西アフリカの伝統的穀物を復活させた脱穀機の改良
1.需要の高い穀物「フォニオ」
イネ科の植物であるフォニオは、西アフリカの乾燥地帯で、昔から栽培されてきた。
栄養価が高く、繊維質、鉄分、タンパク質を豊富に含むため、セネガルでは昔から消化器系や泌尿器系の治療にも利用されており、現在でも子どもや妊婦のためのすぐれた栄養補助食品として、あるいは糖尿病患者たちや減量を望んでいる人々にとって、低脂肪食として欠かせない食材である。
さらに、フォニオには独特のこくがあるため、蒸したり、スープに加えたり、野菜や肉のソースと食べたりと利用価値が高く、「アフリカで、もっともおいしいシリアル」と賞されている。フォニオ料理でもてなすことは、客に敬意を払うことを意味するほどである。
フォニオはまた、ヨーロッパに住む西アフリカ系移民やアフリカを訪れる外国人観光客にも好まれ、外貨を獲得できる貴重な作物でもある。
健康食として、あるいは客をもてなす特別料理の素材として、フォニオは都市部を中心に、いまなお需要が高まっている。
2.脱穀の手作業が問題
フォニオの原産地は、サハラ南部に位置するサヘル地域。乾燥したやせた土地でも生育し、年に3回の収穫が可能なため、この地域では500年以上も前から栽培が続けられてきた。
しかし、かつては家庭料理の一般的な食材として使われてきたフォニオも、今日では特別な料理に限られるようになってきた。
これには、フォニオの下準備が大変に手間を要することが原因になっている。2kgのフォニオを叩いて、ふるいにかけ、脱穀するまでには2時間。何世紀にもわたって、この手作業がフォニオの最大の難点といわれてきた。
1990年代初めに、フォニオの脱穀機を開発したサヌーシ・ディアキテは、自身も幼少時に下準備作業を経験した1人である。
「フォニオは西アフリカにおいて、もっとも重要な食物です。しかし私自身、子どもの頃、腕が猛烈に痛くなり、この手伝いはまるで拷問のようだと感じました。そのことが忘れられず、脱穀機の開発の必要性を感じたのです」
セネガルの首都、ダカールにあるモーリス・デラフォス工業技術学校の教師であるディアキテは、教鞭をとるかたわらで機械を開発し、1993年に初めて、故郷であるセネガル南東の町コルバで発明品を披露することとなった。
柔軟性のあるプラスティック製のプレートを穀物の上で回転させることで、内側の柔らかい部分を潰すことなく殻をこすり落とすという画期的なメカニズムは、「手間いらずで、おいしいフォニオを食べられる」とたちまちに人気を集めるようになり、以来、西アフリカの各地域に普及することとなった。
機械を見るために沢山の人々が集ってくる。
ディアキテは嬉しそうに説明する。写真は改良を重ねる前のタイプ。
3.脱穀機が栽培を促進
アフリカでこの機械が定着してきた背景には、ディアキテの熱意ある行動がある。
顧客とのパートナーシップを第一に重んじたディアキテは、電話で解決できない問題が発生すると、マリやギニアといった近隣諸国まで出向き、その都度、人々が機械に満足しているか、他国ではどのように使用されているのかを調査してきた。最近では、ガンビアの大統領は地元の農場におけるディアキテの脱穀機の発表会で、2台の機械の購入を決めたという。
こうして各地で現場試験を重ねながら改良されてきた脱穀機は、性能が徐々に向上し、現在では8〜10分で5kgの穀物を脱穀でき、また、穀物の殻も99%取り除けるまでになった。この機械の価格は、電動機付きが1200ユーロ、エンジンをガソリンで稼働させるタイプが1750ユーロである。
機械化による省力は、西アフリカにおける伝統的な穀物・フォニオの生産量を増加させる原動力となりつつある。
「私の開発した脱穀機はフォニオの栽培を促進させる手段なのです。使用される場所がどこであっても、人々は再びフォニオを栽培するようになります」とのディアキテの言葉どおり、脱穀機が導入された地域では、フォニオの生産量は確実に増加している。たとえば、コルダでは機械を1台導入した翌年から、フォニオの栽培面積が15%増えた。また、脱穀したフォニオを生産する企業では、脱穀機のおかげで生産高が20倍増加している。
現在、ディアキテはセネガル技術革新庁と協力しながら、この脱穀機を大量生産する工場設立のための資金調達に奔走し、竣工までの予備調査も完了している。
(文責 農業ジャーナリスト 天野和香子)
(出所:ロレックス賞ジャーナル No.14)
|