COVID-19とグローバル・フードシステム
1.はじめに 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が中国の武漢にて最初に確認された2019年の年末から、はや一年が経とうとしている。以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、過去に例を見ない潜伏性の高さから、ヒトの移動と経済活動に伴い、グローバル化の進んだ現代社会で感染を急速に拡大してきた。世界保健機関(WHO)は、2020年1月30日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言、3月11日にはCOVID-19がパンデミック(世界的流行)に相当するとの認識を示した。感染症拡大を防止する措置として、各国で都市封鎖(ロックダウン)を含む厳しい移動規制が実施され、世界はかつてない経済危機に陥っており、未だに底が見えない状況である。感染防止対策疲れによって各国が経済再開に踏み出すなか、10月に入るとヨーロッパやアメリカで第一波を上回る感染者数の増加が報告されるようになり、WHOは、10月24日、北半球でCOVID-19の状況が再び重大な岐路に直面するとの声明を発表した。10月末−11月初頭時点でロックダウンの再開に踏み切る国もあり、未だ収束する気配はない。 COVID-19による保健・経済危機の衝撃は世界中を席巻し、保健・教育・所得の三側面に打撃を与えることで、人間開発の危機をもたらしている(UNDP 2020)。パンデミックはとりわけ社会保険制度へのアクセスが限られている脆弱な社会層に大きな衝撃を与え、貧困と格差を急拡大させている(Stiglitz 2020)。2020年10月、世界銀行は、紛争や気候変動の影響で鈍化傾向にあった貧困削減のスピードが、COVID-19パンデミックのためにさらに減速したことにより、過去20年間で初めて極度な貧困*にある人口数が増加するとの見通しを発表した(World Bank 2020)。また、数百万から数億の人々が1年以内に飢餓の瀬戸際に押しやられるという「飢餓のパンデミック」も懸念されている(WFP 2020)。 COVID-19パンデミックを機に、世界的な食料安全保障への懸念も高まり、リスク伝播のチャネルとしてのグローバル・フードシステムが着目されるようになった。フードシステムとは、EATランセット委員会(EAT-Lancet Commission)*によると、「食料の生産・加工・流通・調理・消費に関連するすべての要素と活動(Willett et al. 2019)」と定義される。COVID-19のフードシステムへの影響を論じるうえで、とくに着目されているのが、流通・消費・生産である。 まず、COVID-19を契機として浮上した懸念は、移動規制などが生産と消費を結ぶ流通を分断することで生じるフードサプライチェーンへの影響であった。実際に、ロックダウンや国境封鎖が開始されると、国際的な流通に関する不確実性は、食料輸出規制によって生じた2007/08年の食料価格危機の再燃に対する懸念をもたらした。今回に関しては、国際機関が穀物備蓄・生産見通しに関する情報提供と国際協調の呼びかけを迅速に行ったことも功を奏して、世界穀物市場レベルでの危機は回避されている(Schmidhuber 2020)。にもかかわらず、COVID-19はグローバル・フードサプライチェーンの流通面における潜在的な脆弱性を浮かび上がらせる契機となった(Batini, Lomax, Mehra 2020)。 他方、COVID-19は、グローバル・フードシステムの両端に位置する消費・生産の双方にまたがる、より構造的で根の深い問題を露呈することになった。現在のグローバル・フードシステムは「飢え・微量栄養素不足・過体重と肥満」という栄養の三重苦を抱えているが、バランスの悪い食生活のために、免疫が低下し、栄養状態に問題を抱えた人々ほど新型コロナウイルスの犠牲になっていることが報告されている。また、フードシステムは、COVID-19以外にも大きな課題を抱えている。つまり、健康な食生活に欠かせない食料を入手可能な価格で十分に生産できないばかりか、その食生活を支える生産過程で、大量の温室効果ガスを排出し、土壌・水・大気・生物多様性の劣化を伴っているということである(GLOPAN 2020)。 