2022.8 AUGUST 66号
1 はじめに
日本水土総合研究所(JIID)は、日本が長年にわたり稲作振興に協力してきたケニアとタンザニア(図1)において、フードバリューチェーン(以下、FVC)の開発を考慮した農業農村開発に関する調査(以下、調査)1に取り組んだ。調査は、日本が国内外で豊富な技術的蓄積を有し、両国にとって重要な主食用作物であるコメのバリューチェーン(以下、RVC:Rice Value Chain)に着目し、それぞれの国について2か年間で実施(ケニア:2016年~17年、タンザニア:2018年~19年)した。
FVCとは、①農業生産に必要な農業投入財の供給→②農業生産→③農産物・食品の加工・保管→④輸送・流通→⑤販売という、フードチェーンの各段階で産み出される付加価値(バリュー)を連鎖させたものと定義される2。FVC開発のためには、①FVCの各段階(生産、加工・流通および販売)の開発による付加価値向上、②農家と実需者・消費者との情報共有・協力関係の促進による連鎖(チェーン)の強化、及び③これらを支える農村インフラの整備が重要な構成要素になると考えられる。
調査においては、RVCの各段階の現状、関連の資金協力や民間投資の状況、生産条件等を調査し、各段階におけるハード面(灌漑施設、農地、アクセス道路、集出荷・精米施設等)とソフト面(灌漑稲作技術、灌漑用水管理、農民組織化、加工・流通体制等)の対策を組み合わせた総合的な農業農村開発を検討した。本稿では、対象国のコメの生産と消費の概況を確認した上で、調査結果を報告する。
2 対象国のコメの生産と消費の概況
対象国の主な指標は表1のとおりである。両国ともに広い国土と耕地面積、多くの人口を有し、農業は重要な産業となっている。
項目 |
ケニア |
タンザニア |
国土面積(2018)※ |
5,804万ha注) |
9,473万ha |
うち耕地面積(2018)※ (国土面積に対する比率) |
580万ha (10.0%) |
1,350万ha (14.2%) |
人口(2019) |
4,760万人 |
5,800万人 |
一人あたりGNI(2019) |
1,750米ドル |
1,080米ドル |
GDPに占める農林水産業の比率 |
34.1%(2019) |
28.2%(2018) |
両国のコメの生産と消費の概況は表2のとおりである。両国ともに、コメは調理が簡便なこともあり、都市化や経済成長に伴い消費量が増加し、不足分を輸入しており、国内で増産を図っている。ケニアの収穫面積と生産量は少ない一方、タンザニアの生産量はアフリカ諸国の中ではエジプト、ナイジェリア、マダガスカルに次ぐ第4位の多さとなっている。単収については、ケニアは比較的高い値となっている一方、タンザニアは低い単収にとどまっている。コメは農家にとって自家消費作物と換金作物(都市住民の食用作物)の両方の側面を有している。
項目 |
ケニア |
タンザニア |
収穫面積 |
3.1万ha |
92.8万ha |
国内生産量(籾) |
12.5万トン |
219.5万トン (アフリカ第4位※) |
単収(籾) |
4.00トン/ha |
2.36トン/ha |
国内生産量の多い主食用作物※ |
トウモロコシ、ジャガイモ、サツマイモ、キャッサバ、小麦、コメ |
トウモロコシ、キャッサバ、サツマイモ、コメ、ジャガイモ、ソルガム |
一人あたり消費量 |
12.9kg/年 |
21.0kg/年 |
輸入量(精米) |
41.2万トン |
28.5万トン |
消費面に関しては、両国ともにコメはトウモロコシ、キャッサバ等とともに重要な主食用作物の一つとなっている。主食用作物におけるコメの位置づけに関しては、例えば一人あたり年間消費量でみると両国の間に差がある。
3 調査結果
3.1 調査対象地域の選定
ケニアにおいては、ムエア(Mwea)地域とビクトリア湖沿岸(Lake Victoria Basin)地域(両地域を合わせて国内コメ生産量の9割を占める)を調査対象とした(図2)。なお、ケニアの農業、RVCの現状、対象地域、調査実施状況等はARDEC58号の記事4に詳しい。
