第4回世界水フォーラムとINWEPFについて
農林水産省農村振興局水利整備課
渡邊史郎
国際水田・水環境ネットワーク(International Network for Water and Ecosystem in Paddy Fields:INWEPF)は、第3回世界水フォーラムを受け、我が国のイニシアティブにより設立された、水田農業国などをメンバーとする国際コンソーシアム(共同作業グループ)である。
INWEPFは、設立されて間もない「組織」であるため、皆様のなかには、その名称や活動についてご存じでない方もいるかもしれない。そこで、第4回世界水フォーラムの開催を控えたこの時期に、改めてINWEPFの設立経緯や現在までの取組について紹介するとともに、あわせて第4回世界水フォーラムでのINWEPFの対応方針についても説明したい。
1.第3回世界水フォーラムにおける「水と食と農」大臣会合
第3回世界水フォーラムは、2003年3月に京都、滋賀、大阪を会場として開催された。このフォーラムには183の国、地域から2万4000人を超える参加者があり、閣僚級の国際会議の他、水に関する各種セッションやフェアなどが開催され、世界最大規模の水に関する国際会議となった。
農林水産省もこのフォーラムに積極的に参画した。アジアモンスーン諸国の灌漑の多様性などに関するセッション「農業、食料と水」の開催や我が国の水田農業などについてのパネル・模型の展示、公演などを実施した「水と食と農フェア」の開催などを行ったが、最大の取組は、39の国と10の国際機関が参加して実施された「水と食と農」大臣会議の開催であった。
これは、第3回世界水フォーラムの「特別なプログラム」として、農林水産省とFAOの共催により実施されたもので、会議の成果として3つの挑戦(「食料安全保障と貧困削減」、「持続可能な水利用」、「パートナーシップ」)に基づく大臣勧告文を採択した。また、会議の結果は、第3回世界水フォーラムの閣僚級国際会議にも報告され、大臣勧告文の趣旨は閣僚宣言文にも反映されたところである。
「水と食と農」大臣会議の後の記者会見では、会議の議長を務めた大島農林水産大臣(当時)から、採択された大臣勧告文を踏まえ、アジア地域の水田農業国のネットワークの構築・情報発信を目指した国際コンソーシアムの創設が提案された。
これは、農業用水については、従来から乾燥地や半乾燥地における議論が主流となっている状況を踏まえ、世界の水利用の約半分を占めるアジアモンスーン地域の水田灌漑について、関係国や関係機関が共同で研究促進や情報交換を行い、体系的な知見の整理を行うとともに、世界の水議論の場での情報発信を通じて、世界の水利用の多様性に関する相互理解を深め、3つの挑戦の実現に貢献しようとするものである。
この提案がINWEPFの創設につながったものである。INWEPFが第3回世界水フォーラムの成果であるといわれるのは、このような経緯による。
2.INWEPFの設立から現在に至るまでの活動
(1)準備会合の開催
INWEPF設立の第1ステップとして、2004年2月に東京において非公式準備会議が開催された。これは、設立について、参加国・機関などの賛同を得るとともに、具体的な推進方策(枠組みや議論すべきテーマなど)について意見交換し、今後の方針を決定することを目的として実施されたものである。韓国、中国、インドネシア、フィリピン、タイ、スリランカをはじめとする9か国と関係する国際・国内機関が参加して開催され、11月に設立会議を開催することなどが合意された。
(2)第1回運営会議
設立準備会議の結果を受けて準備作業を進めた後、2004年11月2日に第1回運営会議(設立会議)が東京にて開催され、INWEPFが正式に発足した。
運営会議には、13か国(中国、韓国、マレーシア、カンボジア、スリランカ、ネパール、インドネシア、タイ、ベトナム、ミャンマー、フィリピン、ラオス、日本)と、ICID(国際灌かんがい排水委員会)をはじめとする国際機関などが参加し、INWEPFの規約や初年度の行動計画などについて承認が行われ、INWEPFが取扱うべきテーマとして3つのテーマが設定された(下記のテーマ1〜3で、第2回運営会議の際にテーマ4が追加)。
テーマ1: |
社会的、文化的、経済的観点を踏まえた、貧困の軽減と食料安全保障に資する効率的かつ持続可能な水利用の検討。 |
テーマ2: |
水田の多目的利用と生態系保全機能の検討。 |
テーマ3: |
参加型水管理およびキャパシティビルディングを含む水田の持続的な水管理の改善に資する良好なガバナンスの検討。 |
テーマ4: |
政策の作成、決定、プロジェクトの運営(計画、建設、維持管理)に対する農家や関係者の参加。 |
また、参加国等を集めた運営会議を年1回、関係国の持ち回りにより実施することが決定された。
(3)第2回運営会議
第2回運営会議は、2005年11月3日に韓国ソウル市で開催された。会議にはバングラデシュとエジプトが新たなメンバー国として参加し、参加国総数は、15か国になった。会議では、初年度の活動報告のほか、第4回世界水フォーラムに向けたINWEPFの取り組み方針についての議論を行った。また、第3回運営会議をマレーシアが主催することも決定された。
