メコン河の水資源管理

メコン河委員会事務局 農業・灌漑プログラム 技術アドバイザー 北村浩二

1.はじめに

 メコン河は、中国、ミャンマー、タイ、ラオス、カンボジア、ベトナムの6か国を流下する東南アジア最大の国際河川である。源流はチベット高原で、中国雲南省を通り、ミャンマー東北部に接し、タイとラオスの国境を形成したのち、カンボジアを通過し、ベトナムのデルタ地帯を経て、南シナ海へと注ぐ。全長は4200km、流域面積は79万5000km2、年間流出量は4750億m3とされている。流域の総人口は3億人を上回り、タイやベトナムをはじめとして経済成長を続け、さらなる経済発展、人口増加、インフラ整備によって、電力、水需要の増加が見込まれている。また、生物多様性の面からも重要な地域である。

 メコン河の最大の特徴は、雨期と乾期における水位の大きな変動である。雨期の始まりである4〜5月にかけて上昇し始め、8〜10月にピークとなり、12月になると急激に水位が下がり、乾期の間さらに低くなり、3〜4月にかけてモンスーンが始まる直前に最低になる。また、カンボジアに位置するトンレサップ湖は、プノンペンから下流のデルタの水量のうち、7〜9月に流量がピーク迎えて逆流する水を貯留し、10月から翌年4月にかけて放流するという自然のバッファー貯水機能を有する。

 下流域の人口の70%以上が、農業によって生計を立てているが、人口の24%が貧困ライン以下の生活を強いられている。流域各国における農業がGDPに占める割合は年々減少しているが、それでもカンボジアとラオスでは30%を超えている。農業は、流域住民の生活水準を向上させ貧困を緩和するために、もっとも重要な産業である。タイ北東部、ラオスおよびカンボジアでは、天水農業による年1回の稲作が主流となっている。下流域における灌漑面積は、メコンデルタがその60%以上を占める。灌漑用水は、流域の水利用の70%以上を占めるが、メコン河の平均年間流出量の10%未満である。しかし、乾期においては、その時期の流出量の45%以上を占めるとの指摘もある。

2.メコン河委員会

(1)1995年メコン協定

 メコン河委員会(MRC)は、下流域4か国(カンボジア、ラオス、タイ、ベトナム)が、1995年4月に「メコン河流域の持続的開発のための協力に関する協定」(以下、「1995年メコン協定」とする)に調印することによって設立された。

 1995年メコン協定は、全体で6章42条から成り、「下流域4か国が、メコン河流域の水および関連する資源の持続的な開発、利用、保護および管理のため、建設的で相互の利益になる方法で持続的に協力すること」に合意したものである。協力分野としては、灌漑、水力発電、航行、洪水制御、漁業、舟運、観光を含む幅広い想定をしている。また、上流国の中国とミャンマーは、MRCには非加盟であるがオブザーバーとして参加している。

 MRCは、加盟4か国の閣僚レベルで構成される理事会、局長レベルで構成される合同委員会、それらに技術的および事務的サービスを提供する事務局の3層構造から成っている。


(2)メコン河委員会の主な活動

 MRCの主な活動は、1995年メコン協定に基づき実施されている。その主なものとして、流域開発計画(BDP:Basin Development Plan)の策定、水利用計画(WUP:Water Utilization Programme)の策定、環境計画(EP:Environmental Programme)の策定などがある。

 BDPは1995年メコン協定において、「合同委員会が援助を求め流域レベルで計画を実施するために、プロジェクトやプログラムを発掘し、分類し、優先順位をつけるための青写真として、合同委員会が使用する全体計画の手段やプロセス」と定義されている。また、協定第2条において、「本BDPの策定を通じて、全流域国の潜在的便益の持続可能な最大限の開発およびメコン河流域の水の浪費の防止の促進、協力および調整を行う」とされているものであり、国境を(また)ぐプロジェクトや流域国間の共同プロジェクトのリスト作成や援助要請を目的としたものである。

 WUPは、協定第5条、第6条、第26条などに基づいて、流域国間の水利紛争防止のための水利用規則の策定や紛争調停を目的としたものである。

 EPは、協定第3条などに基づいて、流域における開発計画、水および関連する資源の利用から生じる負のインパクトから、メコン河の環境、天然資源、水生生物、生態系バランスなどを保護するためのものである。


