マメ大国インドのマメ事情

アイ・シー・ネット株式会社
 コンサルタント  大西由美子

 世界で2番目に人口が多く、近年、急激な経済成長を続けていることで注目されているインド。若年層人口や潜在市場としての規模の大きさが注目を浴びているが、実はこの国、世界一のマメ大国でもあるのだ。インドといえば、一般の方はカレーを連想されるであろうし、実際にマメはインドカレーにも使われている。しかし、インドのマメについて、日本ではあまりよく知られていない。人口の約3割がベジタリアンとされているインドでは、マメは貴重なたんぱく源であるために、消費・生産はもちろんのこと、マメの輸入も世界一である。国内の大量の需要をまかなうために、マメ類の輸出規制をしているくらいなので、日本ではインドのマメについてよく知られていなくて当然である。本稿では、インドのマメの生産と貿易の現況について説明したうえで、日本とは異なるマメの食し方について紹介する。


1.インドの農業とマメ類生産

 インド経済は1991年に自由化されたものの、47年の独立後は植民地時代の経験と社会主義の影響を受け、長い間、保護貿易、輸入代替化、労働市場や金融市場の公有化といった統制経済の傾向にあった。70年ごろ、インド経済(GDP)に占める農業セクターの割合は40%程度とされていたが、灌漑(かんがい)施設が未整備のなか、農業は天候に大きく左右され、経済成長は年平均3%となっていた。

 1960年代半ばに起こった干ばつを契機に、インドでは「緑の革命」が始まり、80年代にはその成果もあり、食料危機から脱した。90年以降、規制緩和や市場開放など、インドは貿易自由化への道をたどった。2003年頃には、このような政策の成果が現れ始め、近年では7〜10%の高成長を達成している。農業がインドの国内総生産に占める割合は、90年には30%、2014年には17%まで低下したが、これは農業分野の重要性が落ちたのではなく、近年のサービス業や製造業といったセクターの急成長によるものである。インドでは現在でも、労働人口の大半は農業従事者であり、食品加工・肥料・農業機械など関連する裾野産業に与える影響が大きいため、農業は依然として重要セクターと位置づけられている。

 インドは国土の大半が緯度の低い地域に位置するため、気候は熱帯または亜熱帯性である。北部のヒマラヤ・カラコルム両山脈地域は高所ツンドラ地帯、北西部は乾燥地帯、ガンジス川流域は亜熱帯、そしてインド半島の大部分は熱帯に属する。また、同国は典型的なモンスーン気候帯に属しているため、季節風の変化によって、暑熱期(3〜6月)・降雨期(6〜10月)・温暖期(11〜2月)に分類される。

 インドの主要農作物は、コメ・コムギ・雑穀・マメ類・油糧種子である。マメ類の生産量は世界の23%前後、ジュート(黄麻)は同じくほぼ60%を占めて、いずれも世界1位である。コメ・コムギ・ラッカセイの生産量は中国に次ぐ、世界第2位である。国内の穀物類の生産量の4割を占めるコメの生産地は、降水量の多い西ベンガル州やタミル・ナド州など東部や南部、そして灌漑施設の普及が進んでいるパンジャブ州などである。コムギは、パンジャブ州やハリヤナ州といった北西部で主に栽培されている。それゆえに東部や南部の主食はコメ、北部や西部はコムギといった食文化が定着している。マメ類・雑穀・油糧種子は、乾燥に比較的強く、年間降水量が少ない地域でも栽培が可能なため、灌漑施設の普及が遅れているマディヤ・プラデシュ州やマハラシュトラ州といった中央部や西部が主要生産地である。

 インド以外のマメ類の主要生産国は、カナダ・ミャンマー・中国・オーストラリア・アメリカである。図1は各国の1970年代からのマメ類の生産量(FAOSTATによるPulses, Totalの数値)の推移を示したものである。長期的な傾向をみると、インドは年間1200万〜1600万トンの生産量を誇り、他国と大きな差がある。インド国内でみると、マメ類は穀物類の生産量の7%を占めていて、コメ・コムギ・トウモロコシに次ぐ重要な作物である。2010年度の生産量は前年度比22%増の1724万トンと急増し、14年度には1998万トンと過去最高となった。