いい換えると、グローバル化された国際社会において、現状のフードシステムは、人間の健康と地球システムの持続性の双方を損ねることによって、現在、われわれが直面している気候危機と環境劣化の深刻化・食料栄養安全保障の破綻・パンデミック・世界経済不況という複合的な危機を自ら作り出しているともいえる。これら課題の展開は、極めて速く、密接に関連し合い、われわれの生活・地球のあらゆる側面に影響を及ぼしている。国際社会は、栄養に優れた多様な食生活と地球システムの持続性維持の両立を可能にするフードシステムの転換に向け、農業研究の連携に早急に取り組む必要がある。 国際農林水産業研究センター(国際農研/JIRCAS)は、世界食料栄養安全保障に関わる情報を体系的に収集し、戦略的に提供することをミッションの一つとしている。本稿では、国際機関などの報告書・資料や最新論文に基づき、COVID-19とグローバル・フードシステムの関係について論じる。具体的には、COVID-19の流通への影響と、COVID-19により露呈した消費・生産のより構造的な課題、について整理し、今後の国際農業研究のあるべき方向性について展望する。 2.COVID-19の[流通]への影響 農業生産は本質的に地域に根差した活動であるが、今日、流通から消費に至る食産業はグローバルに展開され、世界78億の人々の多くが程度の差こそあれ輸入食料に依存している。それゆえ、今日のフードシステムは、さまざまな地球規模リスクに直面しており、世界食料栄養安全保障の観点からは、COVID-19の農業生産への直接的な影響のみならず、生産と消費を結ぶ流通過程である国際貿易に波及しうるさまざまなショックの動向についても注視する必要がある。 2020年2−3月にかけ、ヨーロッパやアメリカをはじめ、アフリカなどでもロックダウンや国境封鎖が実施され、世界各国で外出自粛や移動制限の実施直前に食料品の買い占め・買い溜めに走る消費者の姿がニュースとなった。COVID-19がもたらした国際的な流通に関する不確実性は、世界最大の穀物輸入国である日本においても、輸出国による食料輸出規制によって生じた2007/08年の食料価格危機の再燃に対する懸念が浮上した(全国農業新聞 2020.6.12)。 COVID-19危機による世界食料危機不安の高まりに対し、国際機関はいち早く対応し、各国の対応が食料貿易に意図せざる影響をもたらさないよう、情報発信を含め、国際協調で解決する方法を採択した。2020年4月1日には、国連食糧農業機関(FAO)・WHO・世界貿易機関(WTO)の事務局長らは、共同声明において、世界中の人々が食料栄養安全保障と生活のために国際貿易に依存していることに言及し、COVID-19パンデミックを封じ込めるための各国の行動が、世界貿易と食料栄養安全保障に意図せざる影響をもたらさないよう、輸出制限の回避に各国が協調しなければならないと宣言した。 食料栄養安全保障の観点からとりわけCOVID-19の影響が注目されたのは、三大主食作物であるコムギ・メイズ・コメや油脂・商品作物であるダイズなどに関する世界の食料需給状況 ─ 世界全体の穀物在庫量と、その「流動性」、すなわち、国際的な舞台において穀物が調達可能かどうか ─ である(Glauber et al. 2020 ; Schmidhuber 2020)。2020年は年初時点で、穀物の在庫量は、数年にわたり8億5000万t前後の高い水準にあり、2007/08年の食料価格危機発生当初の4億7200万tの倍近くに達していた。この豊富な在庫量と、十分な収穫見通しを受け、2020年は年初来、穀物価格は比較的安定的に推移している。その他、2007/08年危機の際と比べても、COVID-19危機においては、国際穀物貿易は多くの輸入国と輸出国の間で広範囲に行われており、石油価格の下落で輸送費用や化学肥料その他投入材の価格は安定し、バイオ燃料との競合は事実上存在せず、食料危機へと展開する要素は今のところ少ないと判断されている。さらに2020年現在、政策立案者が、2007/08年危機の経験を経て、多くの情報に基づき、国際貿易と流通の機能維持を目的とした対策をとることが可能となったことにも言及の価値がある(Schmidhuber 2020)。 