「OECD農業と水に関するワークショップ:
                 持続性、市場化及び政策」の開催

農業工学研究所 用水管理研究室長 山岡和純

 OECD(経済協力開発機構)とは、ヨーロッパ諸国を中心に日・米・カナダ・豪州・韓国など、30か国の先進国が加盟する国際機関で、1948年に設立され、本部はパリに置かれています。経済成長、貿易自由化、途上国支援への貢献を目的に、専門家が経済分析や検討を行い、毎年、先進国首脳会議(サミット)の1か月ほど前に、全加盟国の大臣が出席する閣僚理事会を開催します。
  2001年に開催されたOECD環境大臣会合では、環境に影響を与える三つの主要な経済分野の一つに「農業」を、また、三つの環境問題の一つに「水」問題を位置づけた「21世紀初頭の環境戦略」が採択されました。これを背景に、2008年のOECD閣僚理事会への報告を目指して、2005年11月14日から18日までの間、オーストラリア政府の提案により、同国南部のアデレード市およびバーメラで、OECD農業と水に関するワークショップが開催されました。
  ワークショップには、OECD加盟国から17か国92名、非加盟国から3名、17国際機関などから26名(出席者登録ベース)が参加しました。日本からは5名が参加し、和光大学の小林弘明教授と農業工学研究所の山岡がそれぞれ経済および環境の観点から論文発表を行いました。
  OECDでは、以前から農業環境合同作業部会のもとで、農業環境指標(農業および農業政策が環境に与える影響を評価するための指標)の開発作業が進められており、農業用水の利用が水量と水質との両面から環境に対して与える影響について、専門家間で議論されてきました。
  ワークショップでは、農業は、肥料の過剰投入や家畜糞尿の不適切な処理がもたらす窒素分による地下水の汚染により、水質汚濁の原因者となるなど環境に負荷を与える一方で、水田や灌漑排水の水路、ため池などが湿地や水のネットワークとして機能し、動植物相が豊かな二次的自然環境や健全な水循環を形成するなど、生態系や環境の保全に貢献していることが我が国をはじめとする研究成果によって認識されました。
  そして、専門家の間で議論の末、農業の水資源に対する影響は、経済、社会、環境の各分野間でプラス面とマイナス面が組み合わさっているトレードオフの関係を含むことが確認されました。また、水資源を効率的かつ持続的に利用するためには、水の価格構造の改善、水取引の制度の普及など市場原理の一層の利用が重要であること、しかし、それだけに頼らず、環境に対する正負両面の外部経済(市場原理では評価できない価値)を考慮し、水の利用に関する適切な政府の規制や自発的な節水など水利用者の協力を伴うべきであること、さらに、農業と水の問題に関する今後の調査研究と監視および各国の水に関する政策改革の評価を強化すべきことなどが確認されました。
  これらの結論は、農業環境合同作業部会での議論において専門家からの勧告として活用することとされ、各国における適切な農業用水の利用・管理に向けて貢献することが期待されています。

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