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経済・政治的側面からみた

世界のコメ市場の特徴と将来展望

京都大学大学院 生物資源経済学専攻
教授 辻井 博

1.はじめに
 世界のコメをめぐる問題は、人類にとって重要な3種の穀物(コメ、小麦、トウモロコシ)のなかで、非常に特異な性格を持っている。まず第1に、コメは、アメリカを主要生産国とする小麦とトウモロコシに比べ、アジアに生産と消費の90%が集中し、自給自足的な営農形態をとってきた。そのため、世界のコメ市場は非常に薄く不安定で、アジア諸国は国民の主食であるコメの自給政策の追求により食料安全保障を担保してきた。過去20年ほどの期間、アメリカ、GATT、WTOによって主張され、実行されてきたコメ貿易の自由化は、一時達成されていたこのコメ自給状態を崩壊させ、さらにコメ貿易市場の不安定性を高める。
 第2に、アジア諸国のコメ自給政策は、市場には評価されない大きな価値をもたらしてきた。それは米価とコメ供給の安定による食料安全保障と農村の美しい景観、環境と国土保全などの多面的機能、すなわち外部効果である。コメ貿易の自由化は、これらアジア人が高く評価する外部効果の価値を喪失させる。
 第3に、アジアに集中している世界の膨大な飢餓・貧困人口である。90年代初期、世界飢餓人口は8億人強で、そのうち5億人強がアジアに集中していた。最近の世界銀行の推計では、1日当たり1ドル以下の生活費で暮らす絶対的貧困と定義される人々は現在の15億から2020年には40億になる。人口爆発、人口の都市集中、所得上昇と食料消費構造の転換、農地や水など食料生産資源の限界、農業技術進歩の限界、高所得諸国の農業政策変更などから、21世紀初頭に世界の食料需給は逼迫すると考えられる。農産物貿易の自由化は、多くの研究によれば、本来は国際農産物価格を上昇させ、この食料の逼迫を増幅する。
 これらは政治・政策と世界のコメ需給・食料安全保障との関連での問題である。さらに世界のコメ市場では、最近、コメ貿易構造の急変、単収増加率の急減と技術進歩の限界、コメ実質価格の傾向的低下、自然資源の枯渇、環境破壊などが問題になっている。本稿では、これらの問題を経済的・政治・政策的側面から分析し対策を検討する。

2.世界とアジアのコメ需給構造の変化
 最近の特徴をFAO統計でみてみよう。第1には、世界およびアジアでのコメ供給力が停滞してきていることである。図1が示すように、世界人口1人当たりのコメ生産量が80年代から(それ以前は急速にのびていたのが)、60kg程度で停滞してしまっている。


 このコメ供給力の限界は、コメの技術進歩を表す単収増加率の逓減に現れている。表1が示すように、コメの世界平均単収の年間増加率が過去40年ほどの間に3%程度から1%程度へ傾向的に低下している(この技術面の分析は本特集の「アジアのコメ生産性」にて詳しく説明される)。人口は21世紀中期まで年間増加率が2〜3%で続くから、コメ単収の年間増加率の1%への低下は、アジアにあっては大きな問題である。

表1 世界の穀物の単収増加率の低下
  全穀物平均 籾米 小麦 トウモロコシ 大麦
61/70 0.0302 0.0272 0.0361 0.0217 0.0346
70/85 0.0241 0.0213 0.0250 0.0312 0.0126
85/96 0.0120 0.0122 0.0144 0.0090 0.0063
データ・ソース:FAO Production Yearbooks,via FTP


 第2に、世界のコメ需給の長期的変化と最近の特性である。図2に世界のコメの在庫率(=在庫量/消費量)を全穀物平均とともに示している。FAOによれば、在庫率が18%以下になると世界の穀物需給は危機水準にあるとされる。コメの在庫率は60年代を除いてほぼ全期間全穀物の在庫率と連動している(小麦や粗粒穀物の在庫率も全穀物のそれと60年代には連動しており、世界の食料不足が激しかったこの時期、コメだけが非常に低い在庫率を示しているのはデータ上の問題が考えられる)。コメの在庫率が18%を下回ったのは1976/77以前と80/81−97/98年のほぼ全期間、および最近の2年である。このデータから、コメの世界需給状態は長期にわたって不足傾向にあったといえる。70年以降コメが世界市場で過剰状態にあったのは78/79−79/80年と98/99−01/02年の2回の短い期間のみであった。