図1 マメ類の主要生産国の生産量の推移
図1 マメ類の主要生産国の生産量の推移
出所:FAOSTAT

 長期的なマメ類の生産量の傾向をみると、緩やかな右肩上がりの傾向にある。作付面積の拡大と生産性の向上による増加と推察されるが、2010〜14年の平均収量は642kg/haであり、世界平均の908kg/haと比較すると低いことが分かる。

 作付面積については、興味深い傾向がみられる(図2)。1970年代から現在までの北部と中央・南部の作付面積を比較すると、北部は33%減、中央・南部は26%増となっている。とくに、ヒヨコマメの作付面積は、60%減の北部と118%増の中央・南部が逆転している。

図2 マメ類(左)とヒヨコマメ(右)の作付面積の推移
図2 マメ類とヒヨコマメの作付面積の推移)図2 マメ類とヒヨコマメの作付面積の推移)
出所:出所:インド豆類研究所

 このように作付面積が変化した背景の一つは、北部における灌漑施設の整備が進んだことである。ウッタル・プラデシュ州やビハール州を中心に、灌漑施設が整備されるに従い、それまで乾期にマメ類を栽培していた農家は、より収益性の高いコムギの栽培に転換したのである。ヒヨコマメは、南部アンドラ・プラデシュ州では、早生品種の開発やタイムリーに種子や肥料を農家に提供する政府プログラムに後押しされ、1996年から2012年の間に作付面積は6倍になった。


2.食生活を支える多彩なマメ

 マメ類の消費量は、インド国内で年間1800〜1900万トンと推定されている。同国の人口は現在の12億1000万人から2030年には16億8000万人になることが予想されている。インド豆類研究所の推定では、年間マメ類消費量と今後の人口増加を考慮すると、2030年までにマメ類の年間生産量を3200万トンまで増加させる必要があるとしている。2030年までのマメ類の需要予測は図3のとおりである。2030年を目標とした場合、インドのマメ類生産は年間4.2%の成長が必要となる。

図3 インドにおけるマメ類の需要量(2012-30)
図3 インドにおけるマメ類の需要量(2012-30)
出所:インド豆類研究所

 インドでは、消費量の多いヒヨコマメ・キマメ・ケツルアズキ・リョクトウ・レンズマメが、政策的観点からも主要マメ類と位置づけられていて、モスビーン・エンドウ・ササゲなどが副次マメ類と分類されている。その他のマメ類については、食用としての消費量も限定的であり、政府が推進するプログラムの支援対象にはなっていない。そのため、主要マメ類についてはマメ別の作付面積や生産量に関する統計データが存在するが、副次マメ類は生産量が比較的少ないため、「その他マメ類」とひとくくりに分類されて統計データが取られているため、マメ別の生産量がわからないものがほとんどである。ここでは、主要5大マメの生産状況を紹介する。


 ヒヨコマメ(学名:Cicer arietinum L. 英名:Chick pea)はチックピーやガルバンゾー(Garbanzo beans)などの名称で、近年、日本でも知る人が多いであろう。主にデシ(Desi)とカブリ(Kabuli)の2種類があり、デシは比較的、粒が小さく角張っていて豆皮が厚い。色は薄い黄土色から黒いものまである。黒っぽい色のマメのため、インドでは「kala chana(黒いヒヨコマメ)」とも呼ばれている。因みに「Desi」とはインドの公用語のヒンディー語で「土着のもの」、つまり「インドのものである」ことを意味する。カブリは粒が大きく豆皮が薄い。色は白いものからクリーム色が一般的である。南ヨーロッパ・北アフリカ・中東で栽培されていて、インドには18世紀にもたらされたとされている。アフガニスタンのカブールに由来して、「カブリ」と呼ばれるようになったとの説がある。

写真1  未熟のヒヨコマメ
写真1  未熟のヒヨコマメ

 マメ類のなかでも、インドで生産量が最大なのはヒヨコマメで、年間800万トン前後に及んでいる。もっとも重要なマメと位置づけられていて、国内で開発された品種も数多く存在し、2015年現在、その数は100以上である。

 ヒヨコマメの利用法は幅広く、一晩水に漬けて発芽したマメをサラダの具として用いたり、ゆでたマメでヒヨコマメのカレーを調理したりするほか、円形に割ったヒヨコマメでワダ(Vada)と呼ばれるお茶請けにもなる南インドの揚げ菓子のスナックを作ったりもする。また、ヒヨコマメの粉であるベーサン(Besan)も、揚げ物の衣や菓子の材料として活用されている。因みに、インドでは未熟のヒヨコマメを食べる習慣もある。


