2022.2 FEBRUARY 65号

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Keynote 1

SDGsと農業農村開発
~持続可能な食料システムを目指して~

国際連合食糧農業機関(FAO) 駐日連絡事務所長  日比絵里子

1 はじめに

 2020年の夏、コロナ禍で国境封鎖が続くなか、私は大洋州のサモアから日本に異動した。帰国したての私が驚かされたのは、SDGsという言葉が社会全体で幅広く知られて使われている事実だった。サラリーマンの方でSDGsの模様の入った社章をつけて通勤する方や、SDGs特集のテレビ番組や雑誌記事が目についた。私がこれまで勤務していた様々な国では見られなかった現象である。あらためて「すごい国での勤務になったな」と感心させられた。

 さて、そのSDGsは期限の2030年まで残すところ10年ということで、まさに秒読み段階に入っている。コロナ禍で動きがとれなかった2020年のしわ寄せも受け、2021年には世界的な課題で重要な動きが集中した年であったといえる。飢餓をゼロにすることを目指すSDGsの目標2(以下SDG2)の分野も例に漏れず、これからの十年を左右する合意が形成された年である。その根底にあるのは「持続可能な農業食料システム」という概念で、本稿では、食料安全保障という観点からSDGsと農村開発について簡単にご説明させていただきたい。

2 SDGsと食料安全保障の現状

2. 1. 食料安全保障とは

 飢餓をなくすことを目指すSDG2を語るにあたり、よく使われるのが「食料安全保障」(Food Security)という概念である。日本では自給率との関連で利用されるが、国際社会での定義は異なる。

全ての人が、いかなる時にも、活動的で健康的な生活に必要な食生活上のニーズと嗜好を満たすために、十分で安全かつ栄養ある食料を、物理的、社会的及び経済的にも入手可能であるときに達成される状況1

 この状況を達成するには以下の4つの条件が満たされている必要がある。


1)供給(Availability):十分な量と質(栄養や安全性も含め)の食料が生産されているのか

2)アクセス(Accessibility):物理的、経済的にも入手可能か

3)利用(Utilization):入手したものを正しく(栄養を損なわず、無駄を出さず、安全に)消費できるのか

4)安定(Stability):季節や時期に関係なく安定して入手できるか


 SDG2「飢餓に終止符を打ち、食料の安定確保と栄養状態の改善を達成し、持続可能な農業を促進する」ことはまさにこの食料安全保障を実現することである。ここから明らかなのは、食料の生産だけに注目しても食料安全保障は実現できない。加工、流通、消費、廃棄といった、食料のサプライチェーンの全工程が連動する。そのために、食料生産という概念を超えて、幅広いサプライチェーンの工程、そしてそれをめぐる政策、環境、個人の行動様式などをも考慮に入れる「農業食料システム」という概念が重視されるようになったのである。また、SDG2の実現は、気候変動、海洋や陸域での環境、生物多様性、健康、雇用、経済成長、教育、貧困、水資源、ジェンダーといった他のSDGsの目標や課題と密接に関連し、他のSDGsと切り離して考えることができない。

2. 2. 世界の飢餓と栄養不良の現状

 では今日、世界の食料安全保障はどのような状況にあるのか?最新の推定では、最大約8億1,100万人が栄養のある食料を入手できないで飢餓に瀕している(図1)。一年で最大1億6,100万人も増加したことになる。ちなみに、一年でこれだけの飢餓人口の増加があったのは何十年ぶりのことだ2。 更に問題なのは、約30億人が栄養価の高い、健康的な食事ができていないことである。栄養バランスのとれた食事がカロリーだけを満たす食事の5倍の値段がかかるという経済的な要因があるためだ。2030年までに飢餓をゼロにすることを目指すSDG2には逆行しているのが実態である。すべての人を養うだけの十分な食料が生産されているにもかかわらず。

図1 世界の飢餓人口の推移
図1 世界の飢餓人口の推移
出所:「世界の食料安全保障と栄養の現状」報告書2021年版、FAOほか


 この一年間での飢餓の急増の背景にあるのは新型コロナウイルスの感染拡大による影響である。供給の面で考えると、生産の現場で必要な肥料、飼料、種苗などが入手できない、労働者が不足する、サプライチェーンが混乱・寸断する、価格が高騰する、など多様な要因がある。他方、需要に関しては、幅広い経済的な影響により、失業や所得低下が起こり貧困層が増加し、経済的に食べ物を十分に購入できない人が増えた。そこに昨今のインフレ圧力によるさらなる価格高騰を上乗せすれば、脆弱な世帯の家計は甚大な被害を受けることになる。言い換えれば、新型コロナウイルスは、感染という医療や公衆衛生の問題にとどまらず、食料のサプライ・チェーンの問題にもとどまらず、社会経済的な角度から食料安全保障を逆行させる大きな脅威として襲ってきたのである。経済や社会的課題を避け、単に食料の生産の部分だけに着目しても飢餓や栄養不良は解決できない。