 第3に、コメ貿易に最近変化が見られる。図1が示すように、アジア諸国のコメ輸出が90年代になって急増している。とりわけベトナム、インド、中国が純輸出量を急増させている(図3)。ベトナムはドイ・モイが、中国は1995年に出版されたレスター・ブラウン著『誰が中国を養うのか』にて指摘されたように穀物不足状態が悪化したので、90年代後半に穀物増産政策を取り、その結果コメ生産が急速に回復したことによる。中国はかつても大輸出国であったが、それはコメを1トン輸出して小麦を2トン輸入するという、さや取り貿易であった。インドは国内に膨大な貧困飢餓人口を抱えたコメ輸出であり、筆者のかつての調査ではコメ政策の失敗といえる。いずれにせよ、このように新3大コメ輸出国が参入したから、コメ輸出の生産量に占める比率が従来の3%から90年代には6%ほどに急上昇している。輸入面では、日本の93年の冷害によるコメ輸入の急増、一時コメ自給を達成していたインドネシアやフィリピンなどが自由化でコメ危機に直面し、またアフリカ諸国のコメ輸入需要が急増したことが、重要な変化である。

 

3.世界コメ市場のアジア的特性―自給原理と薄い市場―

(1)アジアへのコメの生産・消費の集中とアジア諸国のコメ自給政策

 コメの世界総生産量は、世界第1の穀物である小麦の6億トンに続き5億トンである。第3の穀物はトウモロコシである。中国とインドが、89〜91年の平均でコメの世界総生産量のそれぞれ36%と21%を占めている。インドネシア、バングラデシュ、ベトナム、タイ、ミャンマーと続き、日本は8位、アメリカは12位の生産国である。




 コメは図4−1が示すように世界総生産量の90%ほどがアジアで集中的に生産され、そのほとんどがアジアで消費されるアジアの自給的穀物である。コメ生産がアジアに集中するのは、モンスーンの多雨と沖積土壌が多いためとされている。それに対し、図4−2と4−3が示すように、トウモロコシと小麦の生産は概して地球上の全大陸に分散し、需給は大陸別に自給的でなく、アメリカなどで大量の余剰が生産され、発展途上諸国に補助金付きでダンピング輸出されてきた。これは、発展途上諸国の農産物価格を押し下げ、多数の貧しい農民の所得を減らし、農業生産を圧迫してきた1)。
 アジアのコメ市場では、自給自足原則が農家から国家まで貫徹している。タイでは、熱帯林の焼却跡地に入植した農家はまず陸稲を作り、その後に水田化して、増加する家族員の主食を確保してきた。稲作の不安定な天水田地帯では、収穫が多い年には高床のコメ倉に籾で蓄えて凶作に備え、何年か親族でそれを食べる。各集落でも人口が増えると開墾や派生稲作村への移住でコメ自給を追求する。
 日本を含む多くのアジア諸国は戦後コメ不足に悩み、コメの自給自足という重要な国政目標を達成するため、色々な政策を実施し、緑の革命を促進して、その多くが20〜30年前に自給を一時的に達成した。

(2)非常に薄く不安定で頼りにならない世界コメ貿易市場

 世界コメ貿易市場は非常に薄い。図5が示すように、主要穀類の世界総生産量に対する貿易量の比率は15〜25%もあるのにコメでは5%にすぎない。だからコメの世界貿易市場は非常に不安定である。熱帯アジアの広域的干ばつおよび東アジアの冷害が60年代以降ほぼ7年の周期で、65、72、80、87、93作物年に発生している。そうした年には世界のコメ総生産量が1〜5%減少するが、国際貿易米価はその次の年に20〜140%も大幅に上昇した。豊作によって世界のコメ総生産が潤沢であったのは、66〜70年、75年、77〜78年、80〜84年、87〜90年で各年2〜8%の増産となり、それぞれに続く70、76、79、85、90の各年に10〜30%も貿易米価が低落した。
 国際米価は、図6が示すように小麦など畑作穀物に比べはるか不安定である。この理由は、世界のコメ貿易市場が非常に薄いことである。薄くなるのは、世界のコメの9割を生産するアジア諸国とそこでの4億戸の稲作農家がコメを自給的に生産しているから、コメ輸出が増える内在的メカニズムが無いからである2)。

