〜シエラレオネ国カンビア県農業強化支援プロジェクト〜
開発支援を通じた平和構築
独立行政法人 国際協力機構(JICA)
農村開発部 第三グループ乾燥畑作地帯
第二チーム長 花井淳一
1.プロジェクト実施の背景と経緯
シエラレオネはアフリカ西部に位置し、北海道とほぼ同じ面積(7万1740km2)、人口(530万人)を有する小国である。ダイヤモンドやボーキサイトといった鉱物資源に恵まれ、コーヒー、カカオ、コメを中心にかつては農業生産も盛んであった。しかし、10年以上続いた内戦によって国家経済は壊滅的な影響を受け、同国の一人あたりGNI(国民総所得)は210ドル(2004年)、人間開発指数(HDI)は177か国中176位(2003年)となっている。
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写真1 アップランドにおける焼畑(稲)。このほかメイズ、落花生、キャッサバ、トウガラシなどが栽培される
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写真2 ボリランドにおける稲作。ボリランドは河川をもたない湿地で乾期には乾燥する。トラクターにより耕起し、直播が行われる |
主食であるコメの国内生産量は内戦直前(1990年)に54万トンあったが半減し、2003年の時点で総供給量44万トンのうち21万トンを輸入に依存している。このため復興プロセスにおいては、貧困削減に直結する農業部門の再興とその支援策の構築が重視され、2005年3月に発表された「貧困削減戦略書(SL-PRSP)」においても農業部門の強化を通じた「食料安全保障」の推進が貧困削減戦略の3本柱の一つとなっている。
このような状況を踏まえ、伝統的なコメの生産地である北部のカンビア県を対象に、食用作物の生産増大を目指した技術協力プロジェクトが我が国に要請された。この要請に対して、独立行政法人国際協力機構(JICA)は2005年7月に事前調査を実施し、その後関係者との協議を重ねた結果、農業支援体制の強化を通じた食料増産が必要であるとの結論に至った。
写真3 マングローブスワンプにおける稲作。広大な面積が人力で耕起され、田植えが行われる
以上の経緯を経て、2005年11月に「カンビア県農業強化支援プロジェクト」に関する「討議議事録」が両国間で署名・交換され、2006年2月より3年間の予定で協力が開始された。
図1 プロジェクト対象地域 カンビア県
2.対象地域の現況
本プロジェクトの対象地域であるカンビア県(3100km2)は7つの行政区分(チーフダム)から構成され、農業生態的にはマングローブスワンプ、内陸スワンプ、ボリランド、アップランドの4つに大きく区分される。総作付面積は約4万5000ha(2003/04年)であり、そのうちの71%をコメが占めている(全国の稲作総面積の10%に相当)。カウンターパート機関は農業森林食料安全保障省(MAFS)傘下のカンビア県事務所とロクープル稲作研究所である。MAFSカンビア県事務所は作物栽培、畜産、森林、土地・水資源及び計画・評価・統計の5部門からなり、専門技術員の監督の下、21名の普及員が県全域をカバーしている。ロクープル稲研究所は、かつての西アフリカ稲作研究の中心的な存在であり、現在33名のシニア研究員を擁している。両機関とも電気、水道などのインフラが内戦で破壊され、その整備が緊急の課題となっている。
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写真4 MAFSカンビア県事務所。発電機から事務室へのケーブル敷設工事がまもなく行われる予定 |
写真5 ロクープル稲研究所の実験圃場。内戦時、首都フリータウンに避難していた研究者が徐々に戻りつつある。 |
図2 プロジェクト概念図
3.プロジェクトの概要
本プロジェクトの目標は「カンビア県において農民を主体とした農業技術支援体制が強化される」ことであり、上位目標として「同県において食用作物が増産され、食料安全保障に寄与する」ことを掲げている。プロジェクトの基本的な流れは以下のとおりである。
(1)プロジェクト前期では、稲作と畑作の改善技術をとりまとめた農業技術パッケージや普及用マテリアルの作成をカウンターパートと共同で行う。この過程においては、基礎調査手法、データ収集・解析手法、普及員への指導手法などが技術移転の主体となる。同パッケージは栽培から農産物の販売まで一貫した包括的なものを想定しており、それぞれの技術改善案はモデル農家におけるパイロット事業を通じて検証を行う。モデル農家はパイロット地区3村落から各20戸、計60戸程度を選定する。
(2)プロジェクト中期では引き続きパイロット事業の評価・モニタリングを行い、その結果に基づいて農業技術パッケージの修正を行う。また、同パッケージをカンビア県全域へ面的に拡大するための方策を検討し、併せて農業支援ガイドラインとしてとりまとめる。
(3)プロジェクト後期では、普及員やモデル農家を中心にパイロット地区での普及活動を行い、同ガイドラインの検証を行う。
写真6 パイロット地区の一つであるマコト村。マングローブスワンプに位置し、
雨期には集落内の至るところに苗床(写真では道の両側)が見られる。
4.プロジェクトの進捗および今後の展望
本年3月に専門家3名が現地入りして以来、プロジェクトの活動方針等についてカウンターパート機関との合意を形成するとともに、カンビア県内のパラマウントチーフ(伝統的首長)や農民をまじえた参加型ワークショップを開催し、同県の農業を巡る問題や対応策について協議・分析を行った。現在はベースライン調査を実施中であり、21名の普及員が2000戸の農家を対象に営農状況、家計等を中心に聞き取り調査を行っている。
今後は同調査結果をもとにカンビア県における農業開発の方向性を検討するとともに、農業技術パッケージや普及用マテリアルを作成し、モデル農家でのパイロット事業においてその有効性を検証していくことになる。また、同県で行われている、教育を通じたコミュニティ強化案件「子供・青年支援調査」との連携(学校農園の活用など)も検討されている。
“This project is very unique.”MAFSカンビア県事務所長の弁である。科学的なデータに基づき、現場の視点に立って共に解決策を考えようとする日本人専門家の姿勢は、トップダウン的な欧米ドナーを見てきた先方関係者の目に新鮮に映っているようである。厳しい生活環境のもと日夜業務に邁進する専門家チームに敬意を表するとともに、今後のますますの活躍を期待したい。 |