タンザニアの生活事情
私がタンザニアで勤務したのは、平成20年12月から23年10月までの3年弱であった。それまで、アフリカでの生活体験は全くなく、すべてが初体験であったが、あとで振り返ってみると長い職場経験のなかでも充実した3年間であり、かけがえのない体験もできたと懐かしく思い出している。今回のテーマは生活事情ということなので、我々の生活に必須の「水」と「主食」の問題について記してみたい。 1.安全な生活用水の確保 日本で生活していると、安全な飲料水について、日常的に意識することはまずないが、タンザニアでは深刻な問題である。国民の大半は、水道・電気といった生活インフラとは縁のない生活を送っている。安全な水を、必要な量だけ手に入れるというのが大問題なのである。とくに農村部では、生活用水の確保は女性や子供の役割となっていて、水汲みに1日のかなりの時間を費やし、就学や勉学の時間が十分にとれないといった問題がある。1日数時間をかけて、遠くの水汲み場まで、ポリバケツを持って往復するのが一般的だが、調理や洗面などに必要な量はとても確保できていない。 また、水質面でもさまざまな問題があり、水汲み場といっても、清水が湧き出ているわけではなく、通常は濁った水たまりのようなところで病原菌に汚染されているかもしれない水しか利用できない、あるいはフッ素過多で骨や歯に深刻な影響を及ぼす水を利用せざるを得ないといった、我が国では想像しがたい問題もある。タンザニアは東アフリカの大地溝帯にあるため、火山活動の影響から一部地域では、井戸を掘っても、フッ素が多く含まれていて飲料には適さないこともある。私は、タンザニア北部の人と初対面の時に、歯が茶色に変色しているのを見て、この人は相当のヘビースモーカーなのだと思ったが、これはフッ素を多く含んだ水を常用していたためと知って、あとで自分の不明を恥じたものである。 さて、このような現状に対し、我が国は、対タンザニア経済協力の重点分野の一つとして、給水事業の整備を行ってきた。その多くは、集落のなかに井戸を掘り、手押しポンプを設置するものである。日本ではたいていならば、数メートルも掘れば水が出てくるが、タンザニアではそう簡単ではない。まず、井戸掘りの好適地を探すのが大問題となる。通電装置を使って水脈を探して試掘をしても、実際に水が出てくるのは3分の1程度ということもあった。このようにしてできた井戸は、利用者からごく少額の料金を徴収して積み立て、将来の修理代などに充当するといった、持続可能な仕組みを同時に作り上げることが重要である。 写真1 ムワンザ市近郊の村での給水事業完成引渡式にて、ビラール副大統領と新設の手押しポンプを押した
この点は国際協力機構(JICA)でも十分に認識していて、事前に現地の住民組織を訓練したり、私も機会があれば完成・引渡式のスピーチなどで繰り返し強調した。また、動力式のポンプで水を汲み上げてタンクに貯留し、そこから給水場までパイプを設置することもあるが、こちらのほうは、給水場の蛇口が窃盗にあったり、利用料によって燃料費などの運営費を、どのように安定的に賄うかといった課題があった。 タンザニアの人々は、スワヒリ語にメンテナンスという言葉はないと冗談交じりにいうが、施設を作っても、その後の維持管理が不十分なために、折角の施設が時を経ずして使用不能になる例もある。ハード面にも増して、地域住民の理解と納得のうえに、参加を招来するという、ソフト面の仕組み作りが、何より重要と実感した次第である。 2.タンザニアの人々の主食 タンザニアは日本の2倍半にも及ぶ広大な国土面積があって、126の民族が暮らしている。そのため、主食といっても地域によって異なる。もっとも一般的なのが、トウモロコシの粉をお湯でこねたウガリ、北部では調理用バナナ(プランテン)、島嶼部のザンジバルではコメが中心ということになろうか。 ウガリは一見してマッシュポテトのような感じだが、コメに比べると相当に腹持ちがよく、タンザニアの人々は力仕事の際にはウガリを食べないとすぐに腹が減ってしまうという。このウガリに、付け合わせとしてトマトで味付けしたマメと少量のダガー(淡水の小魚の干物)などを食べる。調理用バナナは、我々が果物として食べるバナナとは異なり、マメなどと一緒に煮て食するが、食感はジャガイモに似ている。また、ザンジバルではコメが主食で、1人当たりの年間消費量は100kgを超えている。 写真2 首都ダルエスサラームの近郊における祝典で、マグフリ建設大臣(現タンザニア大統領)と共に踊った
私が赴任した当時は第4回アフリカ開発会議(TICAD Ⅳ)の直後で、アフリカのコメ生産量を10年で倍増することを目標として、農業技術協力にも力を入れていた。一般には陸稲のネリカ米が有名だが、タンザニアではロアモシの灌漑稲作プロジェクトの経験もあって、未利用の水資源を活用した小規模灌漑によるコメ増産が有望視されていた。当時はアメリカ国際開発庁(USAID)もタンザニアでの食料増産協力に力を入れ始めていたので、当方から持ち掛けて、日米の連携による技術協力も試みたが、その効果のほどを直接に確認することなく、離任の時期を迎えてしまい、心残りとなっている。 |