JICAとNGOの連携
国際協力機構(JICA) 農村開発部 管理チーム長 森田隆博
課題アドバイザー 西牧隆壯
1.ODAとNGOの連携
これまで、国際協力におけるNGOの役割は、政府機関とは異なる多様性や緊急的な対応などに、その特徴があると考えられていた。
しかし、東チモールやアフガニスタンで支援活動を行っているNGOが、国際会議や現地の支援活動において、大きな役割を担っていることが国内でも広く知られるようになっており、NGOは補完的な組織ではなく、国際協力活動における重要な活動主体と考えられるようになっている。
国際協力が本格化して以降、すなわちおよそ40年間に国際情勢は大きく変化し、開発や援助に関する考え方も、変遷を繰り返している。
近年の開発援助の支援内容は、対象領域が社会開発分野へと広がっていると同時に、その手法も地域の人びとや文化への目配りを必要とする、参加型のプロセスを重要視するようになっている。
あわせて、これまでの開発支援に加えて、東チモール、アフガニスタンやイラクといった国における紛争の予防や平和構築などの新しい分野に対する支援、さらにはスマトラ沖地震による津波被害に対する緊急支援や復興支援が、わが国の国際協力の重要な分野となっている。
このような分野は、途上国の中央政府が十分に機能していない場合や、紛争や政治的対立により中央政府を通じた支援が困難な状況になっている場合が多く、NGO等を通じた受益者に直接働きかける支援が、とくに有効であると考えられる。
このように、国際社会、とりわけ開発途上国が直面している課題が多様化、複雑化するなかで、NGOに対する期待は、これまでの現地ニーズに即した、きめの細かい迅速な支援活動に加え、新たな国際協力の分野においても、大いに高まってきている。
一方で、国内に目を転じると、阪神・淡路大震災のあとの「ボランティア革命」といわれているボランティア意識の高まりのなかで、さまざまなNGOが活発な活動を行っている。
昨年の新潟県中越地震のボランティアによる支援にもみられるように、ボランティア活動の高まりは全国的な規模で起きており、ボランティア活動の活性化と国際化の流れを受けて地域のNGO活動が活発化している。
このような背景のもと、政府レベルでも、平成15年8月に閣議決定されたODA(Official Development Assistance
の略。途上国への贈与、または低利子の貸付け、国際機関への資金拠出というかたちをとる政府開発援助)大綱で、「国民参加の拡大」を重要な柱の一つとして打ち出すなど、ODAにおけるNGOとの連携を積極的に推進している。
ODA、国際協力の多様化と国内でのNGOに対する関心の高まりのなかで、より多くの人々の参加を得て、国際協力を実施する体制を強化することが必要になっている。
2.NGOとJICAの連携の現状
2003年10月に独立行政法人となったJICA(国際協力機構)では、国民の参加と協力を拡大するため、2002年度に、新たに「国民参加協力推進に関する業務」(国民参加型協力関係費)がJICA事業として認められた。(表1参照)
事業の名称 |
事業の内容
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I 草の根技術協力
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(1) 草の根技術協力事業 |
我が国のNGO、大学、地方自治体など(以下「NGO等」という。)が、各々の有するノウハウ、地域特有の技術・経験を活かし途上国のカウンターパート機関(NGO等)との間で行う共同事業を、JICA事業として実施する。また、我が国NGO等と当該国NGO等との国際協力を増進するため、本事業の一環として、双方のニーズの仲介や技術的助言等を行う。 |
II 市民による国際協力の支援
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1 国際協力理解の促進 |
(1) 開発教育支援事業 |
学生及び教師を対象として、JICA国内機関・在外事務所等において、国際協力理解促進のための研修・セミナー、ODA実体験講座を実施する。また全国各地の学校教育現場にJICA職員、JOCV帰国隊員、帰国専門家等の講師を出張させ、出前講座を行う。さらに、これら研修・セミナー・講座実施に必要な各種資料を作成する。 |
(2) 国際協力キャンペーン等の実施 |
JICA国内機関・在外事務所を活用し、広く一般国民途上国市民を対象として、国際協力についての啓発資料作成・展示・配布、10月6日の「国際協力の日」に合わせたセミナー・シンポジウム等の開催を国内・海外において実施する。 |
2 市民参加協力の推進 |
[1]国際協力の裾野拡大
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(1) 国際協力推進員の配置 |
青年海外協力隊帰国隊員等の国際協力事業の経験者を、各都道府県の国際交流センター等に配置し、各地域における市民の国際協力参加・実践に係る情報提供、JICAとの連絡調整、その他各種支援業務に従事させる。 |
(2) 国際協力サポーター活動支援事業 |
専門家派遣、研修員受入等のJICA事業に関わった経験を有する国民を組織化し、これらの人々の地域における国際協力促進活動を支援する。 |
(3) 市民参加協力支援事業 |
国際協力推進員、国際協力サポーターによる活動拠点を中心として、国際協力諸活動に係る実践的研修・セミナー、民間団体・地方自治体間の交流・連携促進、その他各種団体発意の国際協力事業発掘・形成に必要な各種支援事業を実施する。 |
[2]NGO支援
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(1) NGO支援事業 |
自らの発意による国際協力活動をすでに開始しているが、未だ組織的・技術的基盤が脆弱である市民団体や個人(以下、NGO)を支援するため、技術移転手法等の習得を目的とした国内・海外における研修、大学院生等を対象とした国内・海外におけるNGO実体験プログラム(NGOインターン)、NGOが途上国の活動現場で必要とする専門技術を有する技術者の派遣を実施する。 |
国民参加協力推進事業は、「草の根技術協力事業」、「開発教育支援事業」および「市民参加協力支援事業」の3事業からなっている。
この中で「草の根技術協力事業」は、国際協力の意志を持っている日本の団体等(NGO、大学、地方自治体等)からの事業提案を受け、JICAの国内機関が選考のうえ、日本の団体等と委託契約を締結し、実施している。(Box.