3.流域開発計画の策定

(1)流域開発計画策定の経緯

 流域開発計画(BDP)は、MRC加盟4か国の合意に基づき、平等で持続的な方法で水および関連する資源を、どのようにして利用、管理、保護するかについての具体的な方向性を示すものである。

 BDPの策定作業は、1997年に開始された。そしてまずは、98年に加盟国の合意の下に、メコン河流域のビジョンと、MRCのビジョンが策定された。流域のビジョンは、「経済的繁栄、社会的正義および健全な環境にあるメコン河流域」であり、MRCは、「世界的レベルにおいて、財政的基盤が安定し、流域のビジョン達成を目的として、メコン河流域国に貢献する国際河川流域組織」である。また同時に、MRCのミッションも策定され、「メコン河流域国の相互利益と人々の福祉のために、水および関連する資源の持続可能な管理と開発の推進と調整を行うこと」とされた。

 その後、BDPの策定とその実施に関しては、流域開発計画フェーズ1(BDP1:Basin Development Plan Phase 1)が2001〜06年に、同フェーズ2(BDP2)が07〜11年に、それを引き継ぐかたちで11〜15年の予定でBDP 2011-15が実施されている。


(2)流域開発計画フェーズ1

 流域開発計画フェーズ1(BDP1)が2001〜06年に実施された。BDP策定には、流域国の利害を調整し合意可能な開発および管理計画を策定することが必要であるが、各国の利害が対立し調整に困難を伴うことが多い。そのためBDP1は、適切な計画策定に向けた第一歩として、流域国間において協力的な関係を構築し、流域のビジョンについて共通の理解と信頼を醸成することを目的として実施された。また、加盟4か国の主体的な参加によって、BDP策定の具体的なプロセスを明確化することに主眼が置かれた。

 そのため、各国の水分野に関する国内政策をレビューして開発ニーズを特定するとともに、各国の国内メコン委員会(NMCs:National Mekong Committees)とその職員が合同で、BDP策定に必要な計画プロセスの特定、基礎となるデータベースの開発、キャパシティ・ビルディング(人材育成)などを行った。そして、それらを基にして、国境を超えた流域レベルでの分析、開発の選択肢と制約に関するシナリオ分析、統合的水管理(IWRM : Integrated Water Resources Management)の戦略的方向の確立、開発プロジェクトのデータベース化、開発プロジェクトの優先順位付けを柱とした、計画策定サイクルを策定した。

 このようなBDP1の成果は、BDPを策定するためのプロセスを明確化することと、各国の主体的な参加による計画策定のための枠組みの構築を主としていることによって、極めて概念的なものに留まっている。


(3)流域開発計画フェーズ2

 BDP1の成果をより具体化するために、流域開発計画フェーズ2(BDP2)が2007〜11年に実施された。BDP2の総合的な目的は、メコン河流域の水資源の開発および管理を、流域国の相互利益になるよう統合的、持続的、平等な手法で行うこととされ、それを実現するために達成すべき短期的な目的として、次のものが掲げられた。(1)BDP策定プロセスへの関係者の効果的参加を促進するための積極的なコミュニケーションの推進、(2)流域の持続的開発を支援するためのBDP1で考案した計画策定サイクルによるIWRMに基づく流域開発計画の策定、(3)MRCとNMCsにおける流域開発計画策定に必要なデータベースのさらなる開発と効果的利用、(4)IWRMに基づく計画策定に関するMRCとNMCsのキャパシティ・ビルディング。

 BDP2はその具体的成果として、2011年にIWRMに基づく流域開発戦略(IWRM-based BDS :IWRM-based Basin Development Strategy)を策定した。これは、1995年メコン協定の締結後15年を経て流域国(加盟4か国)が初めて、下流域における水資源開発の機会とリスクについて共通の理解を醸成し、多くのプロジェクトの戦略的な優先順位付けについて合意したものである。本戦略は、流域の開発と管理における戦略的な優先順位を規定している。流域開発の戦略的な優先順位が高いものとしては、次のものがある。(1)乾期の河川流量を確保するために、加盟4か国の協調と上流国の中国との協力によって、開発に関する機会とリスクに対応すること。(2)食料安全保障と貧困緩和のために、灌漑農業を拡大・強化すること。(3)水力発電開発による環境的・社会的持続性を強化すること。(4)開発に関連する不確実性とリスクに対応するために、不可欠な情報を確保すること。(5)開発の利益とリスクの共有方法を特定すること。(6)気候変動への対応策を準備し、その実行を開始すること。(7)検討された流域計画を、各国の国内計画に統合すること。