 今年1月に国際NGOオックスファムが発表した報告書3によると、2021年の世界の貧困層は32億9,700万人にのぼると推定される。このうち、新型コロナウイルス感染拡大が原因で貧困に陥った人口は1億6,300万人。一部の富めるものが富み、貧富の格差が拡大したと警鐘をならした。2030年を目指すなか、飢餓が増加するという逆風の現況では、手痛い数値である。

 ここまで、飢餓人口急増の要因として新型コロナとそれに起因する経済的な要因に注目した。しかし一般には、「紛争」「気候変動と環境問題」「経済ショックや経済停滞」が飢餓の三要因と言われる。新型コロナ感染拡大による影響は、深刻な経済ショックの一形態とも言えよう。他の2つの要因、紛争と気候変動と環境問題という長期的課題の緊急性は、コロナ禍のもとでも変わらない。以下、食料安全保障に影響を与える他の二つの要因について説明したい。

2. 3. 紛争の影響

 過去10年で紛争の影響下にある国の数はあまり変動していない。しかし、懸念されるのは、紛争がより頻発化そして激甚化していることである。図2は世界の中低所得国98ヶ国に影響を与えた紛争の回数と、各国が紛争にさらされたり巻き込まれた期間を計測したものである。

図2 世界の低中所得国における紛争の頻度と紛争影響下の期間の変遷
図2 世界の低中所得国における紛争の頻度と紛争影響下の期間の変遷
出所:「世界の食料安全保障と栄養の現状」2021年版 FAOほか


 一方、世界的に紛争の回数と期間は増加しているだけでなく、2005年に最低だった頃に比較して紛争による死者数も増加。それに伴い、難民や国内避難民の数も増加の一途をたどる。2021年の難民・避難民の総数は、2010年の2倍以上の8,400万人を超えると推定される4

 紛争の影響下に暮らす人々は、飢餓や栄養不足に陥りやすい。危険で耕作ができない、労働力が不足する、田畑が破壊された、種苗や肥料が入手できない、灌漑や他のインフラが機能しない、安全な輸送ができない、市場が閉鎖する、などの供給側の問題が発生するだけではない。経済ショック同様、失業や所得低下により食料を購入できない消費者や、難民や避難民など通常の生活を維持できない状況の人が増えることなど、経済社会的な課題に繋がる。紛争は、食料、資金、労働力など、経済が正常に機能するのに必要なものの流れを中断し、物資の不足を起こし、価格高騰を招き、市場の機能性を失わせる。私自身、3年半FAO代表として勤務した紛争下のシリア国内で、このような悲惨な状況を目の当たりにした。

 図3~図5は、いかに紛争の影響と食料安全保障が密接に関係するかを示している。

図3 慢性的食料不安にある人々の多くは紛争影響国に暮らす
図3 慢性的食料不安にある人々の多くは紛争影響国に暮らす
出所:「世界の食料安全保障と栄養の現状」報告書 日本語2017年版、国際農林業協働協会(JAICAF)5


図4 発育阻害の5歳未満児の多くは紛争影響国に暮らす
図4 発育阻害の5歳未満児の多くは紛争影響国に暮らす
出所:「世界の食料安全保障と栄養の現状」報告書 日本語2017年版、JAICAF6


図5 紛争に脆弱性や長期化する危機が重なった場合、食料不安は増大する
図5 紛争に脆弱性や長期化する危機が重なった場合、食料不安は増大する
出所:「世界の食料安全保障と栄養の現状」報告書 日本語2017年版、JAICAF8


 紛争は食料安全保障を脅かすだけでなく、食料安全保障が脅かされるとそれが紛争の火種になるという悪循環もある。国連安保理では、飢餓と紛争の間に関連を認める政治的な決議を全会一致で採択している7。「飢餓との闘い」と「平和の維持」の取り組みが切り離せないとの理解を反映している。

