2022.2 FEBRUARY 65号

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JIIDからの報告
世界の農業農村開発に向けた日本水土総合研究所の取組

1 はじめに

 一般財団法人日本水土総合研究所(以下、JIIDジード)は、1978年(昭和53年)の設立以来、一貫して産官学民の知見を集め、行政の知見に学術と民間技術を融合させ、国内外の農業や農村に関する調査研究に取り組んできた。このうち海外を対象とした調査研究(以下、JIID海外事業)は、主に開発途上国における①食料の安定供給、②農業者の所得向上、③生活用水の確保や農道の整備といった農村生活環境の整備を目的とした農業や農村の開発(以下、農業農村開発)に取り組んできた。本報告ではJIID海外事業について、これまでの取組を概観した上で、世界の農業農村の現状を踏まえた今後の取組方向について紹介する。

2 JIID海外事業の背景

 日本は2000年を超える長い稲作の歴史の中で、水田で稲を栽培するために必要な水を確保し供給するかんがいや、稲の生育に害となる余分な水を排除する排水(合わせて灌漑排水)に取り組んできた。このため、灌漑用水を河川から取り入れるしゅすいぜき、水不足に備えて灌漑用水を貯めておくちょすい、これらの水源施設から水田に灌漑用水を送ったり、水田の余分な水を排除したりする水路といった農業水利施設を建設し利用してきた。この過程で、水利施設の建設に必要な土木技術に加え、灌漑用水の配分や、水利施設の操作、維持管理に必要な組織体制やルールといった制度を発達させてきた。第二次世界大戦後は、①戦後の食糧難にはじまり、②高度経済成長下での農業所得の低迷や農村の環境悪化、③グローバル化に伴う農産物貿易の自由化、④工業化や都市化に伴う気候変動や農村人口の減少・高齢化といった時々の課題に対応すべく、農業農村開発の対象範囲を拡大してきた。

 このように日本が蓄積してきた農業農村開発の知見は、開発途上国における飢餓や貧困の撲滅に加え、経済成長に伴い直面する様々な課題への対応に有用な情報を提供すると考えられる。食料やエネルギー、経済活動の多くを他国との貿易に依存する日本にとって、農業農村開発分野の国際協力を通じた諸外国との共存共栄は不可欠である。このような認識の下でJIIDは、日本政府の国際協力や国内政策の動向と歩調を合わせ、海外事業を展開している。

3 JIID海外事業の経過

3. 1 1970年代後半から1980年代

 第二次世界大戦後、開発途上国を中心に食料の確保に向け、農業水利施設の建設が加速した。JIIDが海外事業を開始した1970年代後半から1980年代、経済大国となった日本は引き続く経済成長を背景に積極的に国際協力を進めた。JIIDは日本の国際協力に貢献するため、農林水産省や国際協力事業団(現、国際協力機構)と連携し、①開発途上国で農業水利施設の建設に携わる日本人技術者の派遣、②開発途上国の技術者への研修の実施、③海外技術マニュアルの作成を開始した。また、戦後日本がいち早く加盟した国際機関である国際灌漑排水委員会(ICID:International Committee of Irrigation and Drainage)に日本から参加するICID日本国内委員会や、ICID日本国内委員会の支援を目的に1984年に設立された日本ICID協会の活動支援を開始した。このほか中国水利部(1981年〜2011年)や中国建設部村鎮建設司(1994年〜2011年)と技術交流を行った。


3. 2 1990年代

 東西の冷戦構造が崩壊した後の1992年の政府開発援助大綱では、開発途上国の安定と発展、環境問題、飢餓や貧困、人造りなどが重要課題とされた。農業農村開発分野では、援助国と被援助国の双方の財政的制約の顕在化や、灌漑農地の新たな適地の減少もあり、水源施設、水源から分岐する幹線水路などの基幹的農業水利施設が既に建設された地区での灌漑用水の有効利用による増収が優先課題とされた。このため、幹線水路からさらに分岐する支線水路や、灌漑用水を水田や畑といった圃場ほじょうに直接引き入れる、あるいは圃場の余分な水を排除する末端の用排水路の建設や改良、維持管理(以下、末端整備)、灌漑用水の公平な配分と効率的な利用に向けた水利施設の操作や運営(以下、水管理)の重要性が指摘された。1990年代後半からは灌漑用水を実際に利用する農業者が末端整備や水管理に参加する参加型水管理(PIM:Participatory Irrigation Management)が盛んに議論された。JIIDは、このような議論に日本の参加型水管理の制度である土地改良区や土地改良法の知見を反映させるための調査研究を開始した。また、開発途上国で活躍する日本人技術者への支援強化や農業農村開発への幅広い理解の促進に向け、技術情報の提供や海外情報誌(ARDECアルデック)の発行を開始した。