タンザニアにおいては、コメの主要産地であるムベヤ州及びモロゴロ州で予備的な調査を行った結果、円借款で実施されている「小規模灌漑開発事業(SSIDP)」との相乗効果やRVC発展の可能性、モロゴロ州に位置するソコイネ農業大学との調査協力やダルエスサラームとの近接性による調査実施の利便性等を考慮し、ワミ・ルヒンド(Wami Luhindo)地域を調査対象とした(図3)。
3.2 ムエア地域(ケニア)
(1) 現状
ムエア地域は、首都ナイロビ近傍に位置し、1980年代後半より我が国の稲作に関する経済技術協力によって灌漑施設や国立ムエア灌漑農業開発センター(以下、MIAD:Mwea Irrigation Agriculture Development Centre)が整備され、水田面積8,800haで国内のコメ生産量の8割近くを占めるケニア最大のコメ生産地帯となっている。ブランド米としての地位が確立し、販売価格の高いインディカ種の香り米(バスマティ米)が主に栽培され2012年から2017年に国際協力機構(JICA)による「稲作を中心とした市場志向型農業振興プロジェクト(RiceMAPP)」が実施され、水管理、営農普及、種子供給等を行うMIADの能力向上、栽培方法のガイドライン作成等が行われており、その土台を活用し、MIADと連携して調査を実施した。
(2) 調査の概要
RVCの川上にある灌漑施設は、すでに一定の整備がなされ、用水不足に対応するため円借款による水路等の拡張整備が進行中である。またバスマティ米のブランドが確立していることから、調査では水田農業の高付加価値化とポストハーベスト(収穫後の脱穀、輸送、保管、籾すり、精米等)の改善に焦点をあてることとした。具体的には、①ナイロビで一定の需要があるジャポニカ米のバリューチェーンの開発、②水田裏作への畑作物(ダイズ)の導入、③コメの集荷方法の改良等について実証調査を行った。調査に当たっては、「日本」との関係を重視し、①ジャポニカ米はナイロビでの日本食の拡大、②ダイズはケニアでダイズの生産・販売に取り組む日本人起業家との連携、③コメの集荷はスズキのキャリートラックによる試験運搬を行った。本稿では、ジャポニカ米のバリューチェーンの調査について報告する。
(3) ジャポニカ米のバリューチェーンの調査
①ショッピング・モールでの市場調査
ジャポニカ米の主な消費地として期待されるナイロビ市内において、潜在的な消費者として想定される中間所得層(欧米系、アジア系、及びケニア人)の嗜好を把握するため、2016年11月、ナイロビの中間所得層が多く利用するショッピング・モールで市場調査(計171名を対象とした聞き取り及びジャポニカ米の試食)を行った。結果は、全体の70%、ケニア人の49%がコメを主食とし、購入するコメの種類はバスマティ米が77%で、ジャポニカ米はアジア系住民を中心に7%であった。ジャポニカ米を食べたことのある人は全体の42%、ケニア人では21%となった。また、ジャポニカ米の試食では、「とても良い」と「少し良い」の評価が合わせて63%となった。このため経済がさらに発展し都市化が進み、販売促進策の強化等により日本食が広まればジャポニカ米の需要の増加が期待された。なお、この調査の内容はARDEC58号の記事5に詳しい。
②日本食レストランでの需要量調査
ジャポニカ米の現状の需要量と購入価格を把握するため、2016年12月、ナイロビ市内の日本食レストラン及び日本食品販売店の計12店舗と日本人駐在員11世帯を対象に聞き取りを行った。その結果、ナイロビにおけるジャポニカ米の現状の需要量は年間48~60トン程度であり、日本食の普及による今後の需要の伸びも期待された。価格については、日本食レストランの購入価格はウガンダ産(150~200KSh6/kg)、ムエア(MIAD)産(約190KSh/kg)、食料品店での小売価格は韓国産及びムエア産のジャポニカ米で300KSh/kgであり、ムエア産ジャポニカ米の一定の価格競争力が期待された。さらにMIADからジャポニカ米を調達している1店舗からムエア産ジャポニカ米の課題について聞き取りを行ったところ、精米後に異物やくず米を除去しなければならないこと、味や色、くず米・雑物の混入量などの品質にばらつきがあることが指摘され、ポストハーベストの改善が必要と考えられた。
