ドローン(UAV)・3D解析の
開発調査への適用

  NTCインターナショナル株式会社                        
社会基盤開発部 技師 菊池翔太朗 技術部 主任技師 小林維円 技師補 若林慶太

1.はじめに

 これまで、主に軍事目的で開発されていた無人航空機(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)、通称ドローンは、研究機関・民間企業において研究開発が盛んに行われ、近年、GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)・慣性センサなどの技術的な進歩を取り込むことによって、その機能は一段と向上している。

 発展途上国の農村地域においては、農業・農村開発協力を必要としながらも、厳しい自然条件やインフラ整備が遅れているために、立ち入りが困難な場所が多く存在する。このような地域での現地調査は、情報収集に多大な労力・時間を費やすが、それに見合った成果を得ることが困難な場合が多い。

 このような場所において、衛星画像を用いた広域を対象とした調査方法の検討も行われているが1)、調査対象エリアを限定したうえで、UAVを用いて、上空から詳細な情報を入手する手法は効果的といえる。著者らは、東アフリカに位置するウガンダでの灌漑(かんがい開発フィージビリティ・スタディ(F/S)においてUAVを活用し、情報収集・3D解析を行った。本稿では、F/Sにおける活用事例、取得データの解析方法、発展途上国へのUAV譲渡・技術移転の今後の課題に関して報告する。


2.ウガンダの中央部・東部地域灌漑地区開発計画の概要

 ウガンダは、国土の23%を川や湖、湿地といった水体が占め、年間降水量1200〜1750㎜を有するなど、サブサハラ(サハラ砂漠以南)アフリカのなかでも、水資源ポテンシャルが高い。一方で、農家1戸当たりの平均耕作面積は1ha以下と小さく、小規模農家による自給型農業が中心である。また、灌漑施設整備は遅れ、実灌漑面積は5000ha程度にすぎず、大多数の農家は降水に依存する天水農業を営んでいる。

 「ウガンダ国 ウガンダ中央部・東部地域灌漑地区開発計画」(2014〜17)は、独立行政法人国際協力機構(JICA)が実施する開発計画調査型技術協力である。同国中央部・東部地域の対象10地区において、灌漑開発計画を取りまとめるとともに、優先開発地区に対するF/Sの実施を通じて、カウンターパートの技術者の能力強化を図り、灌漑農業推進に寄与することを目的としている。

 本調査第1期(2014年6月〜15年3月)では、対象10地区の社会経済調査、インベントリ作成、主要課題の抽出と灌漑開発シナリオの作成、開発計画の作成からなるプレF/Sを実施し、F/Sを実施する優先開発地区の提案を行った。本調査第2期(2015年6月〜17年2月)では、第1期の活動結果を踏まえて、優先開発地区として選定された2地区を対象にF/Sを実施した。また、加えて1地区については、総合的な長期開発シナリオと湿地における灌漑事業の運営管理方針(ガイドライン)を作成した。


3.使用したUAVの概要および撮影方法

 UAVの発展は著しく、災害、農業、インフラ、物流分野などでの多様な用途に用いられ、小型で低価格の製品も一般向けに販売され、より身近なものになってきている。今後、活用の場は拡大し、とくに調査関連の業務ではUAVの果たす役割が大きくなるであろう。

 UAVは有人機と異なり、高度100m〜数百mから、高解像度の画像を撮影できる。また、衛星画像、航空写真よりも低価格で、画像を必要な時期に撮影できる利点がある。しかし、機体の積載重量の制限があるため、GPSやカメラは搭載してはいるが、航空測量に用いられるような高精度の自己位置、姿勢センサなどの機器を搭載することに制約がある。そのため、一般的に地形図作成で求められる精度の機体位置・姿勢データを、全て網羅することには限界がある。他方で、市販の画像解析ソフトウェアやパソコンの性能向上により、撮影した画像を解析することによって、撮影位置を推定したオルソ画像の作成も可能になり、前述の制約を補完できるようになった。