ただし、こうした作物は国際市場においてドル建てで取引されているため、ドルに対する自国の通貨価値が低く食料輸入をしている発展途上国は、輸出国による制限によって最大の影響を被る可能性が指摘された(Schmidhuber, Pound, Qiao 2020)。とくにサブサハラ・アフリカ諸国の多くは、農業国でありながら、過去数十年間の人口倍増に伴う食料需要の伸びに農業生産性の改善・食料供給の伸びが追い付かずに食料純輸入国となっている。さらに、これらの国では、病虫害や異常気象などによって常態的に農業がストレス状況にあり、種子・化学肥料・家畜医薬品の不足が顕在化することで生産活動が影響を受けると、食料価格上昇のショックは短期的な影響であっても、社会・政治不安をもたらしかねないとの懸念はぬぐえない(UNCTAD 2020; FAO 2020a; Schmidhuber 2020)。 また、穀物や油脂作物と異なり、果実や野菜、畜産物、水産物などの高価格で腐敗しやすい生鮮農産物は、COVID-19による物流寸断の影響が明確な形で現れ、グローバル・フードサプライチェーンの潜在的な脆弱性を浮かび上がらせる契機となった。こうした栄養に富む農産物の供給寸断は、栄養状態の悪化を招きかねず、脆弱な立場にある人々の保護のための国際的な介入と協調が不可欠である(Schmidhuber 2020)。 長期的な視点からは、農業食料貿易は1995年来拡大をし続け、2018年までに新興・途上国による輸出が増大して世界全体の3分の1を占めるようになったものの、2008年金融危機以後、成長率は鈍化しており、さらにCOVID-19パンデミックにより影響を受けると予測されている。貿易は、余剰地域から不足地域への食料の動きを通じ、引き続き世界の食料栄養安全保障に重要な役割を果たしていくと考えられるが、地域貿易の振興や多国間貿易システムの促進が重要な意味を持っていくと予測されている(FAO 2020b)。 3.COVID-19で露呈した[消費・生産]が抱える構造的課題 2019年、EATランセット委員会は人類と地球の双方の健康の観点からフードシステムの果たす重要な役割を強調したが(Gralak et al. 2020)、世界的なパンデミックにおいて感染症に対する免疫への関心が高まる今日、健康な食生活はこれまで以上に重要である。しかし実際には、今日、世界で6億9000万の人々が慢性的に低栄養状態にあることに加え、30億の人々が健康的な食生活に手が届かず、質の低い食生活が毎年1100万人の死亡原因となっている(GLOPAN 2020)。食料安全保障の問題と質の低い食生活は、先にも述べた栄養の三重苦「飢え・微量栄養素不足・過体重と肥満」をもたらし、COVID-19のような感染症による入院・死亡率上昇のリスクを高めうる。 現在のフードシステムは、栄養的視点から人類を持続的に支えることに失敗しているのみならず、生物多様性喪失・環境汚染・水不足を引き起こす環境劣化につながる最大の要因であり、持続性の限界値を超えて地球システムを危険な域に押しやっている(Gralak et al. 2020)。不健康な食生活をもたらす消費体系は、モノカルチャー栽培体系や集約的な家畜・養殖システムでの化学肥料過剰使用に基づく食料生産体系に依拠している。人為的な温室効果ガス排出の観点からは、食料生産に伴う土地利用が排出量の4分の1(うち家畜生産がその半分に寄与)、フードシステム全体では3分の1相当を占めていると推計されている。同時に、自然生態系の破壊によって手つかずの生態系が攪乱されることで、重症急性呼吸器症候群(SARS)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、エボラ出血熱などの強毒な病原菌が異なる種の間を飛び移って感染する状況を作り出している(Batini, Lomax, Mehra 2020)。フードシステムの環境負荷を早急に削減することに失敗すれば、近い将来、フードシステム自身が食料危機をもたらしかねない状況となっている(Savary et al. 2020)。 COVID-19パンデミックがフードシステムの脆弱性への警告であると同様に、気候変動も世界食料栄養安全保障・保健医療への脅威でもある。