以上、運営会議の実施について紹介したが、INWEPFの定常的活動についても触れておきたい。前述のとおり、INWEPFは関係者の情報共有や情報発信を大きな目的としており、次のような活動をINWEPF日本事務局(農村振興局水利整備課)が中心となって行っている。
[1]各種国際会議における活動の紹介
各種国際会議などにおいてINWEPFの活動やアジアモンスーン地域の水田農業の紹介等を行っている。2005年1月には、FAOが主催した「食料と生態系のための水」国際会議(オランダ)に参加し、INWEPFのサイドイベントを開催した。また、同年4月に国連本部で開催された第13回国連持続可能な開発委員会の場でも、国土交通省主催のサイドイベントでINWEPFの活動を発表した。
[2]バーチャルミーティングの実施
バーチャルミーティングとは、インターネットを活用した仮想の会議室を設定し、ウェブ上で参加者の「会議」を行うもので、INWEPF活動の一つとして位置づけているものである。農業工学研究所がサイトの管理を行っており、2005年9月〜10月にかけて実施したバーチャルミーティングでは、「モンスーンアジアにおける水田農業の多面的価値」をテーマとして議論を行ったところ、150名を超える参加者(発言者)を得て実施された。
[3]ニュースレターの発刊やウェブサイトの運営
メンバー間の情報の共有、活動状況の広報などを目的として、ニュースレターを定期的に発刊している。
また、INWEPFの規約や活動、バーチャルミーティングの議論の結果など各種情報について、ウェブサイトに掲載している。(URL:http://www.maff.go.jp/inwepf/jp/ index_jp.htm)
3.第4回世界水フォーラムに向けた対応方針
第4回世界水フォーラムにおいては、第3回世界水フォーラムの活動成果であるINWEPFを前面に打ち出して、その国際的な認知を広めていくことが重要であると考えている。
そのため、農業用水の多面的機能についての認識を共有しているICIDアジア作業部会と連携したセッションを開催し、アジア地域の農業用水利用の特質と多面的役割などについて改めて世界に発信することとしていている。具体的には、第2回運営会議において議論し作成した「INWEPFのメッセージ」をセッションの場で発表することを予定している。
また、フォーラム会場を訪れる一般の方にもINWEPFの活動や水田農業の特質を理解してもらうため、展示ブースを利用したパンフレットの配布やパネル展示等の活動も行う予定である。
4.さいごに
INWEPFは、その設立からちょうど1年が経過した。この間、組織立上げのための取組を中心に行ってきたところであるが、2回の運営会議(日本、韓国)の開催を経て、今後はINWEPFの活動をより本格化させていく活動が必要になると考えている。第4回世界水フォーラムでの取組を契機としてINWEPFの活動をさらに盛り上げていきたいと考える。
INWEPFからのメッセージ
“米のための水システムは生命と環境を維持するためのキーストーンである”
1.我々、国際水田・水環境ネットワーク(INWEPF)は主張する。米のための水システムはアジアモンスーン地域の多くの農村の水辺において、人間の生活と資源環境を維持するために非常に重要であり、それによって地球規模の水問題を解決することに貢献している。我々はメキシコで2006年3月に開催される第4回世界水フォーラムに出席する公私の代表者に下記のINWEPFの声明と勧告について考慮することを要求する。
2.農業は淡水の最大の使用者であり、世界の水利用の70%、アジアの80%を占めている。水は広範な農業農村開発に非常に重要であり、急激に増加し変化する世界の食料需要のもと、食料安全保障を改善し、貧困を減少させ、環境を保全することによりミレニアムゴールを達成するために水管理は改善されるべきである。
3.アジアモンスーン地域では、世界人口の半数以上が生活し、米が最も重要な穀物である。多様な便益を供給する米のための最も重要な水システムは水田システムであり、農業用水社会基盤とかんがい水管理システムに依存している。そのうちのいくつかは歴史の初めから続く伝統的な地域社会の知と経験、参加をとおして開発されたものである。
4.水田システムのための水は食料生産に不可欠であるだけでなく、社会、文化、環境に関係した様々な効用(例えば魚の養殖、洪水調節、地下水涵養、生物多様性の保持、文化の継承)をもたらす。それゆえ、水田システムは文化と自然環境を持続的な方法で維持する潜在性を持った湿地として定義される。
5.持続的な水開発と水利用を達成するために、上記の水田の側面を考慮し、我々は強く下記の政策勧告を主張する。
1)水田耕作地域における農業用水の多様な使用、役割、価値、効用、その他の側面は認識され、評価され、水資源開発計画と管理戦略に反映されるべきである。
2)水計画、管理における地域社会の伝統的な知と経験、彼らの参加の価値は最大限に認知されるべきである。
3)政府の援助(例えば政策、法、経済、能力開発、教育)は重要であり、またしばしば食料安全保障を達成し、貧困を削減し、環境を保護するために水田システムへの適切な投資、近代化、管理を行うために必要である。 |
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