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〈水とアジア的農業の持続可能性〉


 「水の21世紀 水田の多面的機能(20号)」、「国際協力新たな視点に向けて(21号)」、「日本の灌漑技術を生かす(21号)」、「持続的農業開発と栄養不良人口の削減に向けて(24号)」を読んで、私は「水と農業開発」という永遠のテーマに興味を抱いた。
 本誌を読むことで、水田灌漑から起こったアジア的農業の持続可能性を強く感じ、またその重要性に気づく事ができた。水という観点から世界を見ていく時代において、水田農業が占める重要な役割をその多面的機能という方面からアプローチすることもできた。また自然環境の悪化についての問題でも、影響力をもつ先進国が今何をするべきなのかについて、深く考える機会をもつことができた。
 様々な技術の発展により世界の国々の距離が縮まった現代、貧富の差は縮まることなく、環境という重大な問題が複雑にここに絡み、一国だけにとどまらないグローバルな国際協力が必要となった。
 先進諸国が農業開発分野で発展途上国に歩み寄ったことにより貢献してきた裏側で、貧しさと環境悪化という問題は時代の移り変わりとともに常についてまわるものであった。時代は水のように流れて変化していくものであるが、それまでの、あるいはその時代の人類の生産活動が環境に与えた負荷を洗い流すといった機能は自然に備わってはおらず、この事を知っていながらも人間はひたすら「生産」に励んできた。今、大切なのは、何が必要で何が不必要なのかを考える人間を育てることだろう。
 私は大学の卒業論文のテーマで、台湾の農業について研究を進めている。とりわけ、農業発展をスポイルする水質悪化の問題について考察している。台湾は国土も小さく急峻な地形であり、水利用が困難な国である。現在はWTOに加盟し変貌の時期でもあり、世界経済に進出し自立した国といえるが、先進国の多くに共通ともいえる「農業の地位回復」の必要性を抱えている。こうした状況下で、農業の役割を再認識し、ハードでなくソフトの面でも充実した農業を創成していかなくてはならない。
 そうした点からも、特に20号の精密農法実現への記事は興味をもって読んだ。農業が困難で保護すべき土地において、詳細なデータと実例が農業の維持を促すことは言うまでもない。標高データや水分、地温をはじめ様々なレイヤーを重ねてみることで、より能率的な農業的土地利用ができるようになる。本誌で論じているような土壌有機マップを作成すればその土地、その土壌状態に最適な農法を提供していける。また、衛星画像によるリモートセンシングを行い、細かい広域マップリングもしていければ、さらに広範囲での土壌変化も分かりやすく、より正確な環境変化をも知ることができるだろう。
 どの専門書も複雑で、何を参考にしていけば良いのか分からず、教授から薦められて読んでみたのだが、新しい農業形態の意義と重要性を、他のバックグラウンドと共に読みやすい文章、他誌にはなく分かり易い濃い内容で、ARDECは私に学ぶ機会を与えてくれた。これからもぜひ本誌を愛読し、自分の研究に活用していきたい。
岐阜大学 農学部
生物生産システム学科 4年 高橋明史

 



(インドネシア)


《編集後記》

 国連の推定では世界人口のおよそ7人に1人が、いわゆるスラムに暮らしているということです。多くの場合、住民は何よりも水に不自由して、わずかな収入から水売りに高いお金を払っています。
 水は人々の生活にも、また生態系自体にも大切なもので、しかもその利用可能量は限られています。人と生態系の生存に必要な水をどのように公平、公正に確保していくか。一方で、水の利用効率を高めるためのインフラ整備や適切な価格付けの検討も必要なのでしょう。
 来年3月に京都・大阪・滋賀を中心に開催される第3回世界水フォーラムを控え、今号および次号は「水」を重点テーマにしてみました。

編集委員

委員長

茨木教晶

委員

井田充則 岩本 彰 新保義剛 吉武幸子

《写真》

場所 写真提供 撮影
ザンビア 国際協力事業団 JICA  
スリランカ 国際協力事業団 JICA  
バングラデシュ 国際協力事業団 JICA  
カンボディア 国際協力事業団 JICA  
パプアニューギニア 国際協力事業団 JICA  
インドネシア オイスカ 横田正大さん

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