(3)アジアにおけるコメの政治財性と自給政策

 コメは、30億強のアジア人口の7割ほどが主食としている必需品で賃金財である。その価格が急騰したりコメの供給が不安定になると政治的不安定性が増し、暴動などが発生し、しばしば政変につながることから、政治財と呼ばれる。筆者は73年にタイのバンコクに在住していた時、コメが小売り店頭からなくなり、それが一つの原因の暴動とクーデターを体験した。このような例はアジア諸国で多数ある。コメはアジアの広大な地域で、土壌、水、森林などの自然資源・環境を利用して生産され、それらの維持・枯渇や破壊と密接に関わっている。さらに、コメはアジア人のカロリー摂取の中で平均5割前後(ミャンマーで77%、タイ55%、中国35%、インド30%、日本24%)3)を占めるほど重要である。
 地球上でアジアに貧困と飢餓が集中している。FAOの推計では、90〜92年において発展途上諸国の飢餓人口8.4億人の内5.2億人がアジアに集中している4)。故にアジア諸国では、コメは低く安定した価格で安定的に供給されねばならない。これが、アジア諸国での食料安全保障のかなめである。

4.市場原理主義的構造調整・自由化政策と稲作・コメ自給政策
 内外からの日本コメ市場開放の主張は、国際経済学の自由貿易の利益の仮説を拠り所にしている。19世紀初頭にリカードにより提示されたこの仮説は、世界各国は各国で相対的に生産費の安い財の生産にできるだけ特化し、それらの財を自由貿易すれば各国民の福祉と各国の企業・農家の利潤は最大化されるとし、最近の貿易交渉に強い影響を与えてきた。しかし、この仮説は多くの現実性のない単純化した仮定を前提として成り立っており、アジアのコメの場合上述のアジア的特性のため、これら仮定は成立せず仮説は妥当性を失う。

(1)コメ輸入自由化がもたらすアジアの膨大な飢餓・貧困人口への悪影響

 自由貿易の利益の仮説は、アジアに集中する膨大な飢餓・貧困人口が存在しないという仮定の下に成り立っている。多くの農産物貿易自由化の研究は、自由化が世界の農産物価格を上昇させることを示した。自由化により、先進諸国の過剰農産物の膨大なダンピング輸出が無くなると仮定するからである。これは途上諸国の飢餓・貧困人口を危機に陥れる。WTO体制の下、日本のコメ輸入自由化による大量のコメ輸入も、薄いコメ貿易市場の米価を上昇させ、アジア諸国の国内米価を引き上げ、米価変動を拡大し、コメを主食とするアジアの膨大な飢餓・貧困人口を危機に陥れる。
 アフリカも、60年代の年間18万トンから89/91年には310万トンへコメ輸入量を急増させており、ここで爆発的に増大している飢餓・貧困人口にとっても、国際米価の急騰は深刻な問題である。日本のコメ市場開放と大量のコメ輸入は、アジアやアフリカなどの貧困・飢餓人口の危機と直結している。
 筆者はタイ、インドネシア、トルコ、タンザニア、ナイジェリアなどの農家調査を長く行ってきた。世界の10億戸ほどの家族小農にとって、もっとも重要な目的は家族の食料をいかに確保するかにある。この目的は、彼らが直面する土壌肥沃度の低下、水資源の枯渇、森林や放牧地破壊、人口爆発、補助金に支えられたダンピング輸出による農産物価格の低下と肥料価格の上昇などによって、達成がいっそう困難になっている。
 故に先進諸国、途上諸国が取り組むべき政策は土壌肥沃度の維持向上政策、自然資源保護政策、人口管理政策、貧困・飢餓政策である。市場原理主義的な構造調整政策では、これらの問題は解決できない。