1参照)
NGOとJICAの相互理解を促進するという観点からは、1998年度に「NGO−JICA相互研修」を開講し、職員(スタッフ)相互の意見交換や交流の場が生まれたほか、「NGO・JICA協議会」が発足し、ネットワークNGOとJICAの間で、定期的な会合が開かれるようになっている。
また、国際協力総合研修所で実施する研修プログラムにNGOスタッフを受講者として受け入れている他、NGOスタッフのための国内長期研修制度や国内/海外研修等、NGOのキャパシティ・ビルディングを支援するプログラムを実施しており、NGOとJICAの人材育成面での連携も進んでいる。
この他に、これまでNGOとJICAが連携して、実施をしてきた事業の経験を活かし、NGOが国際協力活動を始める際の支援を行うため、NGO−JICAジャパンデスクをアジア、中南米、アフリカの16か国に開設した。NGO−JICAジャパンデスクでは、JICAの在外事務所内または近くの独立した事務所に、専任のコーディネーターを配置し、情報の収集と提供、案件形成、実施に関する相談、セミナー、ワークショップの開催などの業務を実施している。
【Box.1】草の根技術協力事業の概要
近年、日本国内で、市民による草の根レベル及び自治体レベルでの国際協力活動が活発化していることを受け、ODA事業においても、国民参加による国際協力を一層推進していくことが期待されている。一方、途上国においても、社会経済開発における現地NGO、住民組織などの、いわゆる市民社会の役割が増大しており、住民参加型の社会開発や政策形成に関する知的支援など、協力ニーズの多様化が進んでいる。
これらを受け、JICAで検討した結果、日本の団体等が参加する開発途上地域に対する技術協力を実施し、国民の国際協力に対する理解を促進し、開発途上地域に対する国際協力に取り組む日本の団体等の活動を支援するための予算を要求し、2002年度から国民参加協力推進費として認められた。これに伴い、2002年度からJICAが市民(市民団体、大学、自治体等を広く含む)の発意による国際協力活動を側面支援するための事業として、「草の根技術協力事業」を開始することになった。
草の根技術協力事業は、JICAが国内のNGO、大学、地方自治体、公益法人等の団体等(以下「NGO等」という)と共同で、開発途上地域(以下、「途上国」という)の社会・経済発展に資する目的で実施するものである。本事業は、NGO等の発意による国際協力活動を支援し、より多くの市民に参加してもらうことを基本概念としており、案件ごとの成果と共に市民参加による事業の実施プロセスをも重視している。この点において草の根技術協力事業は、JICAの国別事業実施計画に基づく他の諸事業とは明確に区分される。
なお、草の根技術協力事業においては、NGO等の発意をできるかぎり尊重し、JICAとの共同事業であることから、JICAは相手国とのパイプ役となり、相手国(当該地域)のニーズ・要望とのマッチングを図る。
以上のコンセプトのもとに、JICAは、以下の3つのメニューを用意し、案件を公募する。
(1)草の根協力支援型
国内での活動実績はあるが、途上国支援の実績が少ない、比較的小規模な団体の国際協力活動をJICAが支援するもの。どのように途上国に貢献したいか、NGO等からのアイデアを随時受け付け、JICAと共同で事業提案書を作成し、随時審査を行っている。
事業期間は3年以内で、資金は総額1000万円以内。
(2)草の根パートナー型
途上国支援の実績を豊富に有するNGO等が、その活動を通じ蓄積した経験や技術に基づき提案する途上国での活動を支援するもの。事業提案はプロポーザル(提案)として受け付け、年2回の外部有識者のコメントも踏まえ選考する。
事業期間は3年以内で、資金は総額5000万円以内。
(3)地域提案型
地方自治体からの事業提案により、日本の地域社会が持つノウハウ・経験を活かしつつ、現地での技術指導や途上国からの研修員の受け入れを通じて、途上国の人々や地域の発展に役立つような協力活動をJICAが支援するもの。事業期間は1年以内。
詳細はJICAホームページを参照。
(http://www.jica.go.jp/partner/what.html)
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3.JICA農村開発事業におけるNGOとの連携
まず、草の根技術協力事業を見てみると、平成14年度から平成16年度の3年間に、154案件の事業が採択内定もしくは実施されており、そのうち、農業・農村開発分野の案件は34件、全体件数の約22%を占めている。
平成16年度の農業・農村開発分野の案件は18件となっているが、タイプ別では地域提案型が15件となっており、地方自治体が中心となった地元の技術を活かした協力が多くなっている(別表参照)。(Box.