③生産段階における収益性の検討
ムエア産ジャポニカ米の生産段階における収益性を確認するため、2017年6月~12月(稲の主作期である短雨期の1作)にMIADの試験ほ場(6区画で計約2ヘクタール(ha))において、JICA専門家が選抜した2つの品種(A種:背丈が高く登熟が遅く高収量の品種、B種:背丈が低く登熟が早い低収量の品種)について栽培試験を実施した。栽培方法・手順はRiceMAPPのガイドラインに従った。結果は表3のとおりであり、参考としてバスマティ米の推計値を併記した。ムエア産ジャポニカ米の単価を100KSh/kg(推定)とし、バスマティ米の単価を55KSh/kg(過年度の実績)とすると、1haあたりの概算の収益は、ジャポニカ米で28.8万KSh/haとなり、バスマティ米(19.1万KSh/ha)を上回る結果が得られた。なお、ムエア産ジャポニカ米のバリューチェーン7及び生産段階の費用と便益8についての詳細な分析は別途英文で報告されている。
品種 |
平均単収(籾) |
生産コスト |
売り渡し 価格 |
売上額 |
収益 |
A種 |
6.54トン/ha |
22.8万KSh/ha |
100 KSh/kg |
65.4万KSh |
平均 28.8万KSh |
B種 |
3.77トン/ha |
37.7万KSh |
|||
バスマティ米 (参考) |
5.93トン/ha |
13.5万KSh/ha |
55 KSh/kg |
32.6万KSh |
19.1万KSh |
実証調査の結果、現在はMIADの試験ほ場のみで行われているジャポニカ米の栽培を周辺の農家に広げることによって農家所得の向上につながる可能性が確認された。今後、MIADが中心となって調査・検討を進め、生産やポストハーベストの改良、販路の開拓等に取り組むことが期待される。
3.3 ビクトリア湖沿岸地域(ケニア)
(1) 現状
ビクトリア湖沿岸地域は、ムエア地域に次ぐコメの生産地帯であるが、コメのバリューチェーンについてはムエアに比べて大幅に遅れている。この地域の灌漑開発可能面積は32.7万haであるが、現状の灌漑面積は2.4万ha(灌漑率7.3%)にとどまっており、まずは灌漑開発を最優先で検討すべきである。この地域の水田開発は、1960~70年代にかけて国家灌漑庁(現NIA:National Irrigation Authority)によって行われ、いずれも河川等からのポンプ取水に頼っており、施設の老朽化が著しく慢性的な用水不足に苦しんでいる。このため、NIAでは、灌漑施設の改修や受益地の拡張を検討している。また、クジャ川下流地区等の大規模な新規灌漑開発が構想されている。
これらの地区のRVCの課題としては、灌漑施設の整備と適切な維持管理に加え、①灌漑稲作技術やその普及体制の改善、②種子、肥料、農薬、農業機械サービスを提供する生産者組合の強化、③農家が精米所まで収穫物を輸送できるようなアクセス道路の整備、④精米所設備の更新等が確認された。
(2) 開発計画の検討
こうした現状を踏まえ、農業灌漑省、NIAおよびビクトリア湖流域開発公社(LBDA:Lake Basin Development Authority)と情報収集・意見交換を行い、この地域の既存の灌漑開発計画のレビューを行い、コメを計画作物とする灌漑事業であること、事業実施主体が明確であること、事業実施後に灌漑稲作の展示効果が期待できること等を考慮し、地区の絞り込みを行った。そのうえで、現地調査を通じて地域及び農業者の意向、対策実施の緊急性、事業実施に向けた課題とその解決策が明確であること等を考慮し、①キスム郡における既存灌漑施設の改修計画、②ミゴリ郡のクジャ川下流域の新規灌漑計画の2つの開発計画を整理した。
①キスム郡における既存灌漑施設改修計画
NIAが実施したアヘロ地区及びウエストカノ地区については、受益地拡張のための新規水源確保には時間を要することから既存施設の改修を優先することとし、両地区の排水を利用して灌漑を行っているサウスウエストカノ地区を計画に含めた。
・対象:アヘロ地区(水田860ha)、ウエストカノ地区(水田890ha)、サウスウエストカノ地区(水田約1,200ha)