 流域管理の戦略的な優先順位が高いものとしては、次のものがある。(1)水関連分野のための流域目的と管理戦略を明確化すること。(2)各国レベルにおける水資源管理プロセスを強化すること。(3)流域レベルにおける水資源管理プロセスを強化すること。(4)流域全体における環境的・社会的目的を明確化すること。(5)水資源管理のためのキャパシティ・ビルディングを実施すること。

 本戦略は、2011〜15年における流域の開発と管理における優先順位を明確化し、その実行スケジュールを設定した具体的なロードマップと位置付けられている。なお本戦略は、今後5年ごとに見直されることになっている。


4.水利用規則の策定

(1)世界銀行などによる水利用規則策定プロジェクト

 MRCによる水利用に関する規則を策定するための水利用計画(WUP)が本格的に開始されたのは、世界銀行などの支援による「水利用規則策定プロジェクト(MRCのWUPと区別するため、以下WB-WUPとする)」が始まった2000年からである。なお、MRCの包括的なWUPを推進するための、具体的なプロジェクトの1つがWB-WUPであるとの位置付けである。WB-WUPとその後のフォローアップを通じて、結果的に水利用に関する規則として5つの手続き(Procedures)が策定された。

 1995年メコン協定の締結後、2000年にWB-WUPが開始されるまでに詳細な規則の策定が本格化しなかった理由としては、次のような指摘がある。(1)1995年メコン協定の内容として、協定の協議期間中における議論が未解決で、その用語や定義があいまいなまま成文化されたこと。(2)メコン河の水質問題に関する規則を策定するかどうかについて、同協定では明確になっていなくて、流域国間で合意を得るために時間を要したこと。(3)MRCの主要業務について、具体的な戦略や優先順位が明確になっていなかったこと。(4)関連するデータ収集は行われていたが、規則策定の根拠となるデータベースとして有効に活用されていなかったこと。

 そのため、2000〜06年までの予定で開始されたWB-WUPでは、水量だけではなく水質に関する規則も策定することとし、以下を実施することとされた。(1)水量や水質の規則策定の根拠となるデータベースの整備と、それを用いた流域モデルの開発。(2)水利用に関する各種規則の策定。(3)関連するキャパシティ・ビルディングの実施。

 本プロジェクトによる支援の下で、加盟4か国間の協議と合意により、まずは以下の手続きが策定された。(1)データと情報の交換と共有に関する手続き(PDIES)、(2)水利用のモニターに関する手続き(PWUM)、(3)通報、事前協議、合意に関する手続き(PNPCA)。

 また、水質に関する規則策定については、加盟4か国間での意見の隔たりが大きく、WB-WUP実施期間を1年延長したが、それでも最終的な正式規則承認までには至らなかった。これは加盟4か国において、 上流と下流といった地理的位置や経済発展レベルなどに起因する差異が大きく、一定レベルまでの合意に到達することが困難であったためである。

 そうしたなかでも、最終的に加盟4か国が議論し交渉し、水質に関する手続きの策定と承認に到達できたのは、MRC事務局長の個人的な尽力が大きいとの指摘がある。そしてプロジェクト実施期間の1年延長とその後のフォローアップにより、2011年に次の2つの手続きも策定・承認された。(4)本流の流量を維持するための手続き(PMFM)、(5)水質に関する手続き(PWQ)。


(2)世界銀行などによるメコン統合的水資源管理プロジェクト

 WB-WUPとその後のフォローアップによって、5つの手続きが策定されたが、その実施を具体的に進めるため、後継プロジェクトが検討された。2006年のMRC理事会において、その方向性が承認されたのを受けて、10年にコンサルタントによる具体的な構想を取りまとめたレポートが作成され、12年から世界銀行などによる「メコン統合的水資源管理プロジェクト(M-IWRMP)」という名称で、17年までの予定で実施されている。

 本後継プロジェクトの検討が開始された当初は、「水利用規則策定プロジェクト・フェーズ2」という名称であったが、MRCの2006〜10年までの活動計画の重点事項を取りまとめる「MRC戦略計画2006-2010」で掲げられた4つの目標のうちの1つが、統合的水資源管理を推進するために必要な能力とデータベースを強化することとされたことに呼応して、M-IWRMPという名称に変更して実施されることになった。ここでは、統合的水資源管理の概念は、GWP(Global Water Partnership)の定義に基づくもので、MRCの1995年メコン協定による規定を実施していく活動そのものが、流域におけるIWRMであり、前述のWB-WUPで策定された手続きの実施を推進することがIWRMに相当するとの考えに基づいている。

