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(平成14年3月22日に滋賀県大津市琵琶湖ホテル会議室にて収録)
座 談 会 | |
第3回世界水フォーラム プレ・シンポジウムを終えて(後編) |
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このプレ・シンポジウムは、2003年3月16日から23日まで行われる「第3回世界水フォーラム(WWF3)」(19ページ参照)の1年前のプレ・イベントの1つとして、2002年3月20日から21日まで、「モンスーンアジア水田かんがいの多面的な役割」(Multi-functional Roles of Paddy Field Irrigation in the Asia Monsoon Region)をテーマとして、滋賀県で開催されたものです。これは、WWF3に向けて国際水議論が活発化する中でモンスーンアジア地域における水田かんがいの果たす役割や今後の発展方向等について、国際的な情報交換、知見の結集を行うことにより、その共通認識を深めると共にアイデンティティの確立を図ろうとするものです。また、併せて関係者・団体の連帯強化を図り、WWF3における議論などにその成果等を反映させるなど、広く内外に情報発信を行うことを目的とし開催されたものです。そのため、幅広い開かれた議論の場となるよう、モンスーンアジア諸国・地域、関係国際機関にも参加を呼びかけた結果、これら海外からの参加者を含め内外の産・官・学の多分野にわたる約400名が参加され、成功裏に終了しました。 |
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《座談会の趣旨》 |
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この座談会は、プレ・シンポジウムのパネルディスカッションにパネリストとして出席された海外からの参加者にシンポジウム終了後に集まっていただき、日本側のパネラーやプレ・シンポジウム事務局関係者とシンポジウムへの印象、WWF3に向けて準備の進め方などについて話し合ってもらったものです。ARDEC編集部では、農業生産に不可欠な水についての海外からの参加者の皆さんの率直なご意見、また興味深いお話しの内容を読者の皆さんに身近に接していただくために本座談会を企画したものです。本年3月に開催されるWWF3に向けて、前号に続き後編をご紹介致します。 |
中村 それでは、座談会を再開します。前半では皆さんの自己紹介に続いて、プレ・シンポジウムへの印象、プレ・シンポジウムのテーマについてお話ししていただきました。 続きまして後半では、既に皆さんからかなり発言をいただいている主要テーマである「水田かんがいの多面的な役割」について、もう少し突っ込んだお話をしていただきたいと思います。その前に、これまでお話しいただいたことで、何か補足することはございますか。 クスム 専門的な話が深まる前に少し関連しますので、私の立場からアジアの女性問題についてのお話をさせて下さい。視察のバスのなかでも話しましたが、日本であれマレーシアであれ、女性は農村地域に残ることを願ってはいません。女性は外へ出て、工場で働きたいと望んでいるのが現実です。したがって、彼女らの気持ちを変えるように地域社会が支えなければ、多面的な役割を持つ水田灌漑の維持さえ困難になるのではないでしょうか。農村地域に女性が不足しているという問題は日本だけでなく、スリランカやタイでも起こっています。 水田灌漑を真に維持するためには、農村地域を女性の視点で、どのように変えていくか考えることも重要です。野良仕事を減らせるもの、たとえば、これは私の携わっている別のプロジェクトの例ですが、女性にとって魅力的なマイクロ灌漑の導入などを検討することも面白いと思います。 女性の仕事は見えにくいものです。私が2年間調査したある場所では、農業用水の管理は女性が50%も行っていました。また、アジアには、かなり多くの女性灌漑技術者がいます。彼女らは皆若く、農村女性と身近に接触できる貴重な人材としてとらえることも必要だと思いますが、灌漑分野はまだまだ保守的であるため、女性の仕事として西欧のようには認められていません。「水田かんがいの多面的な役割」について考える時は、こうした女性の役割も含めて、広い視野から考えることも必要です。