・概要:既存の水源(ポンプ)・用水路の改修、地区内道路の改修、乾燥場の整備、精米機の更新、水利組合の強化、農家への技術移転(作物生産・品質向上・販売、灌漑水管理、販売・資金確保等協同組合活動)
②ミゴリ郡における新規灌漑開発計画
ビクトリア湖周辺地域の南部に位置するミゴリ郡は、灌漑施設がほとんど整備されておらず、ケニア政府の灌漑開発の優先順位は高い。ケニア政府はすでにクジャ川の頭首工と水路建設に着手しており、速やかな事業推進が求められている。
・対象:クジャ川下流地区(約7,700ha、うち水田2,400ha)
・概要:頭首工・沈砂池・用水路・ため池の整備、用水路沿いのアクセス道路の整備、精米機の設置、水利組合の設立、農家への技術移転
これらの開発計画については2018年2月、ナイロビおよびキスムにおいて、ケニア政府機関、農家組合、精米関係者、日本大使館、JICA、本邦企業等が参加したセミナーにおいて報告し、意見交換を行った。現在、農業灌漑省において灌漑分野のJICA専門家の協力を得て、これらの計画の実施に向けた検討が行われていると聞いている。
3.4 ワミ・ルヒンド地域(タンザニア)
(1) 現況
本地域は、モロゴロ州の州都モロゴロ市から中央回廊沿いに北へ約30km、中央回廊から1.5kmのモロゴロ州ムボメロ県ダカワ郡ワミ・ルヒンド村(モロゴロ市から車で40分)に位置している。本地域では、ワミ川右岸に広がる約2,000ha の耕作適地のうち172haに対し、SSIDP等で取水施設と幹支線水路が整備され、その一部には2019年5月に送水が開始された。
現況調査については、タンザニア政府国家灌漑庁(NIRC:National Irrigation Commission)のモロゴロ州灌漑事務所、モロゴロ州政府、ムボメロ県庁、ソコイネ農業大学と連携して実施した。ソコイネ農業大学の協力を得て2018年11月に実施した農家への聞き取り調査9の主な結果は次のとおりである。
・ほとんどの農家は耕作面積2.4ha以下の小規模農家
・コメは主に天水で生産し、特に小規模農家の単収は0.3ton/haと極めて低い。
・生産したコメの30~40%は自家消費し、残りは仲買人に売却
・コメの価格は仲買人によって決定される傾向
・肥料の使用、収穫したコメの保管等によって農家所得が向上する可能性
(2) 能力開発プログラムの実施
開発計画作成に際しては農村インフラの整備に加え、水利組合の運営や灌漑稲作技術等に関する農家の能力開発が不可欠であると考えられたことから、能力開発プログラムの有効性を確認するとともに、関係農家の意識を向上させる観点から、①ワークショップ(研修)、②スタディ・ツアー(先進地視察)、及び③コンバインのデモンストレーション(新技術の展示)を実施した。プログラムを実施した後の2019年11月に実施した農家へのアンケートでは、回答者の7~8割はプログラムを有用であったと回答した。また、参加者からの回答のうち7割は、習得した知識を友人、隣人等と共有したいと回答しており、能力開発の波及的な効果も期待された。なお、能力開発プログラムの実施による農家の意向変化等の詳細は別途報告されている10。
①ワークショップ
灌漑稲作の改善に向けた能力開発の重要性について関係農家の意識向上を図るため、2019年10月にムボメロ県庁会議室において農家等関係者51名、ムボメロ県・NIRCモロゴロ州灌漑事務所・ソコイネ大学の関係者を参集してワークショップを開催した。ソコイネ大学研究者からは品種選定、栽培・水管理、施肥・農薬管理、ポストハーベストにおける留意点について説明が行われた。県庁担当者からは協同組合の基本原則や関係法令、組合設立のメリット(共同での資金調達、保険加入等)と手順、灌漑事務所担当者からは2013年国家灌漑法及び2015年国家灌漑規則の制定背景、重要事項について説明が行われ、参加者による質疑応答と意見交換を行った。
②スタディ・ツアー