2. 4. 気候変動と食料安全保障

 気候変動に起因する極端な気象現象とそれによる自然災害と食料安全保障はどのような関係にあるのか。

 気候関連災害はいまや大規模災害の8割以上を占め、猛暑や干ばつ、洪水など、異常気象に起因する災害が、世界で複雑化、頻発化、激甚化しているといわれる。それにより、農業生産性が落ち、作付けパターンが乱れ、供給不足が起こる。農業や自然資源に依存する世帯では所得が落ち、食料の価格が高騰することで経済的に脆弱な消費者は打撃を受ける。食費を抑えるために食料の質や量を落とし、食品の多様性もなくし、飢餓や栄養不良に陥ってしまう。

 一方で、食料の生産や加工、消費、廃棄などは、気候変動の原因となる温室効果ガス排出にどの程度影響しているのか。2019年の世界で人間の活動のために排出された二酸化炭素換算値は総計540億トン9。排出の7割を占めるエネルギー部門に次ぎ、31%にあたる170億トンを排出しているのが、食料の生産や加工、流通、消費、廃棄などを含む「農業食料システム」である。その内、農業や畜産の出荷前の生産段階に由来するガス発生は約70億トン。それに、生産前(肥料生産など)と生産後(産品の加工や輸送、小売、廃棄処理など)の両工程で発生するガスの合計は約60億トン、森林の農地転換など土地利用の変化由来が約40億トンと続く。一方、農業食料システムからの他の温暖化ガスの排出の比率はもっと高く、メタンガスの排出では53%、亜酸化窒素については全体の78%となっている。

 昨年末公表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書の第I作業部会報告書(自然科学的根拠)10も、特に畜産や窒素肥料・厩肥の利用などが温室効果ガス排出に繋がっていることを指摘。気候変動の影響により猛暑や干ばつや豪雨などの極端な気象現象がさらに激甚化・頻発化すると予想し、それにより生態系、農業、畜産、水産などにこれまでより大きな影響を及ぼすことになると、あらためて警鐘をならした。

 温室効果ガス排出を減らす農業食料システムの構築(緩和策)と、気候変動の影響に適応できる強靭な農業食料システムを作ること(適応策)の二刀流の対策を、加速することが急務である。

 生態系や食料安全保障を脅かす環境関連の課題は多々ある。生物多様性の喪失もその一つである。食料安全保障や、生物や生態系が提供する人類の利益になるサービス(生態系サービス)を実現するためにも、生物多様性は必要不可欠である。しかし、この分野で世界は非常に厳しい局面を迎えている。

 FAOが2019年に公表した食と農に関する生物多様性の報告書11によると、食料として栽培される約6,000種の植物種のうち、わずか9種が作物生産の三分の二を占めている。畜産の97%を支えるのは8種のみで、家畜品種の26%が絶滅寸前と言われる。「プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)」という概念を提唱したストックホルム・レジリエンスセンターのロックストローム博士と科学者グループの報告書12でも、生物種の絶滅の危機は、地球が安定した状態で回復できる限界値を超える高リスクの範囲に入っていると強い警告を発している。

 生物多様性なくして農業は存在できないが、多様性喪失の最大(86%)の原因は農業生産13と指摘される。両者は相互に影響し合う一蓮托生の状況である。

図6 プラネタリー・バウンダリーの考え方で表現された現在の地球の状況
図6 プラネタリー・バウンダリーの考え方で表現された現在の地球の状況
出所:平成29年版 環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書
注:Will Steffen et al. 「Planetary boundaries:Guiding human development on a changing planet」より環境省作成

2. 5. 食料ロス・廃棄について

 飢餓の直接的な要因ではないが、世界で大量の食料が廃棄され、無駄になっている現実も考えなければならない。FAOは2011年に食料生産の約3分の1はロス・廃棄となり食されていないという報告書14を出し大きな反響をよんだ。一般に、「食料ロス」(food loss)といわれるのは、生産の現場に近い側、つまり「生産から小売りの手前まで」で起こる損失を指し、「小売りと消費者」による損失は「食料廃棄」(food waste)と呼ばれている。誰がどこで物を無駄にしているか理解できると、有効な対策を立てやすい。

 一般的に、発展途上国では、生産から小売りの手前、特に収穫、加工、流通までのロスが大きいのが特徴である。収穫物の取り扱いが分からない、ポストハーベストで無駄が出る、貯蔵施設やコールドチェーンなどインフラが整備されていないため傷みやすい、などの要因が考えられる。一方、先進国では、小売や消費者による廃棄が多い傾向にある。

