国連食糧農業機関による復興支援
国連食糧農業機関(FAO)日本事務所
副代表 国安法夫
復興支援には、大きく分けて戦乱・内戦などからの復興を図る平和構築活動と自然災害による被害からの再建を助ける災害復興活動の2種類があります。FAOでは従来活動の中心に据えてきた開発途上国における食料不足人口の削減を目指す生産、流通、行政などの改善を支援する活動に加えて、近年、これら復興活動に力を入れてきています。
とくに、冷戦後の国際社会ではアフガニスタン、イラクやスーダンをはじめ多くの国や地域で、紛争などを原因とする大量の難民が発生し、平和の構築への対応が求められています。また、2004年12月に発生したインド洋津波災害で多くの死者・行方不明者が発生するとともに、社会基盤が深刻な打撃を受けるなど、洪水・台風・地震などの自然災害への対応も国際社会の大きな課題となっています。
日本政府からの支援によって行っている事業を中心に、以下にFAOが実施しているこれらの活動についての紹介を行うこととします。
図1 人間開発指数(HDI)と紛争・内戦の関係
1.災害復興活動
多くの人命を奪い、農漁業などに多大な被害をもたらした2004年末のインドネシア・スマトラ島沖大規模地震とそれに伴うインド洋津波災害に続き、パキスタン北部地震、インドネシア・ジャワ中部地震など、毎年、大規模災害が起こっています。これらの災害では、被害から立ち上がるだけの資源・資産を持っていない脆弱な貧困層が一番大きな影響を受けることから、彼らを主な対象とした災害復興と防災体制の整備に関する支援が、もっとも必要とされています。
FAOでは、国際機関の特徴である緊急活動の実施、広範な協力体制の整備を最大限に生かし、世界食糧計画(WFP)・国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)・世界保健機関(WHO)・国連開発計画(UNDP)など、他の国際機関はもとより、被害国内外のNGOなどとも連携を取り、対策を講じています。
自然災害からの復興に関して、FAOでは近年日本政府の拠出により、以下の国々で支援活動を行ってきました。
・インド洋津波被災漁村・農村緊急復興事業(2005年1月17日〜12月31日):
インドネシア・スリランカ・タイ・モルディブのインド洋沿岸4か国における漁船の修理、漁具・農具・種子などの提供と技術指導
・インド洋津波被害対策(2005年1月28日〜):
FAOに拠出している「アジア地域SPFS(食料安全保障特別事業)支援事業」予算の一部を活用した、インドネシアとスリランカにおける農漁業の被災状況の把握と復興計画の策定
・インドネシア・ジャワ島中部地震被害対策(2006年6月16日〜):
FAOに拠出している「アジア地域SPFS支援事業」予算の一部を活用した被害・ニーズ調査および農業資材の提供
写真1 モルディブでのFAOの活動状況
《例−1》インド洋津波被災漁村・農村緊急復興事業
2004年12月26日に起こったスマトラ島沖大規模地震とそれに伴うインド洋津波による被害は、その後2005年3月28日に同じくスマトラ島東部を襲った地震・津波の再発生と相まって、アジア・アフリカ各国に20万人を超える死者・行方不明者を出すなど、広範囲に多大な被害をもたらしました。農林水産分野においても、海岸部の貧困農漁村での被害が顕著であり、貧困・飢餓の拡大が危惧されていました。
このためFAOを含む国連機関では1月6日に「インド洋沿岸国での地震・津波に関する共同アピール」を発表し、それに応えて日本政府は、津波被害が大規模だったインド洋沿岸の4か国(インドネシア、タイ、スリランカ、モルディブ)の被災漁村・農村に対して500万ドル(約5.5億円)の拠出を行い、農漁業再開のため、漁船・漁具等の緊急修理・供与、養殖業の機能回復、種子・肥料等の緊急供与などの復興事業を緊急実施しました。
2.平和構築活動
戦乱・内戦の被害を受けた人々の圧倒的多数は、農業で生計をたてている低所得国の住民です。そして、紛争によって生じた飢餓などによる間接的な死亡者数が、直接的暴力による死亡者数を上回っている事例が多くあります。
FAOは国連で唯一の食糧農林水産分野における総合的な機関として、貧困と飢餓の削減を通じ世界中で戦乱・内戦からの復興、被災民のための食糧自給促進を支援し、平和構築に寄与する活動を進めています。
とくに、日本政府の支援により近年以下の国々で紛争被災民に対する支援援助を行ってきました。
・スーダンのダルフール地域における紛争被災民への食糧増産援助事業(2004年11月1日〜05年9月30日)および南部地域における紛争被災民への貧困農民支援事業(2005年7月26日〜06年7月25日)
・スリランカの国内避難民・貧困農民に対する食糧増産援助事業(2004年4月1日〜06年8月31日)
・ハイチの被災民向け食糧自給促進・食糧増産援助事業(2004年12月1日〜06年12月31日)
・フィリピンの最貧困・紛争地域ミンダナオへの食糧自給促進事業(2005年3月1日〜07年2月28日)
図2 飢餓人口と紛争・内戦の関係
写真2 地雷で右足を失った農民(カンボジア)
《例−1》スーダン・ダルフール地域における紛争被災民向け食糧増産援助
チャドと国境を接するスーダン西部のダルフール地域では、内紛により多くの国内避難民が発生し、深刻な食糧不足を引き起こしており、これに近年発生している干ばつも追い打ちをかけています。
このような状況を改善するため、FAOは日本政府から約50万ドル(5500万円)の拠出を得て、ソルガムおよびミレットなどの穀物の種籾、トマトなど野菜の種子および農具を配布する食糧増産活動を行っています。本事業を通じ、紛争と干ばつに困窮するダルフール地域の避難民の食糧不足を改善するとともに、彼ら自身による食糧自給と経済的自立の回復が期待されています。
図3 ダルフールにおけるプロジェクト対象地域(拡大図の黒色部)
写真3 トマトの植付け作業
《例−2》フィリピン・ミンダナオ島における国内避難民の食糧自給促進
写真4 種子・肥料を受け取る婦人グループ
ミンダナオ島は、紛争により多くの難民を抱えるとともに貧困人口がフィリピンで最も多い地域で、主要食糧の生産向上による食糧不足の軽減と所得の向上が喫緊の課題となっています。
本事業は、日本政府から約190万ドル(2億円)の拠出を得て、今まで紛争の渦中にあった村落レベルまで踏み込み、現場に精通した現地NGOや現地政府の持つ農業ノウハウの活用を最大限図り、持続的かつ資源循環型の農法の導入定着を図るものです。具体的には、種などの供与(この地域の主要食料であるトウモロコシ、キャッサバ、野菜、果樹)、小家畜生産の推進と農業・販売指導などを一体的に実施します。
FAOの知見の活用をベースに、食料生産体制の整備と所得の向上を核とする地域振興を通じ、地域の安定ひいては和平プロセスの定着に寄与することが期待されています。
図4 フィリピン・ミンダナオ島におけるプロジェクト対象地域(図の黒色部)
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