(2)薄く不安定で頼りにならない世界コメ貿易市場とアジア諸国民・政府の国内米価安定性重視

 自由貿易の利益の仮説は、諸財の貿易市場は厚く、諸国の貿易によって財の価格が暴騰暴落することはなく、また価格不安定性(リスク)の増大が諸国民の福祉を減少させることはないとの前提で成り立つ。しかし、上述のように世界のコメ市場は非常に薄く不安定で、アジアのコメ生産の少しの変動や、81年の韓国や93〜94年の日本の大量のコメ輸入によって米価は暴騰暴落する。さらに世界のジャポニカ米の貿易量は例年のコメ貿易総量のほぼ11%、150万トンほどしかない極微小市場で、それまで輸入していなかった日本が93/94年の冷害時に「緊急に250万トンほど欲しい」と言っても、初めから無理な話だったのである。
 日本を含むアジア諸国民は、主食で政治財であるコメの価格の水準よりも、国内米価と供給の安定をより重視し、政府とともに、薄く不安定で頼りにならない世界のコメ市場に頼らず、「安定」をコメ自給の追求により担保しようとしてきた。日本のコメ市場開放論者は、日本がコメのミニマム・アクセス輸入に引続き関税化を実施し、さらにWTOの枠組みの下で関税を引き下げて大量にコメを輸入すれば、世界のコメ市場の規模が拡大し、同市場は安定化すると主張する。
 しかし、そんなことは起こらない。世界の90%を生産するアジア諸国のコメ自給政策は基本的に堅持されるから、世界のコメ市場の薄さは長期的に継続する。価格水準に余りこだわらない固定的(需要の価格弾性が小さい)な日本の大量の輸入需要が、こうした世界市場に追加されると、国際米価はさらに不安定性を増す。国内米価も、より不安定になるであろう。アジア人にとって大きな負の価値を持つ、「世界および国内米価の不安定性(リスク)」を無視したところで成り立つ自由貿易の利益の仮説は、日本のコメ市場開放問題に対して意味を失う。

(3)日本を含むアジア諸国での稲作とコメ自給の大きな外部性

 自由貿易の利益は市場で貨幣額で表される財・サービスに関わる企業利潤と消費者効用を最大化して実現され、市場外部で評価される価値・外部性は存在しないと仮定されている。しかし、アジア諸国ではコメ自給による稲作、農業、農村、農村文化・景観の維持、水源涵養、土壌保全とコメの国内価格と供給の安定といったことが、国民に大きな利益(外部性・多面的機能)を与えている。
 地形的・発展段階的理由から膨大な数の小規模家族経営により稲作が行われている日本やフィリピン、インドネシアなどアジアのコメ輸入諸国ではコメ生産費が非常に高く、コメ輸入の自由化をすれば、これら諸国の稲作は長期的には大幅に減少し、大量のコメ輸入を薄く不安定な世界コメ貿易市場から行わねばならなくなる。また、コメ自給により確保されてきた外部性の利益も失われる。自由貿易で失われるこれら外部性の視点から、コメに関する自由貿易の利益の仮説は修正されねばならない。