3. 3 2000年代以降

 国連は、貧困や飢餓の撲滅、安全な飲料水の確保、気候変動への対応といった地球規模の課題に対し、ミレニアム開発目標(MDGs、2001年)や持続可能な開発目標(SDGs、2015年)を設定し取り組んだ。農業農村開発分野でも、これらの目標を踏まえた取組が進められ、JIIDは食料増産や灌漑用水の効率的利用に向けて参加型水管理の調査研究を進めた。また2013年5月に政府が策定した「インフラシステム輸出戦略」の一環として、参加型水管理に加え、肥料や農業機械、収穫物などを運搬するための農道の整備、農業の機械化ニーズに応えるための圃場の区画の整形や拡大などを一体的に進める圃場整備を開発途上国に適用するため、計画設計手法やマニュアル等を検討する実証調査を開始した。このほか日本のグローバル・フードバリューチェーン戦略を踏まえ、アジア及びアフリカ(ミャンマー、ベトナム、ケニア及びタンザニア)において、農業者の所得向上に向けて食料の生産から流通、加工、販売の各段階で付加価値を高めるフードバリューチェーンの構築のための農業農村開発に向けた現地実証調査を行い、その後の日本の国際協力の素材となった。

4 近年の主な取組の紹介

 JIIDが近年取り組んでいる参加型水管理を含む灌漑排水や、圃場整備、フードバリューチェーン構築は、今後の日本の国際協力においても活用が期待される。これらのうち本報告では灌漑排水について、その主な成果である、①灌漑用水の効率的な利用、②参加型水管理の推進、③水路構造の適切な選定に関する取組を次に紹介する。


4. 1 灌漑用水の効率的な利用

 東アジア、東南アジア及び南アジアのうち、夏に海からの季節風の影響によって水稲作に適した降水と気温が得られる湿潤な地域(以下、アジアモンスーン地域)では、土地条件が許せば農業者のほとんどは他の作物に比して有利な水稲作を選択してきた。さらに湛水下でも生育する水稲は、雨期の多量の降雨による洪水で広範囲の農地が湛水する地域では、ほとんど唯一の栽培可能な作物である。

 1990年代以降、持続可能な水利用が課題とされ、世界の水利用の多くを占める灌漑用水の効率的な利用の議論が盛んになった。JIIDは、このような議論は、作物の栽培には灌漑が不可欠な乾燥地域や半乾燥地域の灌漑を念頭に行われる傾向にあり、世界の灌漑用水の半分を利用する湿潤地域の灌漑の実態が十分に反映されていないと考え、2003年3月に京都で開催された第3回世界水フォーラムに向け、日本を含む湿潤なアジアモンスーン地域の水田灌漑の特徴を整理した。その概略は表1のようなものである。

表1 湿潤なアジアモンスーン地域の水田灌漑の特徴(概略)

特徴

補足説明

①相対的に水量豊富な自然の水循環に適合した持続性の高い灌漑が行われている。
・特に雨期は降雨量が多く、補給的な灌漑が主である。
・年間では比較的豊富な雨量が期待できることから、地形、地質等の特性を踏まえ、河川など地表の比較的近くを流れる水を作物栽培にあわせてうまく取水あるいは貯留し、灌漑に利用している。
・比較的降水量の少ない地域では、ため池の建設、河川の伏流水や浅層地下水の利用といった効率的な水利用の技術が発達している。
②雨期における水の希少性(価値)が短期的に大きく変動する。
・雨期に頻発する短期の渇水時には、希少で経済的に高価な水を節約するため、労働力を投下して水路からの漏水の削減や水田からの排水の再利用などが行われる。
・一方、水が豊富で経済的に安価な時には、豊富な水を有効に活用し、圃場への送水や圃場内の配水に掛かる労働力などの相対的に希少な投入を節約する。
・極端に水が多い場合、過剰な水は水害を引き起こすことから邪魔なものとなる。
③灌漑用水は、多目的に利用されるとともに、多面的な機能を発揮している。
・灌漑は、作物生育のための湿潤に加え、水管理労力の節減、雑草繁茂の抑制、土壌中に蓄積する塩類の除去、霜害の防止、高温や低温障害の抑制、薬剤散布、連作障害の回避、土壌への養分の補給、土壌浸食の防止などにも利用される。
・灌漑には、生活用水の確保、地下水のかん養、洪水の緩和、地域生態系の保全などにも貢献している。