パンデミックと気候変動という2つの危機は、異なるメカニズムを通じてフードシステムに影響を及ぼすが、そのいずれもがもっとも脆弱な社会層への影響が大きい(Gralak et al. 2020)。持続的で、すべての人々に健康的な食生活を提供するには、機能不全状態にあるフードシステムの抜本的転換が必要となる(GLOPAN 2020)。温室効果ガス排出と生物多様性への影響を減らすべく、世界的に食生活パターンをシフトさせる必要がある。フードシステムは、人間・動物・経済・環境が交差するシステムであるともいえ、この関係性に注意を払わなければ、気候変動と世界人口の増加に伴い、世界経済はさらなる医療・経済危機に直面しかねない(Batini, Lomax, Mehra 2020)。 一方で、COVID-19危機は、現在のフードシステムを、環境持続性と栄養に富む食料供給を保障し、将来のショックに対し、よりレジリエントなシステムに転換・更新することを謳った、EATランセット委員会の提唱する「グレート・フード・トランスフォーメーション」を推進する機会を提供しているともいえる(Willett et al. 2019; GLOPAN 2020; Webb et al. 2020)。 グレート・フード・トランスフォーメーションの実現に向け、2050年までに健康的な食生活への転換を達成するには、赤身肉や糖質などの不健康とされる食料消費を世界的に少なくとも50%削減する一方、ナッツ類・果物・野菜・マメ類などの健康的な食料消費を100%増加させるなど、大幅な食生活のシフトを必要とする。同時に、現状の食料生産が地球環境リスクを引き起こしていることを踏まえ、持続的な食料生産は地球システムの持続性の範囲内で行われる必要性が謳われている(Willett et al. 2019)。前者の食生活のシフトは消費者の意識改革や行動変化を促す政策などを必要とするが、後者の持続的な生産システムに関しては、次節で論じるように、国際農業研究の貢献が大いに求められる分野である。 4.国際農業研究の役割 発展途上国における飢餓が蔓延していた1960年代の国際農業研究においては、世界中の人々に対する十分なカロリー供給を目的とした穀物生産増強が至上命題であった。高収量品種と肥料・水投入によるハイインプット・ハイアウトプット型アプローチのもと、穀物生産量・単収の伸びは人口増加率を上回り、飢餓人口の大幅な減少に貢献し、その成功は「緑の革命」と呼ばれた。しかし、モノカルチャーによる安価な穀類供給の増加と並行して工業的畜産経営の展開とグローバルな食生活の西欧化が進むなか、栄養に富む多様な食料供給は未だに世界の多くの人々にとって手の届かないものに留まっている。同時に、環境問題への意識の高まりとともに、このアプローチのもとでの化学肥料の多用や大量の温室効果ガス排出が問題視されるようになっていく(GLOPAN 2020 ; Savary et al. 2020)。 他方、複雑で多様な環境・生態系条件に規定された発展途上国の小規模農業システムにおいては、ハイインプット・ハイアウトプット型アプローチが適応しなかったケースも多く、小規模農業セクターは長らく生産性の低迷に悩まされてきた。昨今の気候変動による異常気象により農業生産がさらに不安定化し、いまだに根深い食料栄養問題を抱える発展途上国では、今後数十年間に人口増・都市化・所得増による食料需要の質・量両面の急速な変化も予測されている。現行の技術体系・生産慣行の継続は、農業用地拡大のための土地利用変化を余儀なくさせ、発展途上国の小規模農業セクターが気候変動・環境破壊の要因となりうる状況も懸念されている(GLOPAN 2020)。 2050年に世界人口が約100億人に達すると予測されるなか、EATランセット委員会は、世界人口を養うための持続的な食料生産は、追加的な農地拡大を引き起こすことなく、既存の生物多様性を保全し、水利用の競合を回避し、窒素やリンなど化学肥料による汚染を大幅に削減し、二酸化炭素排出をゼロに維持し、追加的なメタンや二酸化窒素排出を抑制する必要性を訴える。そのためには、品種や栽培管理法の改善を通じた既存の農地における収量の向上、化学肥料の有効活用・再分配、化学肥料・水利用の効率性改善、温室効果ガス削減のための緩和策実施、炭素の排出源から固定システムへとシフトさせる土地・土壌の管理技術体系の採択、を可能にするための農業技術・介入研究が必要になるとしている(Willett et al. 2019)。 