 さて、本調査ではDJI社のPhantom 2 Vision+を使用したが、その外観を写真1に、諸元を表1に示す。この小型UAVは付属のソフトウェアを用いることによって、自動操縦での飛行経路の設定が可能である。さらに自動航行機能と撮影回数、撮影高度など、任意の設定が可能であるため、用途や目的に必要な精度で、航空測量の画像よりも詳細な情報を得ることができる。また、機体総重量は約1.2 kgと軽量であるため、踏査に持参するのも容易である。

写真1 使用した回転翼型UAV
写真1 使用した回転翼型UAV

表1 使用したUAV(DJI Phantom 2 Vision+)の諸元
表1 タイと日本の水田農業の比較

 今回、使用した回転翼型UAVは固定翼型UAVとは異なり、垂直離着陸が可能であるために滑走路が不要であり、フィールド調査への適用性が高く、カメラで静止画と動画が撮影でき、無線LANを介し、カメラの映像をリアルタイムで確認できる。また、UAVとコントローラの通信が途絶えた場合や、バッテリ残量が少ない場合には、自動で離陸地点に帰還する機能が搭載されている。


 撮影時には、映像確認や機体の目視追跡などを、操縦士が複数の補助員と共同で行っている。現地では、足場が不安定な畑地や沼地などからの離着陸の機会が多く、着陸時は補助員がUAVを直接につかんで行うハンド・ランディングを用いた。操縦士が補助員の上空真上に来るようにUAVを操作し、連携を取りながら撮影を行った。1回の飛行時間は20分程度だが、複数のバッテリを現場に携行して、延べ1時間程度の撮影を可能とした。また、現地でUAVを使用するにあたり、当該地の住民の理解を得るために、事前に現地警察へ許可を申請したうえで、住民集会の際にUAVの使用について説明した。

 国際航空運送協会(IATA:International Air Transport Association)の危険物規則書に則り、各航空会社では、機内への持ち込みが可能なバッテリの制限を設けている。日本では「航空法第86条 航空機による爆発物などの輸送基準などを定める告示 (平成27年8月19日適用)」により、ワット時定格量で航空機内への持ち込み制限を設けているが、「100Wh未満」は無制限、「100Wh以上160Wh未満」は2個まで、「160Wh以上」は不可となっている。航空写真測量に利用される大型UAVのバッテリは100Wh 以上あるため、海外での調査に持参する場合には、現地業務従事者間で複数のバッテリの連繋を図り、短絡しないように個別に保護を行うなどの注意が必要である。なお、本調査で使用したUAVのバッテリは68Whであるため、機内への持ち込み制限はなく、海外への持参が容易である。


4.UAVを活用した調査事例

(1)オペタ湖とビシナ湖における植生・環境調査

 事業対象地区下流に位置し、そこからの排水の到達点であり、ラムサール条約に登録されているオペタ湖(Lake Opeta)とビシナ湖(Lake Bisina)において、環境調査を目的にUAVによる航空写真撮影を行った。エンジン付きのボートに乗って、撮影場所である両湖中央部まで移動し、船上からでは目視確認が困難な植生を上空から撮影した。これにより、肉眼では不可能な広域の視点を有する調査を行うことが可能となった。

 写真2はUAVから撮影された、ビシナ湖の画像である。撮影画像から、水深が浅く(2〜6m)湖底が透けて見える場所も多い反面、住居付近の水面は生活用水などの影響によって、目に見えて汚染されていることが確認された。

写真2 UAVによって上空から撮影したビシナ湖
写真2 UAVによって上空から撮影したビシナ湖


(2)ラムサール条約湿地における農地開拓状況の把握

 調査対象地区の一部はラムサール条約湿地に隣接しているが、周辺の湿地では無秩序な農地開拓が進み、湿地環境保全上の問題となっている。湿地周辺は足場が悪く、車で近づくことができる距離には限りがあるため、湿地周辺の調査を行うことは困難な状況下にあった。

