第1回世界かんがいフォーラムの概要
1. はじめに かんがい排水分野が関わる国際的な組織に、国際かんがい排水委員会(International Commission on Irrigation and Drainage:ICID)がある。これまでICIDは、毎年、常任委員会や各種作業部会および国際執行理事会を開催し、ICIDの政策・運営などに関する議論、技術・情報の交換などを行ってきた。一方、逼迫(ひっぱく)する世界の水需要のうち約7割を農業用水の利用が占めているという事実があり、かんがい排水分野に関わる我々には、より効率的な水利用を行うことで食料の増産と安定供給に資するという重大な責務がある。ICIDでは、農業用水の利用に関わるあらゆる人々が情報を共有することで、この使命を果たしていこうと2013年9月末から10月にかけて、トルコのマルディンにおいて「第1回世界かんがいフォーラム」を開催した。ここでは、その結果を報告する。 2. 国際かんがい排水委員会とは ICIDは、かんがい排水にかかる科学的、技術的知見により、食料や繊維の供給を世界規模で強化することを目的として設立された世界的な組織であり、1950年に設立された。現在の加盟国は96か国で、日本は1951年に閣議決定によって加盟している。また、ICIDは世界水フォーラム(WWF)など水に関する国際会議において一定の影響力を有していて、農業農村分野における日本の技術を提供できる国際貢献の場となっている。 ICIDでは国際執行理事会などと併せて、3年に一度、設定したテーマに関する集中的な議論を行う総会の開催やさまざまな論文発表の場としての地域会議を開催してきた。一方、農業用水に関わるあらゆる関係者が一堂に集まり、効率的な水利用について議論を行い、情報の共有が必要であるというガオ会長の強い思いから、2012年6月にオーストラリアのアデレードで開催された国際執行理事会において、総会を開催する前年に「世界かんがいフォーラム」を開催することを決定し、2013年9月末に第1回目を開催した。 3. 世界かんがいフォーラムの概要 第1回世界かんがいフォーラムは、シリア国境に近いトルコ南東部に位置するマルディンで2013年9月29日から10月5日に開催された。世界61か国、12の国際機関から、技術者、農業者、水管理組織、政策決定者、民間団体など約750人が参加した。フォーラムでは、「変動する世界におけるかんがい排水:世界食料安全保障への挑戦と機会」をテーマに論文の発表、各種ワークショップ、サイドイベント、ポスターセッションなどが行われ、最後に「マルディン・フォーラム宣言」と2016年のチェンマイ(タイ)での第2回フォーラムの開催を発表し、閉幕した。
4. ICID日本国内委員会主催によるワークショップ 農村振興局整備部設計課海外土地改良技術室が事務局を務めるICID日本国内委員会は、「農業用水に関わるあらゆる関係者が集まって議論する」という世界かんがいフォーラムの趣旨に賛同し、農業用水の持続的で効率的な利用を推進するため、開発途上国を中心に世界各国で実施されている末端水利施設の維持管理・水管理を農民が主体となって実施する「農民参加型水管理」(Participatory Irrigation Management:PIM)の取組みについて、ワークショップを主催した。 ワークショップでは、5か国(タイ、トルコ、エジプト、韓国、日本)の行政および水管理組織職員から各国の農民参加型水管理の状況を報告していただき、その後、今後の農民参加型水管理の在り方について、参加者全員で議論を行い、最後に宣言文を発表した。 日本からは、千葉県両総土地改良区の子安亮二総務課長に両総地区の水管理状況や土地改良区の活動について発表いただいた。また、農村振興局整備部設計課海外土地改良技術室宮崎雅夫室長から、「農地・水保全管理支払交付金」を活用した、非農家を含む地域住民による農地・農業用水に関する資源の保全管理と農村環境の保全向上の取組みを報告した。 5. おわりに ICIDの活動は、本年9月に韓国・光州で開催される総会に引き継がれていくが、その半年後の2015年4月には、同じく韓国のテグにおいて、第7回世界水フォーラムが開催される。3年に一度開催される世界水フォーラムでは、ハイレベル会合をはじめとして、水に関わるあらゆる分野の人々による議論の場が提供され、3万人以上が参加する世界の水議論の中心となっている。 これからの一年は、日本を含む水田農業を中心としたアジア・モンスーン地域の農業の多面的機能や水利用の実態について、改めて世界に情報発信する貴重な機会が続く。ICID日本国内委員会として、ICID加盟各国や国際水田・水環境ネットワーク(INWEPF)、国際水田・水環境工学会(PAWEES)とも連携を図りながら、かんがい排水分野からの情報発信、貢献を続けていく予定である。 |