2参照)
次に、農村開発部で実施している技術協力プロジェクトや開発調査におけるNGOとの連携に目を転じてみると、技術協力プロジェクトの成果を住民レベルにまで波及させることや、住民のエンパワーメント活動の促進を目的として、現地のNGOと連携をする事例が、見られるようになってきている。(Box.
3参照)
これは、普及活動などの住民への働きかけを担うべき途上国の政府機関の体制が十分でない場合に、政府機能を代替するものとして住民組織を強化するアプローチであり、現地NGOは、このアプローチを促進するアクターとして重要な働きをしている。この流れは、国際NGO、地元NGOを問わず、すでに一般化した潮流となっており、今後とも、こうした形でのNGOとの連携が推進されていくものと考えられる。
【Box.2】地球緑化と住民の生活向上を図るために(草の根パートナー型によるヨルダンの事例)
ヨルダン渓谷北部地域における事業対象地のサウスシューナは年間降雨量が100〜200mmと少なく、土壌の塩分濃度が高い。ジュラシュは土中に硫黄の層があり、場所によっては井戸水が汚染されている。ブルマは山岳地帯で農業用水を天水に依存しており、天候によって収穫が左右される。どの地域も貧困農民層は農業用水の確保に苦労しており、生活は困窮している。
同地区の環境を保全するとともに、住民の生活向上を図ることを目的として、社団法人日本国際民間協力会は、JICA草の根技術協力事業(草の根パートナー型)を活用し、同地区の貧困農民層と農業省技官を対象とし、環境保全型節水無農薬有機農法(パーマカルチャー:PC農法)の普及活動を2004年4月から行っている。
農民、農業技官に対する研修
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【Box.3】ボリビア小規模農家向け優良種子普及計画(現地NGOと連携したボリビアの事例)
ボリビア政府では、山岳地帯の斜陽鉱山労働者の転職と未開発地の開拓、食料増産などを図るため、東部平原地帯に内国植民地を設置しているが、多数の入植者は零細焼畑農法による自給型農業から、なかなか脱皮できないでいる。
このため、サンタクルス県にある内国植民地の一つであるヤパカニ地区をパイロット地域として選定し、貧困対策、食料増産、環境保全に配慮した地域開発等に資するため、小規模農家向けに優良稲種子を普及させることを目的とした、技術協力プロジェクトを2000年8月から実施している。パイロット地域の普及活動を効果的に実施するため、プロジェクトでは、ヤパカニ市役所やサンタクルス地域種子事務所と各種援助団体の支援により農業普及活動を行っているNGO等合計7団体と連携して、農家展示圃の設置や講習会、技術普及・指導等を行っている。
手動播種器
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4.NGOとの連携における今後の期待と課題
開発途上国の開発の方向性や支援のニーズは、より人々の生活に密着した分野へと多様化・複雑化しているとともに、緊急支援や復興支援、さらには、紛争の予防や平和構築といったように、支援範囲が、地理的・時間的に拡大している。
これらの新たな開発援助の潮流に対して、従来の政府主導型もしくは相手国政府へのODAの供与のみでは対応が困難な状況が生まれており、より機動性のあるNGOの役割に対する期待が高まっている。
JICAの技術協力は、途上国の政府機関を相手方として、その人材育成と制度強化を行い、その成果が広く途上国の人々に波及することを目指すアプローチを取ることが多い。他方、多くのNGOは、それぞれの得意な特定の技術分野と固有の人的ネットワークを生かし、住民への直接的な裨益を目指すアプローチを取っている。言い換えれば一般的には、JICAのアプローチでは、時間がかかる反面、先方政府を通じて成果が持続的に受益者に均等に行き届き、NGOのアプローチでは、即効性がある反面、その持続性の確保が課題となる。
JICAとNGOの連携は、それぞれの短所を補い、長所を生かす組み合わせであると同時に、新しい援助ニーズに対応していくための、ひとつの有効な方策であると言える。
また、阪神・淡路大震災後のボランティア活動の高まり、アフガニスタン支援における国際ボランティアへの支援など、人々の国際協力やボランティアへの関心は非常に高く、JICAのNGOに対する草の根技術協力等の支援は、これらの人々への関心を具体的な行動へと橋渡しをしていく重要なツールとして、今後とも活用されていくであろう。