 そこで、徒歩での移動が可能な地点までラムサール条約湿地に接近し、そこからUAVを離陸させて、空撮調査を行った。飛行高度を高く保つことによって、広域の撮影が可能となり、湿地の開拓状況を視覚的に確認できた。とくに、雨期における氾濫区域の調査については、河川からの氾濫地点や氾濫原の広がりの確認など、UAVで撮影した静止画のみならず、動画撮影も交えた広範な調査を実施できた。


(3)環境保護地帯の保全状況およびブッシュダムの位置の把握

 ウガンダでは法令によって、河川の最高水位から両岸それぞれに100m幅の環境保護地帯の設置が義務付けられ、また国家環境管理局の許可なくして湿地内の開発行為はできない。しかしながら、UAVを用いた空撮画像である写真3が示すように、ある調査対象地区では河川の間近まで農地が広がっている。また、農家が近くで調達した灌木などを利用した堰(ブッシュダム)が無秩序に造られ、これが原因となった洪水被害も起きている。こうした複数の画像から、広域にわたって河川周辺の開拓状況が確認できた。

写真3 ブッシュダムと河川周辺に広がる水田
写真3 ブッシュダムと河川周辺に広がる水田

(4)取水口建設候補地の調査

 最適な位置に新規の取水口を建設するためには、現地踏査はもとより、広域的な視点から調査対象地全体を確認することが重要である。UAVを活用すれば、地形図や衛星画像からは得られない詳細な地物・地形情報を得ることができる。

 そこで、取水口建設候補地の状況把握のために、現地踏査とともに、UAVによる周辺の空撮を行った。UAVによる高い視点の情報を得ることによって、限りある時間内での調査可能な範囲が拡大し、既存の地形図からでは把握できなかった養魚池や汚水処理池の位置を確認できた(写真4)。

写真4 空撮によって見出された養魚池
写真4 空撮によって見出された養魚池

5.3Dソフトウェア(Photoscan・Sketchup)を利用した
3Dモデル

(1)UAV空撮画像による等高線図の作成

 取水口建設候補地において、UAVを使用した空撮画像を用いた3D解析を実施した。ここでも、UAVはDJI社 のPhantom 2 vision+を使用した。撮影計画の策定から3Dモデル構築までの手順を図1に示す。計66枚の画像を撮影し、3Dモデル作成の材料とした。

図1 UAVを使用した3Dモデル・標高データ作成の作業工程
図1 UAVを使用した3Dモデル・標高データ作成の作業工程

 画像の編集・オルソ化の作業についてはAgiSoft社のPhotoscanを用いた。このソフトウェアは、SfM (Structure from Motion)と呼ばれ、写真から画像解析することによって、3Dモデル復元や撮影位置を推定する技術を一般利用しやすくパッケージ化したものである。これによって、複数の画像の特徴点のマッチングを基に、オルソ画像を自動作成し、位置情報と高さデータを有する点群データを出力し、3Dモデルを作成した。また、3DモデルおよびDSM(Digital Surface Model)の精度検証も、このソフトで行った。作成した点群データを図2に示す。

図2 入力した空撮画像から作成した点群データ
図2 入力した空撮画像から作成した点群データ

 この点群データの状態では、自動合成で出力された樹木の高さが標高値として反映されているが、Photoscanは形成された点群データの近隣の標高差から樹木の有無を自動判別し、除去する機能が搭載されている。この機能を用いて地盤高判定の障害となる樹木の除去を行い、図3に示す標高データ(DTM:Digital Terrain Model)を形成した。

図3 作成した標高データ(DTM)
図3 作成した標高データ(DTM)

 DTMの解像度は1.77cm/pix、各基準点(GCP:Grand Control Point)での垂直誤差は約0.4mであった。自動検出機能で直立している樹木の除去は容易にできるが、地面から、なだらかに変化している背丈の低い草本層や密集している草地では、地表面の検出が困難なことが、今後の課題といえる。また、Photoscanを使用した大量の画像を処理する場合、一つひとつの解析作業に多くの時間を要するため、ワークステーションのような高性能コンピュータを用いることが望ましい。