(4)自由貿易の利益の分配の不公正性

 自由貿易の利益の仮説は、この経済的利益が自由貿易によって不利をこうむる国に再分配されることを仮定することによって、すべての国の利益が増加するとする。世界の政治経済の歴史から、この再分配が不可能であることは明らかである。
 自由貿易の利益の仮説は、小輸出入国が多数存在する競争的貿易市場を前提にしている。しかし、アメリカは寡占的コメ輸出大国であり、そのコメ政策は過剰米生産・ダンピング輸出政策という性格を持っており、アメリカによる86年の最初の対日コメ市場開放要求は、同国のコメ政策の失敗による膨大な累積過剰米を日本へ輸出することによって処理することを目的としていた5)。これは、利己的な利益を掠め取ろうとする、コメ輸出大国アメリカの寡占者的で不公正な要求である。
 ウルグアイ・ラウンド合意以来、WTO体制の下で実施されている貿易自由化の経済的利益の分配に関する8つほどの研究は6)、途上諸国にとって非常に不公正であることを明らかにした。
 たとえば、GATT事務局による研究7)では、自由化の全利益5100億ドルの65%を米欧が取り、日本が5%を取り、世界人口の83%を占める途上諸国は23%しか享受できない。農産物貿易自由化の場合の推定全利益530億ドルの分配は米欧が54%に対し途上諸国は27%である。このように利益の分配は米欧に大幅に偏り、その適切な再分配も望めないから非常に不公正である。
 経済的利益の分配が非常に不公正であるのみならず、非経済的利益(外部性)の分配はさらに不公正である。上述のように自由化は食料価格を引き上げ、より不安定にし、途上諸国の膨大な飢餓・貧困人口を危機に陥れる。コメや農産物貿易の自由化は途上諸国で、さらなる森林破壊と土壌劣化を惹起する。タイのメイズやキャッサヴァの作付拡大による森林破壊がその良い例である。日本・韓国・台湾など高所得東アジア諸国では自由化により農業農村が崩壊し、コメやその他農産物の自給率が激減し、薄く不安定な国際コメ貿易市場に主食コメの供給を依存せざるを得なくなり、食料安全保障状態が極度に悪化する。自由化によって、インドネシアとフィリピンは、一時達成されていたコメ自給状態から、コメ危機状態へ後退している。

5.コメ需給と政策の将来


 実質国際米価は長期に低下してきているとされる。市場原理主義的開放論者はこれが緑の革命の成功とコメ過剰化と飢餓消滅を示しており、コメ市場は自由化すべきとする。この考えには多くの問題点があるが2つだけ挙げれば、世界の輸出量の80%を占めるアメリカなどの小麦とトウモロコシの輸出が、巨額の補助金がもたらす過剰生産・ダンピング輸出であり、その補助金がこれら穀物価格および代替需要を通じたコメ価格低下を引き起こしてきたことである。図7が示すように、OECDの小麦補助金と輸出小麦価格はきれいな逆相関をしており、アメリカなどの補助金が穀物過剰とダンピング輸出を通じて輸出価格を押し下げてきたことが明らかである。トウモロコシにも同じような関係が確認できる。補助金が小麦とトウモロコシの輸出価格をどれほど引き下げてきたかを簡単な軽量モデルで計測してみると、それぞれ平均52%と27%であった。
 アマーテヤ・セン(ノーベル経済学賞受賞者)は、飢餓は貧困者が食料を獲得できる正当な権限をどれほど持っているかという権限アプローチで分析しなければならず、価格で分析すると誤った分析的政策的結論をもたらすとするが、正しい洞察である。現在も膨大な飢餓が存在し、それは増加すらしており、上で述べた技術的・資源的・人口的要因からも将来増加する可能性が高い。市場原理主義的自由化は的はずれの政策であり、取るべき政策は飢餓を緩和し、食料安全保障を確保するものでなければならない。日本やその他コメ不足アジア諸国は、農家と国民の食料の安全保障を確保するため、コメ自給を志向した政策を堅持すべきである8)。

《注》

注1)辻井 博『世界コメ戦争―ねらわれる日本市場』家の光協会、1993年12月、改訂版参照。
2)辻井 博「特性を無視した輸入策は失敗する」『エコノミスト』1994年4月12日号、31−35頁参照。
3)IRRI, Rice Almanac 1993/95, 1994, p.8.
4)FAO, Executive Summary,2.12,World Food Summit, 13-17 November, 1996.
5)辻井 博「世界コメ市場の特異性と日本のコメ政策のあり方−タイとアメリカに留意して」『環境と公害』岩波書店、1994年7月参照。
6)S. B. Epstein, GATT: The Uruguay Round Agreement and Developing Countries, Congeressional Research Service Report,1998. にOECD、世銀、ODI、ガット事務局などの研究結果が比較検討されている。
7)GATT Secretariat, An Analysis of the Proposed Uruguay Round Agreement, With Particular Emphasis on Aspects of Interest to Developing Countries, MTN. TNC/W/W122(Geneva, November1993).
8)辻井 博「食料安全保障の基本戦略―食糧自給率向上政策の確立を主張する―」『農業と経済』富民協会、1998年5月臨時増刊号,pp.59−70。

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