 食料ロス・廃棄は、その生産に使われた自然資源とエネルギーが無駄になるだけでなく、廃棄のために新たに温室効果ガスを排出することも問題である。日本で一年間に発生する食料廃棄(小売・消費レベルで発生する廃棄)は570万トン(令和元年度)15。国連世界食糧計画(WFP)の年間支援量の420万トン(2020年実績)16をはるかに上回っている。農家など生産の現場での廃棄の量も加算すれば、日本での食料のロスと廃棄は大きな課題として残っている。

3 ひずみの解消へ向けて

 世界のすべての人を養うに十分な食料が生産されているにもかかわらず、多くの人が飢餓や栄養不良に苦しむ。他方、生産された食料の三分の一は損失したり廃棄される。ひずみのある食料の生産や消費のあり方を修正し、より持続可能な新しいシステムに変革することが急務である。

 これまで、食料と環境は両立できないというゼロサム的な見方が強かった。しかし、岐路に立つ地球を救うため、相互依存を強調する方向で国際社会の理解が進んでいる。さらに、貧困、不平等などの社会経済的な要因や、紛争の平和的解決など、狭義の食料サプライチェーンの枠を超えて、食料安全保障を考える必要があるという意識が強まってきた。

3. 1. システムという概念

 この流れに則り登場したのが「農業食料システム」の概念だ。食料の生産、収穫、加工、貯蔵、輸送、輸出入、小売、外食産業、個人消費、廃棄などを縦割りでとらえず、全体をひとつの「システム」として見ることで、包括的な変革を可能にしようと目指す。単なる食料サプライチェーンを示しているように見えるが、食べ物に関わる部分だけではなく、生産者や消費者の背景にある経済社会的な要因、例えば生計、所得、雇用、教育(知識)、政策、文化背景、行動様式や価値観なども考慮に入れることが特徴である。

3. 2. 国連食料システムサミット

 この変革を目指して昨年9月に国連が開催したのが、食料システムサミットである。食料安全保障の課題を通じSDGsの達成状況を確認し、農業食料システムが環境に与える負荷について議論した。現状を変えるには大胆な変革が必要との結論に達し、以下5つの行動を提起した17

(1)すべての人々に栄養を与える

(2)自然に基づく解決策を推進する

(3)公平な暮らし、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)とコミュニティーのエンパワーメントを推進する

(4)脆弱性、ショック、ストレスに対する強靭性を高める

(5)実施手段を加速する

 注目したいのが、環境に優しい生産への関心が高かったこと。その関連で補助金や関税のあり方に関する提言もあり、地産地消の促進、環境の認証制度、消費者や生産者の意識改革なども議論された。これまで双方向で思い入れがありながらもゼロサム的に対峙していた「環境」と「食料」が、相互依存の立ち位置に移動した政治的な契機と言えよう。

4 農林水産業や農村開発への期待

 世界の食料安全保障の現状とその背景、農業食料システムという概念、新しい世界的な動きについて言及したが、そのような背景のなかで農林水産業や農村開発は何を期待されているのか?

 農林水産業は食料安全保障のための生産を担う基幹経済セクターである。ただ、単なる生産だけではなく、環境への負荷を最小限にしながら持続可能な形で食料を生産するための変革の最先端にいると見られる。

 ここでは変革という言葉が使われるが、新しい技術革新とは並行して、昔からある生産の方法を見直す気運も高まっている。例えば、日本を含め世界各地には、何世代にもわたり、多様な生態系を維持し、気候や地理などの制約要因を知恵と工夫で克服して環境に適応・調和して発展した農林水産業が存在する。小規模の生産形態だが、先人の知恵を踏襲し、社会的・文化的な価値を保存し、災害などへの強靭性をもち、地域の持続可能な発展にも貢献してきたような生産方法や土地管理システムである。FAOが2002年から取り組んできた「世界農業遺産」18という認定制度で、現在世界22ヶ国で62ヶ所が認定されている。

 並行して、2014年の国際家族農業年をきっかけに、昔ながらの土地固有の生産方法や資源管理のあり方を再評価する動きも始まった。緑の革命以来、資本集約的な大規模農業が重視され、他方、世界の農業経営の9割を占め、食料の8割を生産している家族農家は、主に発展途上国において非効率で時代遅れな生産形態とみなされてきた。しかし、環境負荷の高い農業や食料生産のあり方の課題が表面化するなかで、小規模でも多様な生産活動に従事し、地域の食料安全保障に貢献し、環境負荷の低い家族農業や小規模農業に注目が集まってきた。これまでの「過小評価」を覆すきっかけとなったのである。小規模だからあるいは家族経営だから評価されたというわけではない。むしろ変革の担い手として、世界が直面する農業食料システムの課題解決のいとぐちとしての可能性が評価されたのである。強い関心を背景に、2019年からの10年間も「国連家族農業の10年」に指定された。農業食料システム変革のためのツールとして今後も広く利用されていくことを期待したい。