ワミ・ルヒンド灌漑地区の関係農家が近隣の先進地区の農家から直接話を聞き、現地を確認し、意見交換するため、2019年10月に近隣のダカワ灌漑地区へのスタディ・ツアーを実施した。ダカワ灌漑地区はワミ・ルヒンド灌漑地区とワミ川を挟んだ対岸に位置し当時の実灌漑面積約2,000haで、アメリカ合衆国国際開発庁(USAID)の支援により灌漑施設やほ場の整備が行われている。また、オランダの民間組織から能力開発の支援を受けている。ツアーには農家および地元代表者20名及び関係者が参加し、ダカワ灌漑地区における協同組合の設立や運営の方法、灌漑施設の現状や管理運用方法、利用可能な支援等について状況を聞き、意見交換を行った。
③コンバインのデモンストレーション
ワミ・ルヒンド灌漑地区の関係農家約30名に対して農業機械化の効果を示すため、2019年9月、ムボメロ県が現地に設置した実験ほ場約0.4ha(1エーカー)においてクボタ社製コンバイン(60馬力。タイで製造)の説明と収穫の実演を行った。通常は10人で1日かかる刈り取り作業が約1時間で終了し、適期の収穫に有効であることが確認された。また、手刈りに対して収穫時の籾の損失も非常に少ないことが確認された。参加者にはコンバインの効率的な作業のためには、ほ場の区画拡大と均平が重要であるとの認識も広がった。また、同ほ場では多収量品種の灌漑・施肥による試験栽培がおこなわれ、2.85トン/haの単収が得られた。
(3) 開発計画の検討
能力開発プログラム実施後の農家アンケートにおいては、①灌漑用水の不足、灌漑施設の未整備、②病虫害、雑草被害、③資金調達のための金融機関の不足、④コメの価格が上昇するまで保管する倉庫の不足、⑤盗難や家畜による食害、⑥不安定なコメ価格、⑦洪水、⑧種子や肥料等の高価格などが営農改善の課題であると指摘された。現況調査とこの結果を踏まえ、表4に示した項目等から構成される開発計画を作成し、2020年1月に現地で開催したセミナーで農家代表や関係機関に説明し、意見交換を行った。今後、タンザニア政府内において検討が進み実現に向かうことが期待される。
項目 |
概要 |
|
農村インフラ整備(ハード) |
||
灌漑施設整備 |
ポンプ場からの導水路、支線用排水路、ため池、洪水防除堤等の整備 |
|
農地整備 |
地区内用排水路、地区内道路の整備 |
|
アクセス道路 |
収穫物の輸送の容易化、荷傷みの軽減等のための農地から中央回廊までの道路の整備 |
|
集出荷施設 |
収穫後処理の改善に向けた共同の保管倉庫、籾乾燥場所、精米設備の整備 |
|
能力開発(ソフト) |
||
灌漑稲作技術 |
農家の経験が不足している灌漑稲作・水管理技術の普及向上(移植、施肥等) |
|
水利組合 |
体制強化と灌漑施設の維持管理改善 |
|
協同組合 |
組合設立による共同での営農資金の調達、価格交渉力及び販売力の強化、品質と信用の確保 |
4 おわりに
調査では、ケニアとタンザニアにおける水田地域を対象にRVCの現状を踏まえた農業農村開発計画を検討した。その結果、いずれの地域においても灌漑稲作技術の普及や人材育成、灌漑施設・道路・集出荷設備といった農村インフラ整備が重要であることが確認された。また、RVCの発展段階によっては水田営農の高付加価値化が重要になると考えられた。整理した開発計画に位置付けた具体的な方策については、現地の関係機関によって必要な調査が継続され、手法の改善と現地への適用によって農家の所得向上につながることを期待する。
調査は、それぞれの国について2年程度の限られた実施期間であったが、実施にあたり日本のこれまでの協力実績を土台とし、現地の関係機関と連携することによって一定の成果が得られたと考えている。今回の調査に協力いただいたJICA専門家をはじめとする両国官民の関係者に感謝を申し上げる。
調査では、灌漑水田での稲作を中心に検討したが、アフリカには、雑穀(モロコシ、ミレットなど)、イモ類(キャッサバ、ヤムイモ、タロイモなど)、豆類(ササゲマメなど)などを取り入れた独特で多様な食文化があり、樹木作物(ココア、コーヒー、アブラヤシなど)や家畜(ウシ、ヒツジ、ヤギ、ラクダなど)も含めた様々な形態の農業が存在11している。稲作に限定しても、灌漑水田のほか天水畑、内陸低湿地、海岸低湿地、氾濫原といった場所ごとで異なる形態の稲作が行われている12。灌漑水田稲作をはじめとする各地の多様な営農形態に対し、現地の関係機関と連携し、実証調査と人材育成を継続することによって、アフリカにおける飢餓や貧困の削減につながることを期待する。