デイヴ・レイ著by Dave Reay日向やよい訳
―CLIMATE CHANGE BEGINS AT HOME―
『異常気象は家庭から始まる』
脱・温暖化のライフスタイル
ゴア元副大統領の『不都合な真実』の出版やIPCC(気象変動に関する政府間パネル)の第4次評価報告書によって、「地球温暖化」問題が世間の注目を集めている。
「地球温暖化」の現状や今後の見通しについてはIPCCの報告に詳しく、『ニュートン』誌2007年8月号(ニュートンプレス発行)でも特集記事を掲載して、IPCC報告の内容をわかりやすく解説している。
ところで、地球温暖化は、私たちの豊かな生活の反映として生じているものであるが、各家庭から排出される温室効果ガス(二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素など)の実態はどうなっているのだろうか。
本書は、地球温暖化とは何か、温暖化と私たちの暮らしはどういう関係にあるのかといった基礎知識や現状分析から、急激な温暖化による将来の惨禍を防ぐにはどうすれば良いかという対策までを、アメリカの平均的な家庭を事例として、わかりやすく解説している。
著者は、英国エディンバラ大学所属の気象学研究者で、温室効果ガスが環境に及ぼす影響を広範囲にわたって調査している。このため、排出削減の問題を、情緒的あるいは感覚的に述べるのではなく、具体的な数値を使って説明しており、理解しやすい。
平均的な家庭の年間温室効果ガス排出量(毎年39t)の半分近くを占めるのは「移動」に関するもので、年間20.5tに達する。通勤、買い物、子供の送り迎えなどの車での移動に加えて、飛行機での出張や家族旅行などに伴い大量のガスが排出される。とくに、1人で大型SUVを通勤に使えば、年に12tものガスが排出される。なお、車からの排出量は、大型車を小型車やハイブリットカーに代えることで50%の削減が可能だという。一方で電気自動車はハイブリット車よりも大きな削減効果が期待できそうだが、動力のもととなる電力はほとんど化石燃料を使って発電したもので、単に自分の車から火力発電所に排出源を移しただけの意味しかないとしている。
次に多いのが、家庭でのエネルギー使用で13t。なかでも室内の冷暖房の割合が高い。アメリカの標準的な家庭を暖房するのに、毎年、約4tが排出される。冷房でさらに1t。暖房温度を1℃下げ、あるいは冷房温度を1℃上げるだけで、年間排出量が0.3t減少する。また、ほとんどの家庭では電気製品の待機電力だけで、消費電力の10%以上を食いつぶし、毎年0.75tを排出している。なお、最新式の電気製品はエネルギー効率が上昇し、消費電力は少なくなっているが、新しいものに買い換える場合には、製品の製造にもエネルギーが使われていることから、単純に温室効果ガスの排出を抑えられるとはいえないという。
三番目に排出量が多いのが食品関連で4.5t。今日、私たちは、スーパーマーケットで世界中の農産物を手に入れることができる。たとえばワインはフランス産、チーズはデンマーク産と。穀物でさえ、世界中を飛び回って流通している。このような農産物の輸送は、大量の温室効果ガスの排出をもたらす。また、最近の農業は、化学肥料の大量投入や農業機械の使用により、ただでさえ多くのエネルギーを使っている。さらに、肉や乳製品は穀物を飼料として生産され、エネルギー効率が悪い。家庭で肉と乳製品の消費量を減らすことで、排出量は最大30%削減できる。とくに輸入農産物の消費を減らし、フードマイレージの少ない食品を利用すること(いわゆる地産地消)によって、最大90%の削減が可能である。このため、すべての食品にフードマイレージを表示した方がよいと筆者は提案している(この提案は、現在のグローバルな農産物貿易に、地球温暖化防止の観点から警鐘を鳴らすものとして注目できよう)。
最後に、家庭のゴミから排出される量が1t。ゴミの内訳で最大のものは有機廃棄物。これが埋立処分場に運ばれると、大量のメタンが発生する。しかし、有機物は堆肥化して活用すれば、排出ガスの削減が期待できる。全廃棄物の3分の1は紙やプラスチックの包装材料で、使用量を減らし、リサイクルをすれば排出ガスの削減につながる。ガラスや金属のリサイクルも、大きな効果があるという。
その上で、「小さな車を持ち、フードマイレージの少ない食品を食べ、効率の良いボイラーを使う。ゴミはリサイクルのために分別し、飛行機旅行は避け、待機電力には天罰を下す」といった取組みを徹底すれば、家庭からの温室効果ガス排出量を60%以上削減することが可能だとしている。
「私たちは、1950年代以前の暮らし方に単に後戻りすることはできない。実際、そんなことをしたい人は、ほとんどいないだろう。バラ色の色眼鏡ごしに過去を振り返って、人生がもっと単純だった時代にあこがれるのは簡単だ。しかしそれでは、先進国のいたるところで私たちがいま享受している、テクノロジーや医療、食生活、生活水準の大きな前進を無視することになる。とはいうものの、この息を呑むような発展の代償が、温室効果ガス排出の莫大な増加なのだ」とも述べている。
著者は、地球温暖化が進行した場合に、その被害(海面上昇、洪水被害、農作物の不作、医療費の増大など)を防ぐために必要となる費用は、現在の排出削減のための費用よりも、更に莫大なものとなると予測している。そして「政治家が手をこまねいて最悪の事態を待っている間に、私たちは生活のあらゆる領域で地球温暖化との戦いに取組むことができる」ことを、身近な家庭生活の事例から具体的に論証している。
本書を読むと、難しいとされる温室効果ガスの削減も、家庭でのライフスタイルの改善によって、十分に可能だという気がしてくる。著者は、「気象変動で最も心が痛むことは、いったんはずみがつくと容易には止まらない」とし、将来の世代に負の遺産を残さないよう、現代の我々が賢明なライフスタイルを選択することを強く求めている。
(社団法人 農村環境整備センター 専務理事 大串和紀)
日本教文社刊 本体価格1524円 |