 第3回世界水フォーラムの機会に開催された「水と食と農」大臣会議の議論を踏まえ、アジアモンスーン地域を中心とした水田と水環境に関する情報交換や連携強化の場として国際水田・水環境ネットワーク(INWEPFイネップ:International Network for Water and Ecosystem in Paddy Field)が設立された。INWEPFには、①水田の多面的機能、②農業用水管理の効率化に向けた政策や技術、③持続可能な水田農業に関する国際協力と連携に関する3つの作業部会が設置され、知見の共有や総合化に向けた議論が継続されている。


4. 2 参加型水管理の推進

 JIIDは、1990年代後半以降に盛んになった参加型水管理の議論への日本の貢献を具体化するため、①参加型の末端整備と水管理との連携実施、②水利組織の育成、③土地改良区による国際協力への参加といった観点から関係資料を整理した。その概要を次ぎに紹介する。

(1)参加型の末端整備と水管理との連携実施

 JIIDは2007年12月、農林水産省からの委託を受け、有識者の協力を得て、「アジアモンスーン地域における農民参加型末端整備・水管理指針(以下、指針)」を策定した。指針は、アジアモンスーン地域において農業者の参加による末端整備と水管理を連携協力して実施するための調査、計画、設計施工、管理などの方法や留意点を整理するとともに、末端整備や水管理に参加する農業者で構成される水利組織の設立と活発な活動のための留意点を整理している。その概略は表2のようなものである。

表2 水利組織の設立と活発な活動のための留意点(概略)
①農業者の参加による末端整備は、全てを水利組織に任せるのではなく、技術的な知見を有する行政(中央政府、地方政府、村落組織等)と、現実の水需要を把握している農業者(農業用水の利用者)との共同で実施すること
②圃場まで配水が可能な末端水路(ハード)と、水源を共有する他の水利組織との共同体といった公平な水配分が期待できる配水調整(配水計画の策定、施設操作の実施、配水状況の監視など)を行う組織(ソフト)が存在すること
③末端整備の計画段階から水利組織を設立し参画させること
④行政担当者と農業者による共同での現地調査と意見交換を通じ、地域の水利用を取り巻く問題点と制約条件を把握すること
⑤水利費の徴収率を上げるため、会計帳簿の公開等を行うこと(会計係を設けた会計帳簿の作成、第三者による会計監査と総会での報告、帳簿の組合員への公開など)
⑥水利組織の活動を継続するため、月例といった定期的な会合を開催すること
⑦行政組織・担当者と水利組織・農業者との共同学習によって制度と能力を向上させること
⑧整備事業制度や水利権などに関する相手国の制度と日本の制度との違いを意識すること
⑨末端整備については、相手国の事業実施の方式そのものが、どうあるべきかを正面から検討することを目的とするのではなく、相手国の制度、これまでの経緯や事情の中でやりやすい方式をとること


 また指針は、国際協力においては、相手国の伝統的方法を認め、その範囲内で改善の方策を示す一方、既存の制度、方法、意識等を変えることで、より良い成果が得られることを示すことも重要であることや、相手国で持続してきた伝統的な灌漑の制度は、その国の自然的、技術的、経済社会的、歴史的な背景に基づく合理性があり、近代的灌漑の開発と管理にとっても参考になることを指摘している。

