日本のエンジニアと共に働いて
タイ王国 農業・協同組合省 王室灌漑局
顧問 ワサン・ブーンカード
私の日本人との付き合いは30年近く続いています。初めて付き合った日本人は、私と同じ王室灌漑局で活動していた個別派遣専門家です。私は彼と親密に働き、彼のカウンターパート研修生として、初めて日本を訪問するチャンスを得ました。その後、国際協力機構(JICA)を通じた日本政府の技術協力である「灌漑技術センター(IEC)プロジェクト」が発足しました。
このプロジェクトでは、さまざまな技術の協力や移転が行われました。作業グループの一人として、私自身も担当分野で日本人専門家たちと密接に活動しました。これらを通じて、日本人の生き方や働き方を学びました。日本人専門家の大部分は勤勉で熱心でした。我々のIECプロジェクトが、農業土木学会の「上野賞」を受賞したのも不思議ではありません。上野賞が授与されたのは、ちょうどIECプロジェクトが終了した後で、研修プログラムで私が二度目に日本を訪問したのとほぼ同時期でした。そのため、研修の後で私はIECプロジェクトに関与していた専門家が一堂に会し、受賞を祝うパーティに参加しました。日本とタイのエンジニアがこのプロジェクトのために力を尽くしたことから、受賞は非常に光栄でした。
写真1 MWMSプロジェクトの技術交換プログラムで
同僚および日本人専門家とフィリピン国家灌漑庁を訪問
IECプロジェクトの後、別のJICAプロジェクトが発足しました。このプロジェクトは、王室灌漑局と農業普及局が連携する「水管理システム近代化(MWMS)プロジェクト」です。MWMSプロジェクトでは、作業グループの議長として、また副プロジェクトマネージャーとして活動しました。ここでもまた、日本人専門家は、事務所でも現場でも、勤勉で真面目かつ熱心に働いていました。末端灌漑整備部門と水利組織分野は、多くの農家と密接な関係を築き協同することが必要なので、彼らは、とくにこの2つの分野において農家の人々と熱心に活動しました。
写真2 同様のメンバーにて現地事務所を訪問(右側中央が筆者)
MWMSプロジェクトが終了する直前、私は副プロジェクトマネージャーであるとともに、王室灌漑局の技術審議官かつ維持管理部門の相談役でもありました。そのような立場の時、日本水土総合研究所(JIID)が、モンスーン・アジア、とくにカンボジア、ミャンマー、ラオス、ベトナム、タイにおいて、末端灌漑整備と水管理に関する調査・研究を行うために、日本の教授や研究者を派遣してきたため、彼らと知り合い、共同研究を行うことになりました。タイで研究の対象となった地域は、東北部のコンケンと南部のナコーン・シー・タマラートでした。学問的な領域を取り扱う教授や研究者が、各農家と密接な関係を築き協力することが成功の鍵であることを認識しているので感心しました。
彼らはバンコクに到着するとすぐ、研究対象となっていた地域へ急ぎ、農家の人々と時間を過ごし、学問的な知識を実践に移しました。文化の相違という障害がある地域でも、彼らは末端灌漑整備と水管理の技術が有効であるということを農民たちに示しました。JIID調査団の教授と研究者は技術面だけでなく、社会面でも力を発揮しました。私個人としては、社会面は技術面よりも困難だと思いますが、彼らは決して社会面を無視しませんでした。JIIDが実りのある成果を得たことは、疑いのないところです。
率直に言って、上述の日本のエンジニアとの経験から、私は彼らの生き方や働き方に深い感銘を受けています。彼らは勤勉で、仕事の目標達成のために真面目に誠実に努力します。それこそが、プロジェクトの主な推進力であると思います。
以下は、私の専門分野に関し、彼らと一緒に活動したことから学んだ技術の要約です。
(1) 流域/プロジェクトレベル管理のためのデータベース
(2) U字溝や用排兼用水路を導入した末端灌漑整備
(3) 末端灌漑管理に対する土地改良区の取組み
私は、王室灌漑局の灌漑大学で末端灌漑システムの設計について教えているので、(2)と(3)を講義に活用しています。(1)と(2)は技術関連であり、その移転は困難ではありません。しかし、(3)についてはすでに試行されていますが、現在のところ十分な成果が得られていません。これは持続可能な末端灌漑管理のキー・ファクターであり、大きなチャレンジです。(3)は地域の条件に合うように、ある程度は調整するべきです。持続可能な末端灌漑管理は、各農家との密接な関係と協力なしには実現しないということにも、留意しなければなりません。
現在、稲作国はネットワークを形成し結集する必要があります。そのため、国際水田・水環境工学会(PAWEES)や国際水田・水環境ネットワーク(INWEPF)などが設立されています。タイの王室灌漑局と日本の農林水産省は、長い交流の歴史があります。よい関係が継続することで、両組織の間で技術面での協力や交流が促されます。そうしたつながりは、新しくつくられたネットワークによって、とくに気象条件や文化的背景が似ている他のメンバーである国々への技術援助提供において、提携し促進すべきとも考えます。
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