2023.3 MARCH 67号
REPORT & NETWORK
岐阜大学応用生物科学部生産環境科学課程環境生態科学コース 准教授 乃田 啓吾
筆者は、2015年以降、日本ICID協会WG-YPF(若手かんがい技術者フォーラム:以下、YPF)の活動に参加してきた。本報では、これまでの日本YPFの活動を紹介するとともに、この活動を通じて筆者が感じたこと、今後期待すること等を述べたいと思う。
1 日本ICID協会WG-YPFについて
国際かんがい排水委員会(International Commission on Irrigation and Drainage: 以下、ICID)は、かんがい、排水、治水、河川改修分野で、水資源の開発・管理に関わる、科学・技術の研究・開発、経験、知見交流の奨励、促進を図ることを目的に、設立された国際非政府組織(NGO)である。大きくは、環境を乱すことなく、かんがい農業を中心とした持続的な農業生産の増強により、食糧不足、飢餓、栄養不足、農村の貧困緩和に寄与することを狙いとしている。日本は設立直後の1951年からICIDに加盟しており、戦後最初に加盟した国際組織である(日本ICID協会HP)。
日本ICID協会は、日本国内のかんがい排水に関する技術を有する法人及び団体、並びに個人によって1984年に設立され、「(ICID)日本国内委員会と連携しつつ、ICIDの諸活動に積極的に参加し、その成果を活用して、我が国のかんがい排水に関する技術の向上を図るとともに、我が国の技術の海外への普及に資する」ことを目的としている(日本ICID協会HP)。
ICIDでは、かんがい排水分野の若手技術者のための国際的な経験・交流の場を用意することに加え、国内外の専門家との意見交換等により若手技術者のかんがい排水および自然環境に関する技術水準の向上等を目的とした国際プラットフォームとしてWorking Group on Young Professionals Forum(WG-YPF)を1993年に設立した。2016年以降はICID Young Professional’s e-Forum:IYPeFとして、さらに活発化している。特に最近では、ソーシャル・ネットワーキング・サービスLinkedInを活用した交流や情報交換、勉強会等を行っている。LinkedInのIYPeFグループには、世界中から1,050人が参加している(2023年1月31日時点)。
YPFは、ICIDにおけるWG-YPF設立を受け、日本ICID協会内に設立された部会である。その目的としては以下の3点を掲げている(日本ICID協会WG-YPF細則)。
・かんがい、排水、洪水調整、環境分野等の若手専門家の知識および情報を交換し、より広い知識の取得と情報の普及を促すとともに、当該分野について高い水準の専門教育を推進する。
・当該分野に関心を抱く若者に対して、国内だけでなく国際的なネットワークを強化する。
・ICIDの役割、目的、機構、憲章および細則を若手専門家に浸透させる。
メンバーの条件は、(1)40歳以下であること、(2)日本ICID協会の会員であること、等である。2022年10月時点でのメンバーは、産:4人、官:18人、学:23人(内、学生16人)である。
2 YPFの活動
YPFは、毎年1回、農業農村工学会大会講演会に合わせて開催される定例会議によって運営されている。これに加え2006年からは、「若手かんがい技術者による海外事業・研究に関する事例報告会(以下、事例報告会)」を開催している。2018年度からは「若手かんがい技術者による勉強会」と名称を変え、海外での事例報告、講師を招いての講演、現場見学会等を併せて実施している。
現場見学会は2018年度から開催しており、明治用水(2018年度)、長良川用水地区(2019年度)、東播用水(2022年度)等の灌漑排水施設や施工現場を見学した(2020年度、2021年度はCOVID-19の影響で中止)。現場見学会は、各農政局や土地改良区の支援により充実したものとなっている。なお、若手、特に当該分野の学生の参加を促すため、会員限定で日本ICID協会から交通費の補助が行われている。
不定期ではあるが、YPFは農業農村工学会大会講演会において企画セッションを開催している。企画セッションのテーマは、「SDGsにおいて農業農村工学がイニシアティブをとるべき目標(2016年度、オーガナイザー:乃田啓吾)」、「日本が誇るかんがい排水技術-農業土木の温故知新-(2017年度、オーガナイザー:福田信二)」、「ニューノーマル時代における大学間の学生交流・若手人材育成のあり方(2021年度、オーガナイザー:木村匡臣)」と、多様な内容となっているが、勉強会とは異なり、海外事例に限らず当該分野の若手全般を対象とした内容となっている。なお、2021年度は農業農村工学サマーセミナー実行員会との共催であった。
3 これまでの感想と今後の期待
事例報告会は、2006年に開催された第1回には17人の出席者の内5人がYPFメンバーという状況から始まった。2023年1月13日に開催された第17回には、27人の出席者の内21人がYPFメンバーというように参加者の構成が変化してきた。YPFは日本ICID協会の財政的支援を受けながら、YPFメンバーにより自主的に運営されるもの(谷山、2001)、という設立当時の目標に向かって発展してきたことが分かる。さらに、第17回のYPFメンバー21人中、15人が学生であり、現在の活動が1章で挙げたYPFの目的の1,2点目を果たせていることが分かる。また、これまでのYPFメンバーや事例報告会・勉強会での発表者の中から現在のICID日本委員会委員が多く輩出されていることから、目的の3点目についても貢献していることが分かる。
YPFの活発な活動を今後も続けていくためには、以下の2点が重要だと思われる。1)学生や若手の早期の参加。2)多様な組織からの参加。
1)については、YPFのメンバー資格が40歳以下という条件に起因している。年齢制限があるため、メンバーの年齢層が狭い場合、活動な活発な世代が卒業した後には活動を継続するのが困難になる。従って、学生や若手の早期の参加が重要である。
2)については、学生の参加者が増えた一方で、産(民間)や官(国研、公務員)からの参加者は限定されている。これについては、YPFの活動内容というよりも、活動を通じて構築された国内外のネットワークの意義付けを見直すことが必要かもしれない。今後、若者の数は減り続けるので、これまで以上に産官学の連携は重要となるはずである。
最後に、本報の執筆にあたり資料を提供いただいた日本ICID協会WG-YPFの木村匡臣代表に感謝申し上げます。
日本ICID協会HP:http://www.jiid.or.jp/ICID_kyoukai/