多くの人々が潜在的に広く有している国際協力への参加意欲を引き出し、実際に参加できる仕組みを整えること、そしてこれからの新しい援助潮流のなかで、直接に人々の手へ届く事業を具体的にひとつでも多く進めていくことが、JICAとして果たすべき役割ではないかと考える。
《参考文献》
1) JICA:地域に根ざしたNGOとの連携のために(2003)総研JR32−56
2) JICAホームページ:市民参加 http://www.jica.go.jp
3) 西牧隆壯:アフリカの農業開発協力と農村開発手法、農土誌70(11),(2002)
都道府県名
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実施機関
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対象国名
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事業名
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北海道 |
滝川国際交流協会 |
マラウイ |
園芸技術普及支援 |
北海道 |
旭鷹土地改良区 |
インドネシア |
農民参加型用水管理システム |
北海道 |
帯広市中国朝陽市農業交流協議会 |
中 国 |
朝陽市農業振興計画 |
岩手県 |
岩手県農業研究センター |
ハンガリー |
残留農薬分析技術に関する研修 |
茨城県 |
茨城県 |
バングラデシュ |
バングラデシュ国農村自立支援プログラム |
茨城県 |
阿見町国際交流協会 |
中 国 |
柳州市農業研修員受入れ事業 |
群馬県 |
群馬県 |
タイ、フィリピン |
アジア農業教育指導者支援事業 |
埼玉県 |
埼玉県 |
エジプト |
淡水魚養殖技術研修 |
埼玉県 |
埼玉県 |
中 国 |
中国山西省アルカリ土壌改良フォローアップ事業 |
岐阜県 |
岐阜県農林水産局林業振興室 |
ブータン |
キノコ栽培技術を主とする森林・林業技術研修 |
岐阜県 |
岐阜県 |
アルゼンチン |
花き生産技術研修 |
香川県 |
香川県 |
ラオス |
香川らしい国際協力プロジェクト「ラオス農業畜産技術専門家受入プログラム」「農業畜産国際協力専門家派遣プログラム」 |
長崎県 |
長崎県農林部 |
ボリビア、パラグアイ |
野菜栽培による地域活性化のための指導者育成 |
宮崎県 |
宮崎県綾町有機農業開発センター、宮崎県立農業校他 |
マーシャル諸島、パラオ |
太平洋島嶼国国際協力事業:野菜栽培指導法 |
宮崎県 |
宮崎県立高騰水産研究所、海洋高校、南郷漁業協同組合 |
マーシャル諸島 |
太平洋島嶼国国際協力事業:漁業訓練指導法 |
別表1 平成16年度草の根技術協力事業(地域提案型)採択内定案件一覧
国 名
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案件名
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団体名
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ラオス |
ラオス・カムアン県における持続的な森林管理、及び総合農村開発プロジェクト |
(特活)日本国際ボランティアセンター(JVC) |
別表2 平成16年度第1回草の根パートナー型採択内定案件一覧
国 名
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案件名
|
団体名
|
モンゴル |
バガヌール地区振興のための野菜栽培と栄養改善事業 |
特定非営利活動法人日本モンゴル農業交流協会 |
フィリピン |
ラグナ州カラワン町農業技術支援事業(有機肥料活用) |
NPOフィル・ジャパン・フレンドシップ(PJF) |
別表3 平成16年度草の根協力支援型・採択内定案件(平成16年10月4日現在)
国 名 |
案件名 |
連携の内容 |
協力開始年月 |
インドネシア |
水利組合強化計画(技プロ) |
農民水利組合の運営指導 |
2004/04 |
ボリビア |
小規模農家向け優良稲種子普及計画(技プロ) |
農家への種子配布活動 |
2000/08 |
ニジェール |
サヘルオアシス開発計画調査(開発調査) |
農村コミニュティの活性化 |
2005/06(予定) |
別表4 農村開発分野における技術協力プロジェクト及び開発調査における現地NGOとの連携事例
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