吉永 健全な地域社会がなければ、水田灌漑の基本である地域レベルでの優れた水管理を期待できません。そういう意味でも、クスムさんが述べられた女性の役割にも着目すべきと言うことには私も賛成です。女性灌漑技術者の活用と言う点も面白いと思います。多くの場合、水管理を含めた社会および環境問題は、国レベルの問題ではなく地域レベルの問題です。つまり、ほとんどの水問題は地域レベルで水管理の問題として解決できるものであり、管理責任者のネットワークである男社会だけでなく、クスムさんが指摘されたように、実際の管理者である女性の意見を聞くことも必要でしょう。その点、女性技術者をそのインターフェイスとして考えるのも面白いと思います。 |
4.水田の多面的機能について |
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中村 それでは、後半のお話に入る前にプレ・シンポジウム主催者側の立場の1人として問題提起をさせていただきます。一つは、さまざまな国際的組織について話が出てきておりますが、たとえば、IWMI(国際水管理研究所)について多くの読者はご存知ないと思うのです。WWF3に参加する一般の人にこうした国際的組織について、また、ある程度専門的なことについて読者に説明する、何らかの工夫が必要ではないでしょうか。
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5.第3回世界水フォーラムに向けて |
中村 そろそろ、残り時間が少なくなりましたので、最後に第3回世界水フォーラムに対する期待と今後なすべきことについて、補足発言も含めて、締めくくりの発言を1人ずつお願いします。 2003年のフォーラムの本会議に向けて、これからの国際的な動きへの対応が重要であるとのことで、最初の発言者として吉永さんからお願いします。特に、吉永さんは、まず最大の課題である多面的機能について正確に定義することが重要だと言われています。多面的機能の重要性が広く認識されたら、次はその正確な定義をしなければなりません。しかし、国際機関の間で大きな論争があるために、これは簡単なことではありません。短時間で行うには極めて困難な仕事になるでしょう。正確な定義を行うには多くの時間を必要とします。吉永さんは、正確に定義できれば、多面的機能の重要性をみんなが同意していることの証明になると言われました。では、お願いします。 吉永 2003年3月に京都府、大阪府、滋賀県で開かれる第3回世界水フォーラムに向けて、一連の国際会議が開かれていきます。2001年12月のボン会議、2002年7月のICIDモントリオール会議、8月にはヨハネスブルグで「持続可能な開発に関する世界首脳会議」(WSSD:World Summit on Sustainable Development)が開催されます。現在は、その過程の只中にあり、2003年3月の第3回世界水フォーラム本会議でどのようなメッセージを打ち上げるか、検討すべき段階にきています。 先に述べましたように、重要な点は、公的機関、民間、その他の関係者と水に関するネットワークや協力関係をどのように組織できるかということです。我々は、農業において水が如何に重要であるか議論し、問題を提起すべき主題を共有しています。どの主題が共通の課題になるのか確かではありませんが、農業用水、食料確保のための水、貧者のための水などの主題は、全ての関係者に受入れられるのではないかと思います。 そして、淡水に関するさまざまな問題について議論し調整する上で、FAOは国連機関の協力やネットワークを組織する上で大きな役割を果たすでしょう。2003年3月の本会議において、行動に結び付く稔りある成果が出るように開催地域アジア、特にモンスーンアジアとしての特色ある主題を打ち上げるための行動を早く起こすことが必要です。 クスム 第2回世界水フォーラムの議論では、我々は食料のための水から出発し、水と地域開発の問題へと展開したと思います。第2回の本会議までには、地域および国との協議はほとんど完了し、主題が集約されていました。この時のように予め集約された主題を、初日から展開できれば非常に効果的なものとなるでしょう。吉永さんが言われたように、主題となるテーマと目標を早く決定しなければなりません。 