入、予防保全施策に基づいた効率的整備、地域及び環境への配慮など多面的機能の発揮などに協力する。
A構造物の耐震設計に関する調査研究や大規模災害時の土地改良施設の被害軽減・早期復旧を図るため、施設管理者の業務継続計画(BCP)の策定等に協力する。
B新設・改修中ダムの設計、施工等に関する技術的課題や完了したダムで発生した地震による被災等の課題に対して、専門家による委員会の設置を通じて技術的な支援を行う。
C東日本大震災を契機として、全国に造成されている農業用ダムの大規模地震に対する安全性が注目されている。平成24年度から開始されている国営造成農業用ダムの耐震性能照査に関して、設計・施工内容の詳細確認、健全性の確認、レベル2地震動(将来想定される最大級の地震動)に帯する耐震性能照査の実施を専門家による委員会の設置を通じて技術的な支援を行うとともに、耐震性能照査実施上の課題に対する検討を行う。
3.農村地域振興への貢献
@河川や環境の政策と農業農村整備施策が政策総合という形で連携することにより、農村地域においてより効率的かつ効果的な整備を進めることの可能性を追求する。
具体的には、河川の正常流量の確保や河川の洪水防止などにおいて、従来のような河川行政のみによる対応ではなく、農地や農業水利施設等を活用して流域全体で対応する。
A小水力発電等(太陽光発電、小風力発電を含む)のクリーンエネルギー対策においては、約4万5千kmにものぼる基幹水路を積極的に活用するなど、経済産業省と環境省と連携して農村空間全体の総合対策として取り組む。
B少数の担い手への農地の集積と規模拡大といった農業情勢の変化や飼料米の導入等による営農の変化に伴い、多様化・複雑化する水需要に対応した用水管理、施設管理のあり方を検討する。
C東日本大震災後、省エネルギー化推進が喫緊の課題であり、地球温暖化防止の観点からも、省エネによるCO2排出量削減が必要である。農業水利施設は、総電力容量が250万kw以上と大口の需要部門である一方、旧式の施設も多く、省エネ化の余地は大きいことから、効率的な送水計画や、高効率の機器導入等の地域毎の省エネルギー化対策の検討を進める。
4.農村振興と地域資源の保全
@国営事業の推進に当たり、農地・水資源の有する多面的機能を定性的のみならず定量的に評価・検討を行う。
A歴史・伝統・文化などに基づく地域の活性化などに対する市町村や住民の要望や課題に対して合意形成を図り、農業施策のみならず農村振興の観点からも、積極的に対応する。
B農家と地域住民が協働で取り組む地域資源の保全活動が将来の農村振興の核となることを見据えて、多面的機能支払交付金などを活用した組織化と農村振興に向けて対応する。
5.海外の農業農村開発
@アジアモンスーン地域を中心とする開発途上国の農業と農村の現状を調査し、米を中心とする食料の増産、農民の所得向上、農村の開発、バリューチェーンの構築のあり方について提言し、相手国やわが国のODAに関する施策等の立案に協力する。
A開発途上国での経済発展に伴い、農村労働力の減少が想定されているなかで、労働生産性の向上及び、維持管理コストの低減が必要となっている。これらの課題に対応すべく、
1)ミャンマー、カンボジアでのモデルほ場の整備など、農業インフラの海外展開を図るとともに我が国の土地改良区の知見を活用し、農家参加型水管理(PIM)の普及・啓発を行う。
2)維持管理コストの低減等のため、もっぱら土水路として整備されている開発途上国の水路について、コンクリートやその他のライニングによる近代化を促進するための設計手法について提言を行う。
B気候変動等に適応した農村防災計画を作成する手法の検討を行う。