2023.3 MARCH 67号
農林水産省 輸出・国際局 新興地域グループ
1 はじめに
前号第66号の「アフリカにおける農林水産分野の取組―TICAD8に向けた課題―」においてアフリカにおける農林水産省の取組をご報告したところであるが、本稿では、2022年8月27日及び28日にチュニジアで開催されたTICAD8における農林水産分野の議論の状況及び我が国からの協力提案の内容等をご報告したい。
2 TICAD8会合の概要
チュニジア・チュニス市で開催されたTICAD8には、日本とアフリカ諸国(48か国が参加し、うち20名の首脳級が参加)の政府関係者に加え、国際機関、民間企業、市民団体等が参加した。新型コロナ感染症の影響の残る中、対面及びオンラインの併用で開催され、日本からは、岸田文雄総理大臣がオンラインで参加した他、総理特使として林芳正外務大臣が、共同議長を務めるチュニジア・セネガル両大統領と共に参加した。
会議では冒頭、岸田総理大臣より、TICAD8における我が国の取組として、今後の3年間で、「アフリカと共に成長するパートナー」として、「新しい資本主義」が体現する「人」に注目した日本らしいアプローチとして、「人への投資」、「成長の質」を重視し、官民合わせて総額300億ドル規模の資金投入を行うことを表明した。特に、ウクライナからの穀物輸出の停滞等によりアフリカの食料危機が深刻となっている中、既に表明済の約1.3億ドルの食料支援に加え、アフリカ開発銀行との約3億ドルの協調融資による食料生産強化支援及び20万人の農業人材育成を行うことが発表された。会議の最後に成果文書として「チュニス宣言」に合意するとともに、この具体的な取り組み内容を定める「チュニス行動計画」が公表された(文書は下記ウェブサイト参照)。
チュニス宣言:https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100386627.pdf
チュニス行動計画(英語版):https://ticad-monitor.org/wp-content/uploads/ENG-TICAD-8-Tunis-Plan-of-Actions.pdf
3 TICAD8における農林水産分野での合意内容
これらの成果文書における、農林水産分野に関連する合意事項を抜粋して以下に紹介したい。農林水産省としても、関係省庁及びアフリカ各国・国際機関・企業等と連携し、これらの合意事項の実行と、新たな課題への対策を検討・実施していく。
(1) チュニス宣言
ⅰ 農業・食料分野
・2022年のAUのテーマであるアフリカの食料安全保障と栄養におけるレジリエンスの強化を引き続き支援する。
・食料純輸入開発途上国への影響に対処するため、食料品に関する公正で開かれた世界貿易システムを維持する。穀物、農産物及び肥料の世界市場への輸出再開に向けた要請を行う。
・食料安全保障を確保するため、輸入に代わる農業生産の増加を支援する。農産物の付加価値を高め、収穫後のロスや食品廃棄物を減少させるため、輸送インフラ及びコールドチェーンを含む農村開発用のインフラに投資し、農村地域の所得向上に貢献する。
・気候変動及びグローバル・サプライチェーンの混乱に対して強靭なアフリカにおける持続可能な農業、食料システム及びバリューチェーンを支援する。
ⅱ 漁業・水産業分野
・漁業分野におけるバリューチェーンの構築を含むブルーエコノミーを通じて協力的な方法で経済成長を加速させる。
・海賊、違法・無報告・無規制(IUU)漁業その他の海上犯罪との闘いを含む海洋安全保障に関連する地域的及び国際的取り組みを促進する。
ⅲ 森林・環境分野
・気候変動並びに自然災害リスク、土地及び森林の劣化、廃棄物管理、プラスチックごみを含む海洋汚染、干ばつ、洪水、熱帯サイクロン、砂漠化、水ストレス、生物多様性の損失等の関連課題を含む環境問題に取り組む。
・グリーンインフラの整備や、災害管理、農業環境、森林環境、海洋環境及び土壌環境の分野における支援、生態系保全を含め、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)及びパリ協定の下での気候変動対策のための努力を継続する。
(2) チュニス行動計画
TICAD8において作成されたチュニス行動計画は、これまでの会議毎に作成された行動計画と異なり、2019年のTICAD7時に作成された横浜行動計画2019を、各関係者から取組の進捗状況を踏まえ、アフリカの発展に関与する多くの関係者とのパートナーシップ構築に資する内容を記載した形で再構成して作成された。また、今後は「TICAD Monitor」プラットフォームより、モニタリング・報告が随時行えるようになり、年1回とりまとめが行われることとなった。
このため、チュニス行動計画においては、3つの重点分野(柱1:イノベーションと民間セクターの関与を通じた経済構造転換の促進及びビジネス環境の改善、柱2:持続可能で強靭な社会の深化、柱3:平和と安定の強化)や全体構成は大きく変わっておらず、行動主体、分野毎における取組が数値目標を伴って記載(2のリンクより参照されたい。)されたものとなっている。我が国の農林水産分野での取組としては、専門家のアフリカへの派遣、人材育成、農業におけるイノベーションの促進やバリューチェーン構築などが記載されている。
横浜行動計画2019:https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/ticad/ticad7/pdf/yokohama_action_plan_ja.pdf
「TICAD Monitor」プラットフォーム:www.ticad-monitor.org