(2)小型UAVで撮影した画像を利用した3Dモデル作成上の課題

 高精度3Dモデルの作成には、精度の高いカメラの位置・姿勢情報を得られる大型UAVに搭載可能な高性能センサが必要である。しかし、今回の撮影は市販の小型UAVを使用したため、そのような情報は得られず、Photoscanが解析・推定した位置・姿勢データを用いることから、3Dモデルの位置精度は低い。小型UAVは前述の通り、海外に持参しやすい利点はあるが、精度の高いDSM・DTMを求める場合には、大型のUAVを持参し、高精度の位置情報を観測する必要がある。また、精度の高い複数のGCPも、高精度DSM・DTMの作成には不可欠である。


(3)航空測量写真による地形図の作成

 航空写真においても、SfMソフトウェアを用いたDSMの精度検証が行われ、こうしたソフトウェアの普及が進んでいる2),3),4)。調査対象地区において、航空写真は存在するが、労力・コストの関係上、図化が行われていない地区が存在した。Photoscanは画像のオルソ化・DTMの作成までを僅かな労力で自動作成できるため、その利点を活かしてDTMを自動作成し、等高線図はそのGIS(Geographic Information System:地理情報システム)ソフトウェアを用いDTMを解析して作成した。作成した標高データおよび等高線図を図4に示す。一般的に専門の技術者がステレオ立体視で行う図化よりも精度は劣るが、精度の高い地形図が存在しない発展途上国において、オルソ画像・等高線図が簡単に得られるメリットは大きい。

図4 左:Photoscanよって作成されたDEM(数値標高モデル:Digital Elevation Model)画像 右:DEM画像から作成された等高線図
図4 左:Photoscanよって作成されたDEM(数値標高モデル:Digital Elevation Model)画像 右:DEM画像から作成された等高線図

6.UAVの譲渡・技術移転おける課題

 本調査の成果を今後も相手国政府が継続的に利用すること、および洪水・土砂災害が多いウガンダにおいて、UAVの需要が高いことは明確である。そのため、本案件終了前にカウンターパートへUAVを供与するにあたり、供与後におけるUAV使用の安全な利用を目的に技術研修を行った。研修では、一般社団法人日本写真測量学会による「測量調査に供する小型無人航空機を安全に運航するための手引き(2015年5月25日)」を基に、UAVの仕様・取り扱いについて説明を行った。

 ウガンダにおいては、日本と異なりUAVの使用に関する法整備が未だ行われていないこと、販売網が限定的であること、利用者間での技術・情報共有の場も少なく、操作利用方法は独自で学ばざるをえないことが、UAVの利用技術向上にとっては制約であり、また克服しにくい課題ともいえる。


7.おわりに

 現在、日本では多様なUAVが販売されているが、調査地の条件や求められるDSM・DTMの精度によって、利用できるUAVの種類や性能が異なり、最終的なデータの利用目的に適したUAVの選定が重要である。UAVを用いれば、通常では得られない高高度からの現場状況を容易に得ることができる。また、撮影した画像とSfMソフトウェアを用いて3D解析を行えば、従来よりも短時間のうちに、僅かな労力でオルソ画像・等高線図を作成できる。

 今後、作成したDSM・DTMの精度向上手法を検討することによって、発展途上国における調査において、UAVの活躍の場は増大していくであろう。一方、途上国ではUAVに対する法整備が必ずしも十分ではなく、認知度も低いため、UAVの使用・機体の譲渡にあたっては、安全面での十分な配慮が必要である。


<参考文献>
1) 小林維円・菊池翔太朗・石坂邦美:灌漑計画策定における衛星データの活用事例 農業農村工学会誌「水土の知」83巻7号小特集
2) 早坂寿人・大野裕幸・大塚力・関谷洋史・瀧繁幸:UAV による空撮写真を用いた三次元モデリングソフトウェアの精度検証 国土地理院時報(2015,127集)
3) 古屋 弘:無人飛行機を用いた地形計測と精度検証:大林組技術研究所報 No.78 2014
4) 石黒聡士・山野 博哉・小熊宏之:航空写真のSfM-MVS解析による詳細DSM作成とその精度 2015年度日本地理学会秋季学術大会

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