2023.8 AUGUST 68号

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REPORT & NETWORK

ルワンダ共和国ルワマガナ灌漑地区ことはじめ

農林水産省 政策情報分析官  田中 卓二

1 はじめに

 2022年6月、在ルワンダ日本大使館が「Enhancing agricultural productivity」というYouTubeチャンネルを公開しました。ルワンダ共和国(以下、「ルワンダ」という。)ルワマガナ郡のJICAの無償資金協力で造成したため池が映し出され、現地で展開されている水管理組合能力向上のための技術支援プロジェクト(技プロ)等が紹介されています。

 このルワマガナ灌漑地区は、2015年、筆者がルワンダでJICA灌漑専門家として働いているときに、農業動物資源省(MINAGRI)のカウンターパートからの紹介を受け、JICAの資金協力の対象として可能性調査等を行ったところです。当時は、ため池からの水漏れを土のうで修復しているなど状態は悪かったですが、筆者がルワンダを去った後、大使館、JICA、ゼネコン、コンサルタント等関係者の皆さんのおかげで、ため池が新設・修復されるなど優良サイトに生まれ変わりました。

 2023年、ある都内のルワンダ関係の会合で、離任したばかりの小川元大使に、YouTubeで見たルワマガナのプロジェクトの話をしたところ、「大変素晴らしいプロジェクトである」とのお褒めの言葉をいただきました。筆者自身は、専門家を離任して数年経っており、今はプロジェクトに直接関与していませんが、本稿では、ルワマガナのサイトが選ばれた当初の経緯などをご紹介させていただければと思います。

図1 整備されたブググため池と水田(2022)
図1 整備されたブググため池と水田(2022)


大使館YouTubeQR
大使館YouTubeQR


2 ルワンダの農業と灌漑

 まず、ルワンダとその農業と灌漑についてご紹介します。ルワンダは、アフリカ中央部に位置する内陸国で、人口約1,200万人、国土面積は、26,388km2で四国の約1.5倍の面積です。地理的には、国土のほとんどが丘陵地で、標高800~4,000mという高地に位置するため、平均気温が20℃前後と過ごしやすい気候です。ルワンダでは、1994年、内戦を発端として約80万人が虐殺されるという歴史を有していますが、近年、情報通信技術(ICT)による立国を掲げ、「アフリカの奇跡」とも言われる成長をとげています。

 ルワンダの農業はGDPの約3割を占め、人口の約7割が農業に従事しています。一方、耕地面積が小さく、傾斜地が多いために灌漑開発が進んでおらず、生産性・収益性が低い状況になっています。ルワンダは半乾燥地帯に位置し、特に東部では年間降雨1,000mm以下と少なく、灌漑開発はルワンダの農業の発展に欠かせない要素です。このため、ルワンダ政府として、①丘陵地灌漑、②湿地(水田)開発を中心に灌漑事業を推進しています。丘陵地灌漑では、メイズ、豆、野菜などを、湿地灌漑では、コメ、野菜、豆などを主な栽培作物としています。一方、既存の灌漑施設の老朽化も著しく、多くの施設で改修が必要となっています。

3 ガショーラⅡ地区

 筆者は、2013~2016年の3年間、ルワンダでJICA専門家として勤務しました。赴任当初、湿地(水田)開発プロジェクトとしてルワンダ側からJICAの資金協力の対象として要請があったのは、首都のキガリから南に位置するブゲセラ郡ガショーラⅡというサイトでした(図2参照)

図2 ガショーラⅡ地区平面図
図2 ガショーラⅡ地区平面図


 ルワンダの国土面積の約3/4を流域とするニャバロンゴ川沿いに広がる湿地の一部750haを堤防で囲み、用排水路と用排ポンプの整備を通して水田開発を行うというものです。ルワンダ西部が多雨地帯であることもあり、かなりの面積で湿地帯があるのですが、大半は有効活用されておらず、ガショーラⅡ地区をモデル事例として、日本の先進的な干拓技術などを導入したいというルワンダ政府の強い意向も背景にありました。このため、筆者は、1ヶ月に2~3回ペースで、計25回このサイトに通い、時にワニに遭遇しながら、農家へのヒアリングや現地踏査などを行ってきました(図3参照)

図3 フィールドトリップで見つけたワニ(2014)
図3 フィールドトリップで見つけたワニ(2014)


 しかし、雨季には、河川からの越流で氾濫原となるこのサイトの開発は技術的にも非常に難しく、ポンプ機場や堤防の建設を伴うため建設費用や維持管理費が高額となり予算面で大きな課題がありました。ルワンダ側で作成したレポートを精読したところ、水文解析や排水対策の検討不足も見受けられました。

