第4回世界水フォーラムと日本の役割
特定非営利活動法人 日本水フォーラム 事務局長
尾田栄章
第4回世界水フォーラムがメキシコシティで本年3月16日から22日の7日間にわたって開催される。第1回世界水フォーラムが1997年にモロッコのマラケシュで開催されてから約10年。オランダ、ハーグでの第2回に引き続き、第3回世界水フォーラムが京都、滋賀、大阪の琵琶湖・淀川流域を舞台に開催されたのがつい昨日のように感じられるのに、もうすでに3年が経過したのだ。第3回世界水フォーラムで出された芽がこの3年間で如何に発展してきたのか、第4回世界水フォーラムへの期待に胸が膨らむ。
前回の世界水フォーラムを担当した日本としては、第4回世界水フォーラムは決して他人事ではない。第3回から第4回へ、世界の水問題解決に向けて、しっかりと成果と課題を引き継ぐ義務がある。
確かに、水問題への世界の関心は、第2回世界水フォーラムから第3回世界水フォーラムにかけて大きく高まり、第3回以降は飛躍的に高まったといえる。国連もアナン事務総長の直接の声掛かりで「水と衛生に関する諮問委員会」を設置し、橋本龍太郎元総理に議長役を依頼した。諮問委員会の議論が熱を帯びてきているものの、その成果が出てくるのはこれからである。第4回世界水フォーラムの席上で行動計画が発表されることが期待されている段階に過ぎない。まさに世界の水問題は解決に向かって本格的に歩み出したものの、結果が出てくるのはこれから、というのが世界の現状である。
となると、第4回世界水フォーラムが世界の水問題解決に向けて果たすべき役割は極めて重い。そのフォーラムの準備は、第3回世界水フォーラムの延長線上に沿って進められている。その意味でも、まず、第3回世界水フォーラムについて簡単にみておきたい。
水と衛生に関する諮問委員会第1回会合。議長は橋本龍太郎元総理。
2004年3月22日、世界水の日に国連アナン事務総長より設立の発表
第3回世界水フォーラム
第3回世界水フォーラムは極めて特異な国際会議となった。フォーラム終了直後の橋本龍太郎会長の言葉、「このフォーラムは本当に手作りだったなあ」がその間の事情を端的に表している。まさに手作り、それもグランド・アップ方式(世界水パートナーシップのカールソン女史の命名)によるものであった。グランド・アップ方式は、ヴァーチャルフォーラムと水の声プロジェクトによって支えられた。この二つのプロジェクトは、準備期間を含めるとほぼ3年間にわたって継続され、まさに第3回世界水フォーラム自体が『3年間のフォーラム』だったことになる。
「開かれたフォーラム」、「参加者が自ら創り出すフォーラム」、「議論から行動を生み出すフォーラム」を基本理念に、総ての準備が進められた。その結果、世界各地から約360のセッションの開催要望が寄せられ、余りの多さに驚くことになる。最終的にはその総てを、33のテーマと地域の日に分類して開催する事ができたのだが。
こうした形の国際会議を生み出したのは、水が地球上の人類60億人全てに係わる命題だということからくる必要性。そして、インターネットの普及という新しい技術開発による可能性。その両者が合わさって、はじめて実現したものであり、現代という時代が創り出したものである。
フォーラムの成果は多方面にわたる。フォーラム期間前後に出された文書だけでも膨大であり、それを見れば世界の水の現状がよく読み解ける。概要は最終報告書に収められているので、是非一読いただければ幸いである。しかし私が考える最も大きな成果はそれではなく、参加頂いた方々のそれぞれの胸に刻み込まれたものである。その意味では、とりわけ発展途上国の人達に数多く参加してもらうことが重要だと考えた。オランダ、カナダ、スイスをはじめとする先進国からの財政援助もあり、フォーラム事務局だけで500名を超える方々を招待することができた。望外の喜びである。
フォーラム参加者がまれたものこそ、次の行動に繋がる貴重なもの。どんな行動が出てくるのか、大変に楽しみであり、それをモニターすることは我々の責務でもあると考えている。このため、第4回世界水フォーラムにそれがどのように現れるのか、その点にも注目しているところである。
第4回世界水フォーラム
第4回世界水フォーラムは、ほぼ第3回と同様の流れで構成される。大きな違いは、第4回では、「枠組みテーマ」と「横断的課題」があらかじめ決められている点にある。それぞれのテーマと課題が、第3回フォーラムに世界から提案されたセッションの分析によっていることからみても、両者の連携が読みとれる。
日程は16日が開会式、22日が閉会式に当てられており、この間の5日間に枠組み別に分科会の開催が予定されている。この5日間に、世界を5つに分けた地域別にそれぞれの地域の特色を生かした会合が持たれることになっている。
5日間の標準的な1日のプログラムは30ページのようになっている。芸術を重んじる国だけあって、文化・芸術ステージが毎日組まれており、参加者はこの面を通じても水を考えることになる。
日本の役割
日本が第4回世界水フォーラムで果たすべき役割は大きい。準備を進めているメキシコ事務局からは、常に第3回での対応に関しての問い合わせが来る。このため、第3回世界水フォーラム事務局で裏方を取り仕切った尾島氏がJICA専門家として現地に派遣され、連絡調整に当たっている。現地スタッフから、サントスという現地名が贈られるほどにとけ込み、大活躍してくれている。
アジア・太平洋地域のコーディネーター
当地域のコーディネーター役に関しては、本特集で別項が予定されているのでそちらに譲ることにする。ここでは、後に述べる「アジア・太平洋水フォーラム」と「同サミット」構想が、このコーディネーター役を務める中から出てきたことだけを記しておきたい。
危機管理のビーコン
危機管理に関しては、日本水フォーラムがビーコン役を他の国際機関と一緒に務めている。大津波がこの地域を襲ったことでもあり、気を引き締めて準備を進めているところである。
エキスポへの参加
第4回世界水フォーラムでは、『エキスポ』に大きな力が注がれている。世界の主要な企業が数多く参加し、主として中南米からの多数の見学者が見込まれている。日本を売り込む絶好の機会ととらえて、最大規模の敷地を確保して「日本パビリオン」を開くことにしている。日本酒を持ち込み、交歓の場を設けることも予定している。日本企業の積極的な参加を是非ともよろしく、と心からお誘いする次第です。
アジア・太平洋水フォーラム構想
アジア・太平洋地域コーディネーターとして、活動している中から出てきたのが、この構想である。この地域そのものが広大で、多様。個々のサブ地域が抱える水問題も種々雑多である。このため、この地域に共通するものがあるとは考えられなかった。しかし、それがあるのである。「水と人との数千年にわたる闘いと融和の歴史」である。過去数千年の昔からの歴史が現在に引き継がれている。この地域では、水は一つの目的だけに使われているのではない。水がその地域の風土を構成しているのである。
それを基軸にアジア・太平洋が一体となって、今後とも水問題を一緒に考えていこうという提案が地域から出てきた。事務局役を日本水フォーラムが担うことになる。責任の重大さを痛感している。
アジア・太平洋水フォーラムの具体的な活動の一つが「水サミット」である。水問題が単に水部門にとどまらず、人間活動の総てに関わる、という認識から出た発想である。実現に向けて最大限の努力をしなければならない。
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