 キマメ(学名:Cajanus cajan L.英名:Pigeon pea, Red gram)は、日本人には全くなじみのないマメであろう。主に、熱帯の乾燥地で栽培され、干ばつには特段に強く、栄養価も高い。そのため、国際半乾燥熱帯作物研究所(ICRISAT)はアフリカの干ばつ多発地帯で栽培を推進するプログラムを掲げている。樹高は1〜3mの低木で、枝は灰色の短い毛でおおわれる。ただし、収穫まで5〜11か月を要するため、最近では3か月前後で収穫できる早生品種の開発も進んでいる。インドでは、世界のキマメの9割が生産されているとされ、その国内生産量の約3割がマハラシュトラ州で生産されている。

写真2  キマメ
写真2  キマメ

 キマメには、ヒヨコマメほどに多様な利用方法はない。一般的には、ダール(Dal)と呼ばれるマメのスープの材料として利用される。とくに、アンドラ・プラデシュ州、テランガナ州、カルナタカ州、タミル・ナド州、ケララ州の南部5州では、サンバー(Sambar)というマメと野菜のスープを調理する際に皮を剥いて割ったキマメを用いる。


 日本でもおなじみのリョクトウ(学名:Vigna radiate L. 英名:Mung bean, Green gram)は、世界の総生産量の54%をインドが占め、栽培面積も世界の65%を占めるとされている。2002年まで、マハラシュトラ州の生産量が国内では最大であった。その後、ラジャスタン州の生産量が増加し、現在では両州で総生産の4割を占めている。アンドラ・プラデシュ州、ビハール州、グジュラート州、オリッサ州、タミル・ナド州、ウッタル・プラデシュ州では、雨期と乾期の年2回栽培されている。ラジャスタン州やマハラシュトラ州、マディヤ・プラデシュ州、カルナタカ州では、リョクトウの栽培は温かい雨期に行われる。この他、北東地域のアッサム州やトリプラ州では乾期のみに栽培されている。
 リョクトウはヒヨコマメと同様、さまざまな形状のものが利用されている。皮が付いたもの、皮を剥いだもの、それを割ったものなど、それぞれ用途が異なる。


 ケツルアズキ(学名:Vigna mungo L. 英名:Black gram)はマメ科ササゲ属アズキ亜属に属する、つる性草本である。日本では、主に「モヤシマメ」として知られている。マメ類を扱う業者の間では、「ブラックマッペ」といった方が分かるかもしれない。耐乾性が強く、黒色から黄緑色の種子を付ける。インドからバングラデシュ・パキスタン・ミャンマーにかけて分布する野生種(リョクトウと共通祖先)から、栽培化されたと考えられている。インドでは、古来より保存食(乾燥マメ)として一般的で、煮たり煎ったり、あるいは粉に挽いて用いられる。


 レンズマメ(学名:Lens culinaris Medik. 英名:Lentil)は、地域でみれば中東や北アフリカ、またイタリア料理やフランス料理でも使用される。インドでは年間90〜100万トンが生産されていて、ダールとして調理されるのが一般的である。


 主要5大マメ以外では、エンドウやインゲンの乾燥マメもよく利用されているほか、モスビーン・ホースグラム・フジマメといった類も地域的に差はあるが、利用されている。


3.マメの貿易

 本稿の冒頭で述べたとおり、インドは世界一のマメ類の輸入国でもある。もともと輸入国として重要ではなかったのだが、1970年代以降、急激に輸入量を増やし、80年以降は他の国を大きく引き離して、マメ類の輸入大国となっている。2013年でみれば、その輸入量は380万トンに及び、第2位の中国(117万トン)と大きな差がある。

 マメ類の輸入は、国内の食料供給を目的としているため、公的機関によるものが多い。農業協同組合連合であるNAFED (National Agriculture Cooperative Marketing Federation of India Limited)や政府系企業であるSTC (State Trading Corporation of India Ltd)は、インド政府の指示に基づきマメ類の輸入を代行している。これらの組織によって輸入されたマメ類は、州政府に供給されたり、一般の市場で取引されたりする。

 インドのマメ類の輸入量は、おおよそ年間300万〜400万トンである。国内の需要を満たすため輸入量に制限はなく、優遇関税措置を取っていたこともある。マメ類の輸入については、政府の定める品質基準を満たしているものであれば規制はない。