 経済や生計の面では、農山漁村でいかに新たな付加価値を生み出し、所得の向上や雇用の拡大に繋げるかが、今後も大きな課題として残る。発展途上国では、農村開発や投資は、貧困撲滅のための重要な政策の柱である。特に、先端技術を活用したスマート農業を適切に導入することは、重要課題のひとつである。日本では、農林漁業と製造業、流通や小売などが一体化した6次産業化も進められている。サプライ・チェーンの川上と川下が協力することで、新しい経済的機会が生まれることが期待される。

 生産者や消費者の意識も変わりつつある。日本は、食料の自給率が4割を切るため、「フード・マイレージ」(食料輸送で排出された温暖化ガスの推定)は、諸外国よりも高い。輸送だけでなく、食品が生産から加工、輸送を経て食卓に到達するまでに排出した温室効果ガスを計る「カーボン・フットプリント(炭素の足あと)」や、生産するために必要とした水資源を推定する「バーチャルウォーター(仮想水)」などの概念を通じ、輸入食料を通じ、他の国の資源に影響を与えたり、気候変動を後押ししていることがより可視化された。輸入食品の背景を想像し、新しい基準で食べ物を選ぶ消費者も出てきている。これに伴い食材や生産過程などでの環境負荷や人権保護などを判断する目安になる認証制度は今後ますます重要になるだろう。

 「誰一人取り残さない」というSDGsのスローガンに則り、社会・経済的弱者のニーズを考慮することも大切である。貧困や不平等が存在するなかで、栄養価の高い食料へのアクセスをいかに改善していくのか。同時に、脆弱な生産者に不当なしわ寄せが寄らないよう配慮することも肝要である。

 農村の持続可能な発展は、飢餓や栄養不良の解決だけでなく、他のすべてのSDGsの達成に重要な役割を果たすと期待が寄せられている。農村開発に関する日本の豊かな経験や知見が世界に共有されること、また海外との積極的な交流を通じ日本の農村活性化がさらにすすむことを期待する。


1 1996年世界食料サミットより.
2 「世界の食料安全保障と栄養の現状」報告書 2021年版, FAOほか国連関連機関, https://www.fao.org/publications/sofi/2021/en/
3 “Inequality Kills: The unparalleled action needed to combat unprecedented inequality in the wake of COVID-19.” 2022. Oxfam. https://www.oxfam.org/en/research/inequality-kills
7 国連安全保障理事会確認決議 2417(2018), https://www.unic.or.jp/files/s_res_2417.pdf
9 “The share of agri-food systems in total greenhouse gas emissions, Global, regional and country trends 1990-2019,” FAOSTAT, Analytical Brief 31, 2021, https://www.fao.org/3/cb7514en/cb7514en.pdf
10 “Climate Change 2021: The Physical Science Basis,” IPCC Working Group 1, https://www.ipcc.ch/report/sixth-assessment-report-working-group-i/
11 “The State of the World’s Biodiversity for Food and Agriculture,” FAO Commission on Genetic Resources for Food and Agriculture, 2019, https://www.fao.org/3/CA3129EN/CA3129EN.pdf
12 “Planetary Boundaries: Exploring the Safe Operating Space for Humanity” Rockström, J. ほか, 2009, Ecology and Society 14(2): 32. [online] URL: http://www.ecologyandsociety.org/vol14/iss2/art32/
13 “Food System Impacts on Biodiversity Loss: Three levers for food system transformation in support of nature” The Royal Institute of International Affairs Chatham House, UNEP, Compassion in World Farming, 2021
14 「世界の食料ロスと食料廃棄:その規模, 原因および防止策」, FAO, 翻訳JAICAF, 2011年, https://www.fao.org/3/i2697o/i2697o.pdf
15 農林水産省ウェブサイトより. https://www.maff.go.jp/j/press/shokuhin/recycle/211130.html
16 国連WFP協会ウェブサイトより. https://www.jawfp.org/worldfoodday2021/
17 国連食料システムサミット:事務総長による議長サマリーおよび行動宣言, https://www.unic.or.jp/news_press/info/42974/


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