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バングラデシュの

農業生産拡大に貢献する

岩手大学連合農学研究科留学生

ビカシュ・チャンドラ・サーカー

 私はバングラデシュからの留学生で、岩手大学の農学部に学んでいます。ご存知のように、私の国はおよそ1億3000万の人が住み、人口密度は世界でも最高レベルです。因みに国境の2/3はインドに接しています。
 この国も他の多くの途上国と同様に、飢餓と栄養不足と環境悪化が大きな問題です。バランスの取れた栄養を十分に供給するには、穀物と野菜の生産がとりわけ重要ですが、速やかに農業生産を拡大するためには、適切な科学と技術が欠かせません。
 留学の主な目的は、農業生産の改善に役立つ高度な技術と生産管理を修めることにあります。私の国は農業を近代化する取り組みのまっただなかにあるといえます。土地は自然環境に恵まれず、農地を拡大できる可能性はほとんどありません。加えて、人口増加が続いており、国民1人当たりの農地面積は減り続けています。ですから、土壌や水を適切に管理して、既存農地の生産力を高めることが唯一の現実的意味をもっています。
 バングラデシュの農業生産システムは複雑で多様であり、物理的・生物的・天候・社会経済といった諸要因の大きな影響を受けています。広い国土ですから、気候、地形、土壌もかなり様相を異にしています。従って、灌漑農業にせよ天水依存農業にせよ作物・作付パターンとも、こうした多様な生産環境に対応して、バラエティーに富んだものになっています。増産のためには土地の生産力を高めて、適切な作付によってその利用率を高めることが大切です。
 岩手大学に籍を置くようになってから、少しずつですが日本での研究にも日常生活にも慣れてきました。大学には、研究に役立つさまざまな設備がそろっています。たとえば図書館、コンピュータ、有益なインターネットへのアクセス、附属農場など、研究に大いに役立ち、また新たな世界を開いてくれます。演習施設の機能も大いに満足できるものです。施設の一画は試験栽培に通年利用ができ、温度、湿度、CO
濃度、風量、光量の調整もできます。ここでは、外界の季節変動に左右されない生育環境が確保されています。
 指導教官も研究室の人々も、とても親切で力を貸してくれます。バングラデシュ人である私と日本の研究者や一般市民との、良い交流の場にもなっています。もちろん、当初は日本語がコミュニケーションの大きな障害でしたが、日本語を勉強したのでこの問題は解決されました。
 日本の大学生と話をすることは私の日本語のブラッシュ・アップに役立つばかりでなく、日本の社会や生活習慣を知るのにも役立っています。もちろん、研究のネットワークを広げることにもなり、必要に応じて他の研究室などとの協同研究も進めることができます。
 日本に来るまでは、もちろんこの国のライフスタイルに関する情報は限られていました。太平洋岸から約100km内陸に位置する北日本の岩手県盛岡市の気候がいかなるものか、全く知る術もありませんでした。私がその盛岡市に着いたのは、そろそろ冬を迎える10月で、常葉樹以外の木々の葉が赤や黄色になって落ちる“紅葉”を楽しむことができました。それに続く冬は11月から4月まで続く、大変に寒い季節でした。人生で初めて、降りしきる雪を驚きを以って見ました。また木々の葉や幹や屋根に雪が降り積もった様子は、寒いながらも私の目を楽しませてくれるものでした。今では、こうした冬にも慣れました。そのあとに迎える、芽ぶく緑と花に色どられた春は、素晴らしいものです。
 日本社会は安全で規律正しいもので、とりわけ安全さは特筆すべきものです。道路はきれいですし、運転マナーの良さも、日々の生活を安心させてくれます。ゴミに関していえば、種類ごとに分別され、それも特定の場所に限定されているので、リサイクル上からも、衛生上からも優れた処理システムになっています。
 日々の買い物も便利です。というのも、どの品にも適正な価格が表示されており、価格交渉をしないと損をするようなことはありません。コミュニケーション手段は市内、市外とも整備されています。交通はバスが便利です。
 食生活には、いささか苦労をしました。当初は日本食になじめず、毎食のように自炊していました。今では、刺し身や寿司も、食べられるようになりました。
 現在の研究テーマは水ストレスとCO
の相互作用で、トマトとナスを実験作物として、根の成長と水分摂取と葉のガス交換に注目しています。この二種を選んだのは多くの国の農業にあって主要作物になっているからです。生育上の全ての段階において、どちらも十分な土壌水分を必要とします。根や苗条(茎と葉)の成長は土壌水分ストレスと同様に空中のCO濃度にも左右されます。根が土壌水分をいかに有効に活用し、生育環境のストレス下で生き残るかを究明するのは重要なことです。
 具体的な研究目的は次のようなものです。それは、1)根の成長と葉のガス交換における順化に見られるCO
濃度及び水分ストレスという2つの環境因子に対して想定される相互作用の考察、2)想定される相互作用下における水分吸収率の数理学的モデルによる解明の2つです。CO濃度と水分ストレスが根の成長と吸水作用に及ぼす生理学的影響も研究対象です。
 来日するまでは、ハジ・ダネシュ科学技術大学(旧農業大学)で講師をしていました。現在も講師身分で研究休暇中になっています。研究を終えれば、帰国して大学にもどる約束です。野菜栽培における環境ストレスという研究分野は、今後も続けていくつもりです。この分野の研究は環境研究にも重要であり、バングラデシュのみならず、他国にとっても必要な研究といえます。


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