農業集約化は、単位当たり収量増強のみの側面に着目すると、しばしば化学肥料や水などの20世紀型資源多投入型技術と解釈される場合もある(Lajoie-O'Malley et al. 2020)。他方、21世紀のコンテクストで言及される持続的農業集約化(sustainable agricultural intensification) (Pretty 2008)は、先端科学・最新ツールを用い、生物学・生態系プロセスの迅速・精密な理解を通じて、環境負荷を最小化しながら収量の向上を目指すアプローチである。特定の環境・生態系におけるエネルギーのフローや栄養循環を踏まえた育種と栽培管理法を通じ、食料生産性の向上、化学薬品や肥料投入の削減、カーボンバランスの向上など、農業システム自体のレジリエンス強化にも貢献することが期待される。 近年、農業におけるセンサーや機械知能(MI)といったデジタル技術の応用への機運が高まっているが、多くの研究者や政策関係者は、データに基づいた意思決定によって有害な投入を削減し、希少な投入を最小化することで、食料生産にパラダイムシフトをもたらす可能性に期待を寄せている(Lajoie-O'Malley et al. 2020)。発展途上国においても、多様な環境生態系条件・農民の社会経済ニーズにも応じた品種開発・栽培管理研究において、スマート農業技術の汎用化により、かつては実行不能であったようなテイラーメード型の技術開発可能性が展望されている。ただし、発展途上国におけるデジタル農業・スマート農業の展開には、デジタル格差の解消のためのインフラ・情報投資が前提となる(Lampietti, Abed, Schroeder 2020)。同時に、実際にはデジタル農業の未来が、農業生産のみならず、フードシステム全体をどう変革していくのか、不確実性が多いのが事実であり、さまざまな分野の専門家を交えた議論が求められる(Lajoie-O'Malley et al. 2020)。いずれにせよ、グレート・フード・トランスフォーメーションの観点から、発展途上国における国際農業研究は待ったなしであり、最新ツールの適応可能性を含め、持続的農業集約化技術の有効性に関するエビデンスを蓄積していく必要がある。 5.おわりに 持続可能な開発目標(SDGs)の達成は、持続的な経済成長とグローバリゼーションという2つの大きな前提に依存しているが、COVID-19はこれらの見込みを打ち砕いた。世界経済の回復にも年単位を要すると推定され、国民の支援に精一杯な先進国は、発展途上国の援助に手が回らない可能性もある(Naidoo and Fisher 2020a)。こうした状況のなか、とりわけ食料輸入国である発展途上国の脆弱者層は、パンデミックによって「永久的に機会喪失のダメージを負ったCOVID世代」となりかねない。 COVID-19は、物質的・ハードウェアの側面を脅かす他の危機と異なり、ソフトウェア的な側面に影響を及ぼし、フードシステムを通じて気候変動・パンデミック・経済危機などの地球規模の課題がつながりあっていることを露にした(Savary et al. 2020)。とりわけ、COVID-19は、約半世紀前に形成された大量の食料を安価に提供することを前提としたフードシステムが時代遅れであることを示す契機であったともいえる(GLOPAN 2020)。 気候変動・パンデミック・経済危機に対しレジリエントな社会を作り上げる「より良い復興」のために、質・量ともに良好な食生活を保障する持続可能でレジリエントな農業生産システムの構築が必要とされる。国際社会は、グレート・フード・トランスフォーメーションを推進していくうえで連携していかなければならない。今後数十年間を見越せば、人口増・都市化・所得増に応じた食料需要の量・質の急速な変化を通じ、21世紀のグローバル・フードシステムを大きく動かしていくのは発展途上国地域である。これを踏まえれば、「発展途上国の小規模農民のニーズを踏まえた持続的農業集約化の成功」が、グレート・フード・トランスフォーメーションの鍵を握っているといえる(Naidoo and Fisher 2020b, Nature Editorial 2020)。 |