(2)水利組織の育成

 JIIDは2013年3月、基幹的農業水利施設が建設された大規模な灌漑地区の中で、既に末端整備も行われた数十から数百ヘクタール(ha)のまとまった地域を対象に、水利組織の設立を支援する「農民参加型水管理(PIM)制度構築支援ガイドライン(以下、ガイドライン)」を作成した。ガイドラインは、水利組織の果たすべき役割を、①公平な水配分、②農業水利施設の維持管理、③水利費の徴収、④資金の管理、⑤紛争の解決、⑥外部との交渉、⑦不正の防止などとした上で、組織体制やルールといった制度面に着目して水利組織の設立や活動の継続に必要な基本的要件を整理している。その概略は表3のようなものである。

 またガイドラインは、活動を継続できる水利組織を育成するために必要な事項として、水利組織の構成員である農業者の能力向上、灌漑を所管する行政機関の担当者の能力向上、水利組織と行政機関との適切な役割分担と協議の枠組みの存在、水利組織と行政機関との適切な費用分担を指摘している。

(3)土地改良区による国際協力への参加

 日本においては、土地改良法に基づき、一定のまとまった農地を耕作する農業者が全員参加する土地改良区という団体を設立し、農業者も費用を負担して農業水利施設や農地の整備を行うとともに、土地改良区が主体的に灌漑用水の配分や水利施設の操作・維持管理を行う参加型水管理の制度が確立している。日本で参加型水管理を実践している土地改良区の担当者が、制度が未発達の開発途上国の担当者に日本の知見を紹介することは有効であると考えられる。

 このためJIIDは2016年3月、「土地改良区による国際協力促進を目指して(農民参加型水管理支援マニュアル)(以下、マニュアル)」を作成した。マニュアルでは、土地改良区が海外からの研修員を受け入れる際の手順や留意事項、説明用資料としての日本の土地改良制度の概要等に加え、水利組織の状況を評価するための指標(以下、指標)を整理している。指標は、表3に示した事項に加え、次のような点にも言及している。

①組織の代表者が地域外居住者ではなく、地域住民から選出されていること
②組織の代表者と職員が中央政府ではなく、組織の構成員に対して責任を負っていること
③灌漑用水の配分において上流と下流との格差が是正されていること
④組織の運営規則を破った構成員が、段階的な制裁によって構成員または組織の役職員によって処罰されること
⑤灌漑用水の割当て、費用負担、監視、強制、紛争解決などの組織運営活動が多層化された組織体制によって実施されていること


表3 水利組織の設立や活動の継続に必要な制度面の基本的要件(概略)
①組織の構成員によって合意され、関係機関にも了承された共通目的を有していること
②組織の活動や受益の範囲が特定されていること、構成員の資格が明確であること
③構成員や関係機関から信頼され、行動力のある、良いリーダーが存在すること
④構成員が共通目的を達成しようとする意欲を有していること
⑤定期的な会合、会計資料の公開等により組合員に必要な情報が共有されていること、確立された体制によって組織の意思決定や命令伝達、調整に必要な構成員間のコミュニケーションが確保されていること
⑥構成員の権利(灌漑用水の利用、総会への参加・発言など)と義務(水利費の支払い、水路補修への労働力提供など)が明確であり、釣り合いがとれていること
⑦公平な水配分や水利費支払い、徴収された水利費の使途などの組織運営の透明性が確保され、監視されていること
⑧組織の決まりや決定事項を遵守しない構成員に対して、組織内で合意された内容、手順等に基づき相応の罰則が確実に適用され、構成員の相互監視等により、その実行が確保されていること
⑨組織としての意思決定と問題解決の能力を有していること
⑩組織の自律性を確保するため、安定した収入を持ち、可能であれば政府からの補助金が無くても持続的に運営できるなど財政的に自立していること


 マニュアルについては、開発途上国で参加型水管理に携わる日本人技術者、国内で海外からの研修生を受け入れる土地改良区などに配布し、国内外の国際協力の現場で活用されている。指標については、タイ及びカンボジアの水利組織に試行的に適用し、その結果を踏まえ、それぞれの水利組織の強化に向けた助言を行った。

 今後、指針やガイドライン、マニュアルが、さらに多くの協力現場で活用され、その試行結果の蓄積により指針等の改善と参加型水管理の促進が図られることを期待する。


4. 3 水路構造の適切な選定

 開発途上国では、過去に建設された農業水利施設の老朽化に伴い、施設の改修や維持管理に掛かる費用が増加する傾向にある。このため今後建設する水利施設については、建設費用に加え、施設供用期間内に必要な改修や維持管理の費用を含めた総費用であるライフサイクルコスト(以下、LCCエルシーシー)を最小化することが重要となっている。

