FAOの世界の小麦の生産見通し

 国連食糧農業機関(FAO)は、2004年産の世界の小麦生産量を4月の報告書とほぼ同じ5億9500万トン、前年比で3500万トン増と予測している。ヨーロッパの小麦生産が急速に回復するとともに、アジアでもわずかながら増加が見込まれ、北米とオセアニアでは減少が予想されるが、世界全体では増加となる見通しである。
 極東アジアでは、2004年産の冬小麦の収穫が始まり、春小麦の作付けが終わっている。中国では、2004年産の小麦の総生産量が前年比1%減の8500万トンと予測されている。原因は冬小麦の作付面積の減少である。インドでは最近の季節外れの高温と登熟期の降雨不足のため、本年産の小麦生産の見通しは下方修正されているものの、作付面積が増加していることから、不作であった昨年を相当に上回る平年以上の生産が見込まれる。パキスタン、イランについても、生育期の十分な降雨により、生産の増加が予想されている。
 アジア地域のCIS諸国(旧ソ連諸国からエストニア、ラトビア、リトアニアを除いた共同体)においては、冬小麦の作付面積は昨年とほぼ同じとみられ、現時点までの条件においては昨年と同水準の2350万トンの生産が可能と考えられる。通常では、この地域の総生産量の80%をカザフスタンが占めている。
 近東では、2004年産の小麦の収穫が始まっている。アフガニスタンの昨年の生産は記録的な高水準であったが、本年は春の降雨が不安定であったこと、気温が平年よりも高かったことにより、昨年に比べある程度低下する可能性がある。トルコとシリアでは十分な降雨があり、平年並み、または平年を上回る生産が予測される。しかしヨルダンでは、降雨不足が生産に深刻な影響を及ぼしている。
 アフリカ北部では、5〜6月に収穫される冬小麦について引き続き十分な生産量が見込まれている。これは天候が総じて良好であったことと、適切な資源投入が可能であったことを反映している。しかしアルジェリアとモロッコではサバクトビバッタが発生し、集中的な防・駆除の実施にもかかわらず、引き続き非常に深刻な脅威となっている。主に灌漑によって小麦生産が行われているエジプトでは、昨年の生産も平年以上であったが、2004年はこれをさらに上回る収穫が予想される。
 アフリカ東部では、スーダンで2004年産の小麦の収穫が終了した。生産量は前年比20%増の約40万トンと予測されている。ケニアでは作付け当初は降雨が良好であったが、その後不安定となったため、見通しは不透明である。エチオピアでも、整地作業が行われた最近の数週間の降雨が不安定であったことから、6月の作付けの成果は不確実なものとなっている。
 アフリカ南部では、地域内の他国に比べはるかに多くの小麦を生産する南アフリカで作付けが進行している。2003年の作付面積は干ばつの影響で縮小したが、今年は平年を約18%上回る面積となる計画である。今シーズン中の天候が平年並みであれば、平年並みの収穫が可能と考えられる。ジンバブエの小麦生産量は引き続き低水準にとどまることが見込まれる。FAOは同地域の2004年産の総生産量を240万トンと予測している。
 中米・カリブ地域では、灌漑による2004年産の冬小麦の収穫がメキシコで行われている。生産量は前年比で相当の減少となり、平年の水準も下回ると予測される。主な原因は、メキシコ北部で播種期の水供給が不十分であったために、作付けが減少したことである。
 南米では2004年産の小麦の作付けがアルゼンチン、チリ、パラグアイ、ウルグアイで始まろうとしており、ブラジルでは作付けがかなり進んでいる。この地域全体の作付計画では、前年比3%程度の増加となっている。
 北米ではアメリカの小麦生産が急激に落ち込むことが確実視されている。これは冬小麦の作付けが大幅に減少し、春小麦の作付面積も縮小が見込まれているためである。さらに今シーズンは天候も全般的に不良で、特にアメリカ南部の小麦生産地では広範囲が水不足に見舞われている。カナダでは5月中旬現在、小麦の播種が平年よりもやや早めに進められている。小麦の作付面積は非穀物への転換による縮小の可能性もあるが、特にデュラム小麦では収量の拡大が予測されるため、生産量はやや増加すると予測される。
 ヨーロッパでは、2004年産の小麦生産は引き続き概して全域で良好とみられている。EU加盟25か国の生産量は、従来の15か国の加盟国と、中欧など10か国の新規加盟国の双方でかなりの増加が見込まれ、全体では昨年に比べ大幅な増加が予測される。作付面積の拡大とともに、これまでのところ総じて適切な降水に恵まれていることを反映して、収量の増加が予想されている。西欧・中央の両地域とも、作付面積は過去5年間の平均に比べてかなり拡大しており、天候条件も昨年より良く、現時点まで全般的に良好である。バルカン諸国でも、同じ理由で生産量の増加が予測されている。
 ヨーロッパ地域のCIS諸国では、4月後半の降霜により、ウクライナとロシア連邦を中心に200万ヘクタールの冬小麦が壊滅した。しかし、5月中旬時点では春小麦の作付けが良好な条件下でほぼ完了し、小麦の総作付面積(冬小麦と春小麦の合計)は昨年から約500万ヘクタール増加することが予測されている。昨年は同地域の小麦は非常に不作であったが、今後の天候が平年並みであれば、この地域では2004年産の小麦生産は昨年から大幅に増加することが予想される。しかし、豊作であった2001年、2002年の収穫量には及ばない公算が大きい。
 オーストラリアでは、冬小麦の作付けが順調に開始され、当初は豊作が予想されたが、4月後半から5月前半にかけて、特に東部が再び乾燥状態に見舞われたため、期待は薄れている。オーストラリア南東部の農家は、6月末までに降雨が増加することを期待して作付けを遅らせている。最新の条件をもとに見込まれる小麦生産は2200万トンである。

(FAO Food Outlook No.2June 2004)

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