アフリカ3か国の灌漑局長などの
参加によるTICAD 7サイドイベントの取組(横浜)


 

 TICAD(Tokyo International Conference on African Development:アフリカ開発会議)は、1993年以降、日本政府が主導し、国連、国連開発計画(UNDP)、世界銀行およびアフリカ連合委員会(AUC)と共同で開催されている。

 第1回以来、日本で開催されてきたが、前回のTICAD6はケニアの首都ナイロビにおいてアフリカで初めて開催され、そして今回、再び日本に戻り、令和元年8月28日から30日にかけて、横浜においてTICAD7が開催された。

 外務省によると、このTICAD7には、42名の首脳級を含むアフリカ53か国、52の開発パートナー諸国、108の国際機関および地域機関の代表、民間セクターやNGOをはじめとする市民社会の代表など、1万名を超える人々が参加した。

 (一財)日本水土総合研究所は、TICAD7のサイドイベントの1つを農林水産省から受託して開催した。具体的には、アフリカにおける灌漑(かんがいを起点としたフードバリューチェーン構築の取組について、農林水産省、わが国有識者、アフリカ政府関係者(3か国から招聘(しょうへい)の間でパネルディスカッションを行い、灌漑開発から農村の発展に至るうえでの課題や新たなアプローチに係る認識の共有・深化を図るものである。

 また、アフリカからの参加者に灌漑事業地区(開水路による水田・畑地灌漑地区)を訪問してもらい、灌漑施設の整備・維持管理手法について学ぶとともに、関係者との意見交換を行い、農業農村振興の取組について知見を深めてもらえるよう現地調査を行った。

 このパネルディスカッションに、アフリカから招聘したのは、エジプト水資源灌漑省灌漑改良事業局のモハマド・アリ局長、同省灌漑水管理局のアリ・エルベズ局長、ガーナ食料農業省灌漑開発庁事業管理局のクリス・ベニー局長、同庁のジュリエット・キイレ首席専門家、タンザニア農業省機械化・灌漑局のアダム・ンジョブ次長、同局のファディリ・ムンガジヤ専門家の6名である。


1.パネルディスカッション

 TICAD7の第1日目の8月28日、横浜市のパシフィコ横浜において行われた。このパネルディスカッションは、農林水産省シンポジウム「アフリカを動かす力─食・農業の未来に向けて─」の一部であり、「アフリカの挑戦─灌漑とその先─」をテーマとして開催した。当研究所の田野井雅彦総括技術監が進行役を務め、「基調講演」「招聘者からの発表」、そして「ディスカッション」とプログラムを進行した。基調講演者として近畿大学農学部の八丁信正教授を迎え、有識者として、国立研究開発法人国際農林水産業研究センター農村開発領域の廣内慎司主任研究員および農林水産省農業振興局の宮川賢治海外土地改良技術室長がディスカッションに参加した。

 基調講演では、「灌漑は、作物生産に大きな効果をもたらすものの、あくまでも生産性を上げる必要条件の1つであること。アフリカにおける灌漑への投資コストは、アフリカ東岸やギニア湾沿岸では比較的大きく、北と南では小さいこと。そして、今後、灌漑への投資コストを抑えつつ効果を上げることが必要で、そのための方法の1つとして、灌漑事業のリハビリに焦点を合わせていくべきであること、また投資コストはその国の財政基盤の範囲内に抑えるべきであること、さらに投資に際しては貧困削減などの視点も加味する必要があること」が述べられた。

 招聘者からの発表では、エジプトのモハマド・アリ局長が、「エジプトの灌漑や水環境保全の状況」を報告するとともに、「スプリンクラーを用いた節水灌漑への取組」についての紹介を行った。ガーナのクリス・ベニー局長は、「ガーナにおける灌漑の状況とその開発の潜在的可能性」について述べるとともに、「民間活力を利用して取り組んでいるコメを始めとしたフードバリューチェーン構築の課題」についての発表を行った。タンザニアのアダム・ンジョブ次長からは、「タンザニアにおけるコメの生産性向上のための課題およびポストハーベストの課題と取組」が発表された。

写真1 ガーナのプレゼンテーション
写真1 ガーナのプレゼンテーション

 ディスカッションでは、廣内主任研究員より、各国への「水効率やポストハーベストに関する質問」があり、「効率的水利用のためのソフト的な対応の必要性やポストハーベスト改善の可能性」などが議論された。また、宮川室長から、「水利施設の維持管理や水管理について、地域コミュニティおよび農家のオーナーシップ、自立意識の重要性について」の発言があった。

 八丁教授より、「アフリカにおいて食料生産を伸ばすことは急務であり、農業生産性向上のために、種子生産やポストハーベスト、フードバリューチェーンも含めた広い視点で取り組む必要があり、伝統的な農家の持っている知恵の受け入れなど、人々の知識を学ぶ態度が必要である。また、技術者や政策立案者が伝統的知恵と新しい知識を組み合わせて、課題に対するアプローチを考えていく、これがキャパシティ・ビルディングとなる」との発言があった。

 最後に、田野井総括技術監が、「地元の人々の関与を期待するには、地元の人々とともに新たなアプローチによって、アフリカの地域性に適したインセンティブを提供していく必要がある」と締めくくった。

写真2 パネルディスカッション
写真2 パネルディスカッション


2.現地調査

 翌29から30日にかけて、招聘者6名は長野県安曇野市の国営中信平農業水利事業地区を現地見学に訪れた。世界かんがい施設遺産の拾ヶ堰(じっかぜき圃場(ほじょう整備を実施した水田を見学するとともに、稲作暦による営農・水管理について担当者より説明を受けた。また、梓川の頭首工と小水力発電所を見学後、中信平右岸土地改良区において、水管理業務および組織運営などについて意見交換を行った。

 この現地調査では、長野県、安曇野市、中信平土地改良連合、中信平右岸土地改良区に多大な協力をいただいた。

 当研究所は、TICADやその他の機会を通じて、継続してアフリカへの技術協力に貢献していきたいと考えている。

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