 このためJIIDは2019年3月、開発途上国において今後重要になると考えられる支線水路の建設について、LCCを考慮して適切な水路構造を選定するための「ライフサイクルコストを考慮した水路選定手法ガイドライン(以下、LCCガイドライン)」を作成した。LCCガイドラインは、日本、カンボジア、タイ及びミャンマーの支線水路を想定し、代表的な規模(水路の最大流量として1.0m3/sと3.0m3/s)と構造(コンクリート水路、練り石積み水路、レンガ積み水路、及び土水路)についてLCCの算定方法と試算結果を提示している。

 参考としてカンボジアの試算結果をに示す。同国で一般的な土水路の経済的な有利性、改修・維持管理の重要性が見て取れる。また、改修・維持管理費用の少ないコンクリート水路の普及には初期建設費用の低減が課題であると推定される。この手法が開発途上国の多くの現場で試行され、その結果の蓄積と手法の改善に加え、実際の現場における水路構造の選定が改善することを期待する。

図 支線水路建設のLCC試算結果(カンボジアの事例)
図 支線水路建設のLCC試算結果(カンボジアの事例)
注)水路の最大流量3.0㎥/s、延長9mの場合

5 世界の農業農村の現状とJIIDの取組方向

 2015年に設定されたSDGsについては、2030年の実現に向けて具体的な取組を進める段階にあると言われている。農業農村開発は、SDGsの17の目標のうち特に貧困、飢餓、水・衛生、気候変動などと密接に関連している。また例えば、参加型水管理の推進による増収と併せて灌漑用水を生活用水、畜産用水、養魚等に活用したり、水田の末端整備を行い節水型の水管理を行うことで収量の増と灌漑用水の効率的利用に併せて温室効果ガスの排出抑制に貢献したりするように、複数の目標に同時に貢献できる可能性がある。

 他方、開発途上国を中心に継続する人口増加に加え、経済発展に伴う肉・食用油の消費拡大や環境意識の高まりは、食用・飼料用の穀物・油糧種子、バイオ燃料の原料作物などの需要を増大させている。地球温暖化に伴う気候変動や世界的に広がる感染症は、作物の栽培環境や、生産物・種子・肥料等のサプライチェーンを攪乱し、基礎的食料である穀物の生産や地球環境を脆弱化させている。

 このような中でJIIDは、その特徴である次の3つの点に留意し、世界の農業農村開発に向けた取組を強化したいと考えている。

①国内外における産官学民のネットワークの維持と活用
②産官学民の知見を融合する場2の確保
③現場主義3の徹底

 これらの点に留意しながら、蓄積したアジアモンスーン地域における水田灌漑の知見を基礎に、その知見をさらに深めるとともに、アフリカ、インドなどでも、その農業や農村の実情を踏まえた上で、稲作を含む灌漑農業を核とした農業農村開発に取り組んでいきたいと考えている。

6 おわりに

 農業農村開発は、具体的な地域の農業や農村を対象とすることから、地域によって異なる自然条件や、経済社会条件、歴史的発展過程などに影響され、点から面への展開が進みにくい特徴を有している。このため、現地の人との協働によって対象地域の気候や風土を踏まえた実証的な調査研究が重要であると考えている。このような地道な取組の継続による知見の蓄積によって、SDGsに掲げる飢餓や貧困の削減、農村生活環境の改善、気候変動への対応等に貢献できると考えている。

 最後になったが、JIIDの調査研究は、多くの民間技術者、行政担当者、研究者、農業者等の御指導と御尽力を得て進めている。ここに感謝の意を表するとともに、引き続きの御協力をお願い申し上げる。


(調査研究部 渡部 和弘)

1 「民」とは農業者やその集まりである土地改良区, 地域住民で構成する活動組織などを想定している.
2 例えば, 開発途上国において技術の実証や展示を行うモデル圃場の運営や, 日本と開発途上国の関係者が意見交換する会合の開催が想定される.
3 具体的には, 開発途上国の現場において現地の人と協働し取組を実践することや, 現場の人の知見に学ぶ姿勢を徹底することを考えている.


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