第2に、アジアの政策決定者に私たちが目標とするテーマを早急に伝える行動計画を早く検討してほしいと思います。 特別の目標および役割につながる活動、認識、およびアジアの水田稲作の重要性を強調していると言えば、政策決定者に非常によく受け取られるでしょう。それはモンスーンアジアのどの国にとっても、非常に明快で簡潔なメッセージでもあるからです。 タンジ 主要な目標のうちの1つは教育、PRでなければならないと思います。バスで視察した琵琶湖とその周辺のビデオ「里山」に、私はとても感動しました。それはBBCによって制作されたものですが、第1級のビデオでした。今回のプレ・シンポジウムのテーマである「水田かんがいの多面的な役割」を表現した、力強いビデオが必要だと思います。私の印象として、多面的な役割の定義に関して、やや混乱している感じがするだけに、分かりやすく説明したビデオがあると良いでしょう。そういうものが有れば、多くの人々がそのテーマについて議論ができ、2003年3月は大いに盛り上がると思います。 とにかく、これから2か月がとても重要です。今日の座談会での発言の処理や編集などで助けが要れば遠慮なくお申し出ください。とにかく、プレ・シンポジウムに参加できたことはとても良かったと思います。 タッテ 「多面的機能」(Multi Functionality)の定義について一言述べます。私たちは、ICIDの辞書を持っていますが、この用語はまだそこに定義されておりません。しかし、現在、辞書の改訂作業中ですので、この用語を入れたいと思います。定義案を送っていただければ、作業グループにそれを回してフィードバックしてもらいます。そうすれば、次回の会議でそれを承認し、早急にICID辞書でも、その用語をオーソライズすることができます。 2003年3月に向けて、今回のプレ・シンポジウムの成果を国際機関と共に、第3回世界水フォーラム事務局にできるだけ早く報告すべきです。特に、テーマとなった多面的機能の役割について説明することが重要です。それは持続可能性、統合性、全体性などと説明されていますが、それをタイトルとして使用しても良いですし、あるいは吉永さんが「食料のための水」(Water for Food)と述べたものについて考えることもできます。もっと強調して、「水、飢えおよび貧困」(Water, Hunger and Poverty)でも、「食料安全保障」(Food Security)でも良いでしょう。「水と農業」(Water and Agriculture)、あるいは「包括的な持続可能な文化」(A Holistic Sustainable Culture)など、さまざまな象徴的キーワードを考えておくことが必要でしょう。 谷山 第3回世界水フォーラム本会議では、日本のようなモンスーン気候の国の水利用を議論することが重要だと考えます。また、アジア地域で初めて開催されることでもあり、その特色を出したものでなければならないと思います。これまで開かれた世界水フォーラムを振りかえりますと、第1回のモロッコは、乾燥地域で、絶対的に水が不足するところで、水をどう有効に使うかが重要なところです。第2回のオランダのハーグは、水が絶対的に不足する地域ではありませんが、質の良い生活用水を確保することが重要な地域です。それに比べ、日本は、アジアモンスーンに位置していて、過去2回の国とは、水資源と利用の仕方が全く異なっています。総量としては不足しないものの、降雨は季節ごとの変動が大きく不確実、しかも河川勾配が急で、流量が大きく変動する中での水利用が行われてきました。また、農業は、家族経営が主体の零細な水田稲作が昔から営まれ、重要な生態系を作り、同時に生活文化の一つにもなってきました。今回の水フォーラムでは、このような日本の水利用の状況を世界に示すと共に、これらを共有するアジアの国の多くの方々が参加され、アジアの立場で発言されることを期待したいと思います。 中村 ありがとうございました。この座談会は結論を出すというものではありませんが、第3回世界水フォーラム事務局を含めた外部の世界へ、私たちのメッセージを伝えることが最重要であるという点に集約されるように思われます。クスムさんが言われたように、政策決定者や農民に伝えることも重要です。私たちも、農林水産省を始め、日本政府関係機関に働きかけたいと思います。本日は皆様の貴重な発言ありがとうございました。来る3月の世界水フォーラムで、またお会いしましょう。 |