 近年におけるインドのマメ類の輸入傾向は一貫して同様であり、エンドウの輸入が最も多くなっている。続いて、ヒヨコマメ・キマメ・レンズマメなどの輸入が多くなっている。エンドウの主要輸入先はカナダであり、例年、5〜7割を占めている。続いてロシアとオーストラリアが、それぞれ1割前後である。ヒヨコマメの主要輸入先はオーストラリアであり、約7割を占めている。続いてロシアやタンザニア、そしてミャンマーからが多い。リョクトウとケツルアズキの主要輸入先はミャンマーであり、約8割を占めている。続いてケニアやタンザニア、そしてオーストラリア・モザンビーク・ウズベキスタンから少量が入っている。

 国内の栄養不足と国内生産の需給ギャップの解消のため、インドではマメ類の輸入を推奨する一方、輸出については消極的である。2006年にマメ類の輸出が禁止され、その後も国内の生産量などを考慮し、現在に至るまで輸出禁止令は断続的に出されている。現在、カブリのヒヨコマメと年間1万トンを上限とした有機マメ類のみは、輸出が認められている。ブータンやモルディブなどへの輸出のみ特別な措置が取られていて、2014年6月よりブータンへの輸出には規制がなくなった。モルディブには、政府が決めた輸出量内での貿易が行われている。


4.マメの楽しみ方〜インド風

 日本人にとって、インドカレーは今やなじみ深いものとなった。インドではもちろん、マメはカレーの具材として使われているが、その種類は日本のインド料理屋でメニューに登場するよりも、はるかに豊富である。日本のようにマメを甘く煮て食べる習慣はあまりないが、インドでは日本ではお目にかからないマメの加工や調理方法があるので、ここではその一部を紹介する。

 まず、マメが主役のカレーは数多くある。インド南部においては、前述のサンバーというキマメと野菜で作ったスープは、どこの家庭でも定番である。独特のスパイスで味付けして、日々の食卓に供される。インゲンマメのカレーであるラジマ(Rajma)は、北部ではちょっとしたB級グルメである。タマネギとトマトをベースとしたカレーに、インゲンマメ(料理名と同じくヒンディー語でラジマと呼ばれる)を煮込んだものである。このほか、ヒヨコマメ・キマメ・リョクトウ・レンズマメなどが、それぞれ主要な具材となるカレーもある。

写真3 インドの家庭に常備されているマメ類の一例
写真3 インドの家庭に常備されているマメ類の一例

 マメは、多様な形態で利用されている。乾燥マメとしてだけでなく、皮付き、皮なし、さらには挽き割り、挽き割りでも皮付き、皮なしと種類がある。インドの家庭には、複数のマメ類と多様な形状のものが常備されている。ベーサンは前述のとおり、さまざまな調理に使われる。たとえば、揚げ物の衣として利用されるほか、ラッデゥ(Laddo)やドクラ(Dhokla)といった、甘い菓子の材料としても欠かせない。また北部ではこのヒヨコマメの粉をヨーグルトで溶いて、スパイスなどと一緒にカディ(Kadi)と呼ばれるカレーを作る。このカディには、やはりベーサンを衣として揚げたタマネギなどを混ぜて食べるのが一般的である。

 この他、つまみ系のスナックとして塩味やスパイスを利かせたリョクトウやヒヨコマメの炒ったものや揚げたものが出回っている。地方によっては、東南アジアでみかけるような乾燥ソラマメを揚げ、塩をまぶしたものをつまみにしているところもある。


4.おわりに

 インドのマメの世界を、少し垣間見ていただけただろうか。主要なマメ類を中心に本稿を書いたが、この他にも多くのマメ類がインドには存在する。とくに、北部や北東部の山間部には在来種も多く、遺伝資源の宝庫が眠っているとも考えられている。このようなマメ類の生産は自家消費のレベルのことも多く、主要な市場には出回らない。インド人でも知らないマメ類とその使い道が秘められている可能性がある。


<参考資料>
Ministry of Agriculture、Agricultural Statistics at a Glance 2011, 2011
Ali, M.and Gupta, S., “Carrying capacity of Indian agriculture: Pulse crops,” Current Science Vol 102 (6):874-881, 2012
Indian Institute of Pulse Research, Annual Report 2012, 2012
Sample Registration System Baseline Survey 2014, Census of India, 2014.
Indian Institute of Pulse Research, Vision 2030, 2011

前のページに戻る