 こういった背景もあり、JICA事務所とも相談し、このサイトに代わる灌漑開発が可能な地区がないか、改めて調査を行うこととしました。

4 ルワマガナ灌漑地区

 JICAから改めて提示された日本の協力案件の選定基準は、将来の水田開発の普及基地となりうるモデル灌漑地区としての要件を満たしていることでした。具体的には、灌漑面積が数百ha程度、開発単価が高額でない重力灌漑地区、農民組織活動が活発といったものです(図1参照)

 MINAGRIのカウンターパートと相談して、いくつか候補地を選定し、筆者自身も現地調査を行う中で最有力の候補地として浮上したのが、ガショーラⅡ地区に代わるルワマガナ灌漑地区でした。

 本地区は、1978年に中国の協力により開発された4つのため池を有する計画灌漑面積266haの重力灌漑地区です。灌漑対象作物は水稲で、灌漑排水施設の管理、管理費の徴収、生産米の収集と販売は、すべて農民組合により行われていました。

 現地調査を行ったところ、ため池は、老朽化が激しく、取水バルブからの恒常的な水漏れだけでなく、ため池本体から漏水のある危険な箇所も見受けられ、早期の対策の必要があることは明白でした。貯水池の堆砂や用排水路の不備も、十分な用水が受益地に行きわたっていない原因となっていました。

 今後の資金協力の可能性を見据えて、筆者は、本地区で、気象観測施設を設置するとともに(図4参照)、ため池からの取水量の計測やGIS図面の作成等を進めました。ワークショップも現地でこまめに開催し、地元農家の実態の把握にも努めたところです(図5参照)

図4 ルワマガナの気象観測施設(2014)
図4 ルワマガナの気象観測施設(2014)


図5 農家の代表とワークショップを実施(2015)
図5 農家の代表とワークショップを実施(2015)


 そうした調査を基に、ルワマガナ地区を実施することにより期待される効果を以下のようにJICAに報告しました。

1)灌漑施設リハビリのモデルケースとしての波及効果

 ルワンダでは、1970年代から80年代に造成された灌漑施設の老朽化が進んでおり、本地区のプロジェクト実施により施設のリハビリに関する全国的なモデルを示すことが可能である。さらに、維持管理や水管理組合育成のソフト事業もセットで行うことにより、灌漑の維持管理のモデルとして位置づけることも可能である。

2)CARDアプローチとの連携

 ルワンダは、アフリカでコメ生産を倍増させるアフリカ稲作振興のための共同体(CARD)の参加国であり、本地区の実施によりコメ収穫量の増大が期待できるため、CARDの取組に資する。

3)地元の組織体制と地理的優位性

 本地区は、既存のため池を活用した農民組合が機能しており、施設の改修や日本の営農指導を強く要望している。また、日本の専門家の指導を行うに当たって、本地区はルワマガナ郡の郡都から南に数kmの位置にあり、首都キガリからも近く利便性にすぐれている。

5 JICA現地調査団による提言

 2015年4月、JICA本部から永代国際協力専門員を団長とする現地調査団が派遣されました。MINAGRIの幹部と面談するほか、現地調査を行い、今後のルワンダに対するJICAの灌漑分野の協力方針を決定する重要なミッションでした(図6参照)

図6 ブググため池の漏水状況(2015)
図6 ブググため池の漏水状況(2015)

 この調査団の主な目的は2つありました。一つ目は、ガショーラⅡ地区の現状を確認してその結果をルワンダ政府と共有すること、二つ目は、ルワマガナ地区をはじめとした今後の日本の灌漑に関する協力方針を調査結果にまとめることでした。

 一つ目のガショーラⅡ地区について、現地調査を踏まえて日本の協力案件としてふさわしくないと判断し、ルワンダ政府高官との協議において、「JICA内での検討の結果、開発単価が高額となり予算面から実施できない」と団長から伝えました。氾濫原に位置する本地区の開発は技術的に困難なことも背景にありますが、予算の観点からのみ説明し、関係者の理解を得ました。

 二つ目の日本の灌漑に関する協力方針については、以下の方針としました。

 現在、ルワンダ政府の焦点は灌漑面積のみに当てられており、既存の灌漑地区、完工後の施設の管理はすべて農民組織に任されている。しかしながら農民研修や水利組合に対する政府の指導もほとんどなされていないため、不適切な施設の操作維持管理などの課題が見受けられる。また、営農面、農民組織活動面でも改善の余地がある。

