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インドネシアのコーヒーの

品質と収量の改善をめざして

インドネシア・ランプン州
農業・食糧安全保障局

デデ・モハマド・ジャミル

 ランプン州はジャカルタに最も近い州で、ジャワ島外に位置している。同州はきわめて有利な地理的条件によって、ジャワ島全体の、そして特にジャカルタの農産物の不足を緩和している。ジャワ島の農地は住宅地や工業地への転換で減少しているため、将来、インドネシアの農業生産を担う地域としてランプンの重要性と優位性が増している。
 同州はコメ、果物、ココナッツなどの国内向け農産物を生産しているが、さらにタピオカーキャッサバ、コーヒー、小エビ、アブラヤシ、ゴム、コショウ、カカオなどの輸出農産物の産地としても有名である。なかでもコーヒーは、同州の外貨収入源として最も重要な産物である。統計データによるとランプン州の外貨収入の少なくとも約38%は、コーヒーによるものである。
 この州はまた南スマトラ州、ベンクル州と共にインドネシアのコーヒー・トライアングルと呼ばれており、3州でインドネシア産ロブスタ種の少なくとも70%を生産している。インドネシアのコーヒー貿易において、ランプンの重要性は増している。なぜならインドネシア・コーヒーの大部分は、ランプン州バンダルにある国際港パンジャンから積出されているからである。大手コーヒー貿易業者の多くが、バンダル市でビジネスを行っている。
 一般的にランプン州のコーヒーの小自作農の平均作付面積は1〜2ヘクタールである。広大な農場主であっても、現実には小自作農が直面するのと同じ多くの問題を抱えている。高度な栽培技術の欠如、資金の不足などが、コーヒー生産の質と量の向上を妨げる要因となっている。最近、肥料と農薬の価格が急騰したため、コーヒー小自作農の経済状態は予断を許さないものになり、世界市場におけるコーヒー豆の価格低下が状況をさらに悪化させた。
 コーヒー価格を再生産に見合ったレベルに戻すため、国際コーヒー機関(ICO)は多くのプログラムを押し進めている。しかしながら供給過剰の影響で、多くのプログラムが無意味になっている。コーヒー生産量世界第3位のベトナムがコーヒー農園を拡大し続けたため、将来的に生産量はさらに増えるだろう。これによって、最も影響を受けるのがロブスタ種である。なぜならコーヒーの世界市場に占めるロブスタ種の割合はわずか25%であるにもかかわらず、ベトナム産コーヒーのほとんどはロブスタ種だからである。

 以上の状況から、コーヒー価格が上昇する可能性はかなり低い。ベトナムはさらにアラビカ種を栽培するため、いまだにコーヒー作付面積の拡大に努めている。アラビカ種は長い間、主としてブラジルが生産してきた種である。この問題(コーヒー小自作農の収入が低い)を解決するために、いくつかの選択肢が考えられる。
1.コーヒーの高品質化
これまで生産されたコーヒーの大部分はグレードW〜XTだった。これはICOが発表しているコーヒー品質等級の最低レベルである。コーヒーの販売価格を上げるために、品質の向上が望まれる。
2.コーヒー生産量の増大
コーヒー生産量は地域によって違いがあり、最低はタンガムス地区の500kg/ha、最高は西ランプン地区の850kg/haである。アジアの他の地域と比べると、ランプン州の平均生産量はフィリピンやパプアニューギニアのわずか半分である。また約2000kg/haに達しようとするベトナムの1/4でしかない。コーヒー生産を増大させるための一つの解決策は、優良な木への更新である。
3.間作農法
間作がコーヒー生産量を低下させる可能性を実証した例もあったが、間作作物による収入が小自作農の所得を全体として上昇させた例もあった。コショウ、バナナ、カカオ、チョウジなど多くの樹木が、間作作物として植えられた。コーヒー価格の低迷は今後も続きそうな気配であるから、副産物が小自作農の所得に貢献する可能性が高い間作は、優れた選択肢である。

 コーヒーの品質を高めるための行政府のプログラムは、いくつかの障害に直面しているようだ。たとえばコーヒーの大多数は樹齢が高く、栽培管理が不適切で、肥料と農薬が不足している。その上、各コーヒー農園は互いに離れており、そうした立地が耕作方法の確立や農業の技術指導を難しいものにしている。また、平均的小自作農は農作業の改善に熱心ではない。
 品質の向上は、栽培農民自身の手で始められなければならない。これは絶対に必要なことである。まず、取り組まなければならないのは、熟度が不十分なコーヒー豆の追放である。熟度の高い豆を収穫する農民は、熟れ方が不十分だったり選別されていない豆を収穫する農民より、高い販売価格を受け取るようになる。各地域でコーヒー豆の収穫後処理をする機械を利用することができ、またその機械を農民たちが操作することができれば、このプログラムは確実なものになる。
 さらに金銭的な裏付けも必要である。農民がコーヒー品質基準を満たせば、受け取り価格が高くなるというものだ。農民だけでなく、仲買人、中間業者、輸出業者など、コーヒー取引に関わるすべての業者にも、これらの措置は適用される。コーヒー品質基準を満たさなければ、出荷停止の制裁措置も適用されるべきである。
 現在のコーヒー価格では、農民たちが生産方法を改善して品質と量の向上を目指す気にはならない。民間企業が良質の苗木を生産しており、政府機関などが簡単な殻取り装置と乾燥用装置を提供している。
 コーヒー高品質化プログラムには、コーヒー栽培農民、取引業者(代理店、仲買人、中間業者)、輸出業者の3者が参加すべきである。このプログラムが成功すれば、栽培農民の収入はすぐさま上がるだろう。
「インドネシア・コーヒーは質がよくない」が、輸入業者側からの定評であった。ただでさえ世界の消費者の需要とコーヒー価格が下がっている。このためコーヒーの品質基準条件と、農法や処理方法の欠点を生産者に徹底することが必要である。さらに農民は政府指導のもと、病害虫と菌類対策の強化、収穫方法と収穫後処理の改善を行い、コーヒーに不純物が混入しないようにしなければならない。上述のさまざまなプログラムを用いれば、インドネシアのコーヒーは非常に良質になり、世界市場のなかで販路を確立できるだろう。

(九州大学大学院農学研究院に留学。4月に帰国)


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