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『資源争奪戦』── 最新レポート 2030 年の危機──

丸紅経済研究所 所長 柴田明夫著

 本書では、これまでの資源価格の乱高下の原因について、当時の世界の経済状況や現在の金融危機などとの関係から分かりやすく解説している。また、近年の資源価格の高騰に伴う中国、ロシア、EU、アメリカなどの主要国(地域)の資源の争奪戦や資源ナショナリズムの現状が説明されている。これらを受けて、石油を中心とする「地下系資源」から、それに代わるバイオエタノールなどの「太陽系資源」への移行の必要性と「太陽系資源」の利用に関する、各国の取組みについて紹介されている。最後に、人類が避けて通ることができない「地球温暖化」を取り上げ、温暖化と資源の関係について説明されている。また、温暖化や資源枯渇に対する日本企業の先進的な取組みについても、紹介されている。

  著者は、ここ数年の原油価格の高騰を「安価な資源(液体で濃縮されて掘りやすい特定の場所にある生産コストの安い油田)の枯渇」と「地球温暖化」という「2つの危機」に対し、対応を急げというシグナルと見ている。この「2つの危機」に対しては、省エネ・省資源・環境問題への対応、そのための代替材料や新エネルギーの開発を進め、現在の産業構造を高い資源価格時代に順応させる取組みが必要であるとしている。そして、これらの課題に取り組むためには、資源価格がある程度の高いレベルに維持されることが必要であり、中長期的には、消費国と産油国の当面の折り合いレベルである原油1バレル70ドルよりも、さらに高いレベルに移行するであろうと予測している。

  このような地下系エネルギー資源の供給不安から、注目されているのが、供給に不安のないバイオマスエネルギーなどの太陽系エネルギー資源であり、今後は、太陽系資源への切り替えが進められる必要がある。一方、ブラジルでは、バイオエタノール増産によるサトウキビ栽培の拡大が牧草地への大豆栽培を促し、大豆農家に牧草地を売った牧場主はさらにアマゾンの奥地に牧場を求めて森林を伐採しながら移動するという、玉突き的な「森林破壊のサイクル」が生じていると指摘している。また、中国では、エタノール生産が食料の安定供給を損ないかねないとの懸念から、第11次5カ年計画で、その原料をトウモロコシからキャッサバなど非食料へと多様化を図っていることなど、バイオエタノールに伴う負の影響についても紹介されている。

  水についても触れており、温暖化による異常気象の影響や新興国の人口爆発により、21世紀は、水戦争が深刻化するとしている。とくにアジア地域は、世界でもっともダイナミックに成長しており、中国を中心に水争奪戦が強まっていくとしている。深刻化する水不足・水汚染といった問題に対して、海水淡水化や水の再処理ビジネスが注目されており、環境技術を蓄積してきた日本企業の海外での活躍が紹介されている。

日本水土総合研究所 主任研究員 香山泰久
*かんき出版刊 本体価格 1600円

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