 このため、施設整備というハード面、営農、水管理、施設維持管理などのソフト面の両面論に対する総合的な協力を、関連人材の育成、組織強化などのキャパシティ・ディベロップメントを含めた長期的な視野で実施することが、ルワンダの持続的な灌漑農業発展に向け支援することが必要と判断される。このため、プログラム協力という構想の下、灌漑農業のモデルを構築するとともに、モデルの普及による灌漑農業の振興に必要な関連人材の育成、組織強化などもあわせて行っていくことが望ましく、具体的なロードマップ作りを行い、両国間で共有化することが重要である。

 今回の調査の結果、灌漑農業モデル構築の対象先としては、ルワマガナ灌漑地区が適切と判断される。よって、同地区を対象としたモデル灌漑農業構築に向けた無償資金協力の実施、ソフト面の協力と全国を対象とするモデル灌漑農業の普及を目指した協力(人材育成、研修、水利組合や政府組織の強化など)をプログラム協力のコンポーネントとして検討することが必要である。

6 協力準備調査とルワンダからの要請

 上記の方針を踏まえ、ルワンダ政府から、ルワマガナ灌漑地区の施設改修とルワマガナ地区等をモデル地区とした水管理能力向上プロジェクトの要請が行われました。また、JICAも、2015年から2017年にかけて、プログラム協力計画策定調査、ルワマガナ郡灌漑施設改修計画準備調査を実施しました。筆者の任期は2016年8月までだったので、準備調査の途中までしかかかわることができなかったのですが、コンサルタントの皆さんと一緒に現地調査を行うとともに、MINAGRIのカウンターパートとの調整等に汗をかかせていただきました。

7 ルワマガナ郡灌漑施設改修計画

 2017年3月、ルワマガナ郡の既存の低湿地灌漑施設の改修等を供与額20億7,700万円の無償資金協力で行う「ルワマガナ郡灌漑施設改修計画」に関する書簡の交換が日ル間で行われました。工事の実施は、コロナ禍なども重なって大変だったと聞いていますが、2020年11月、今井大使やJICA事務所長、MINAGRI次官の臨席の下、無事完工式を迎えました。なお、MINAGRI次官のジャンクロウドは、筆者がJICA専門家として赴任した際のカウンターパートです。

8 灌漑水管理能力向上プロジェクト

 2018年9月、「灌漑水管理能力向上プロジェクト」の協議議事録が締結され、2019年3月から2024年2月までの協力期間で、MINAGRI傘下の水利組合支援ユニット(IWUO-SU:Irrigation Water Users Organization-Support Unit)の能力強化を通じて、農民主体の水利組合(IWUO)の組織運営強化を行い、段階的に政府主体の灌漑施設の維持管理を水利組合に移管させ、灌漑施設の維持管理及び水管理能力向上に資する技術協力を行うこととなりました。

 ルワマガナ灌漑地区は、水田灌漑のモデルとして重要拠点に位置づけられ、日本人の専門家から水管理や営農についての研修が行われています。このプロジェクトも、コロナ禍の影響を大きく受けており、協力期間を延長するとともに、ウェブ会議システムを活用したセミナー(ウェビナー)の開催やラジオ研修番組やオンラインスタディツアーを通じた研修を実施するなど工夫を凝らしながら成果をあげているようです。

 また、2023年3月、草の根・人間の安全保障無償資金協力「チャルホゴ灌漑施設建設計画」(74,138米ドル)の署名が日ル間で行われました。JICA技プロの一部区域で田畑に均等に配水を行う堰などを造成するもので、灌漑水管理能力向上プロジェクトとの相乗的な効果の発揮が期待されます。

9 おわりに

 ルワンダでJICA専門家として仕事をさせていただいたとき、意を用いたのが「現場主義」です。ルワマガナ灌漑地区では33回現地調査を行いましたが、その中で強く感じたのは、農家の皆さんのこの地区を良くしていきたいという強い熱意でした。農家の水や農地への想いは、日本もアフリカも同じなのだなと感じたところです。

 筆者がルワンダから離れて7年になりますが、この地区でのため池や水路の改修や水管理組合育成といったハードとソフト両面での取組は、ルワンダのみならずアフリカのサブサハラ地域の灌漑地区のモデルとなりうるものではないかと考えています。

 最後に、ルワマガナ灌漑地区をここまで導いていただいた、外務省、JICA、飛島建設㈱、NTCインターナショナル㈱ほか関係者の皆さまへの感謝をお伝えするとともに、今後、この地区が、灌漑水管理のモデルとして、日ル間の友好の礎になることを祈念して筆を置きたいと思います。


ⅱ プロマーコンサルティング:ルワンダの農林水産業
ⅲ ODA見える化サイト「ルワマガナ郡灌漑施設改修計画」


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