 WB-WUPからの教訓として、主に以下の指摘がなされている。(1)MRC参加国間での水利用規則策定に関する交渉は、相互の考えの差異が大きく、初期段階からしばしば困難に直面した。(2)WB-WUPは、主にMRCを通した水利用規則策定を目的とし、各国レベルでの実施までは考慮していなかった。(3)WB-WUPは、関係者間の紛争を解決するために必要な、各国レベルのキャパシティ・ビルディングを実施するために十分な予算を持っていなかった。(4)WB-WUPの成果には持続性が欠如しており、長期的なフォローアップが必要である。

 これらの教訓に適切に対応するために、M-IWRMPは、下流域全体、各国レベル、複数国の国境を跨ぐレベルの3つのレベルにおいて、IWRMを同時並行的に実施していくこととされた。そのため、M-IWRMPの大まかな目的は次のように設定された。(1)加盟4か国の各国内における、IWRMと自然災害管理に関するパイロット的活動の実施を支援する。(2)いくつかの国における、IWRMに関する制度的能力を強化する。(3)パイロット地域における地域の環境と生活に重要な洪水管理と水産資源管理の改善を支援する。この大まかな目的を達成するため、M-IWRMPのより詳細な目的は、2012〜17年に実施するフェーズ1と、その後に実施するフェーズ2に分けられた。これらの概要を表1に示す。なお、フェーズ2については、カンボジア、ベトナム、MRCのすべてを一括して対象とするのではなく、その後のプロジェクトの詳細設計において計画が変更された。

表1 M-IWRMPの概要

フェーズ1
目的
具体的活動
(1)国境を超えたIWRMの課題に対処し、各国間のコミュニケーションを改善するための手法を、MRCを通して開発する。
(2)ラオスの国レベルにおけるIWRMのために必要な政策と制度を開発する。
(3)ラオスにおける洪水管理の手法を開発する。
(1)流域全体におけるIWRMの基本的概念に関する理解を深めるための域内対話の促進。
(2)ラオス国内における、IWRM促進のための既存の水資源法の改正やキャパシティ・ビルディングなどの実施。
(3)ラオス国内の重要な地域における、洪水管理と水産資源管理の改善。
フェーズ2
当初の目的
計画変更後の概要
カンボジア、ベトナム、MRCを対象として、
(1)IWRMの改善を支援する。
(2)メコン川下流域における洪水と干ばつのリスクをモニターし、評価する手法を開発する。
(3)メコンデルタ上流部において、洪水管理と気候変動への対応を含むIWRMを適用する。
(1)フェーズ2ではベトナムのみを対象として、IWRMのための制度開発、水資源モニタリング網の構築などを2013年から2018年に実施する。
(2)フェーズ3としてカンボジアを対象とし、河川流域組織やIWRMの強化などを2014年から2019年に実施する。
(3)フェーズ4としてMRCを対象とし、洪水リスク管理のための地域データの収集・分析や、農業・水産業データベース管理の強化を2015年から2020年に実施する。

5.環境プログラム

(1)水質に関する手続き

 MRCでは、環境プログラムの実施によって、1995年メコン協定では詳細に記述されていない環境、とくにメコン河流域の水質の保全に関して参加国が取るべき手続きを規定した、「水質に関する手続き(PWQ :Procedures for Water Quality)」を、参加国の同意を得て2011年に策定した。

 これは、メコン河流域の持続的開発を促進するために、参加国間で「受け入れ可能で良好な水質」を維持するために、参加国が協力するための枠組みを規定したものである。

 PWQでは、この「受け入れ可能で良好な水質」について、「水利用によって利益を得ると参加国が考える基準に合致する水質」と定義している。また、その手続きの原則として、費用効果的であること、説明責任を果たすこと、透明性を有することを挙げている。

 PWQでは、流域における水質を維持するために、参加国が実施すべき事項を次のように規定している。(1)メコン河本川における「受け入れ可能で良好な水質」を維持するために、あらゆる努力を行うこと。(2)メコン河の水質を監視し評価するために参加国が共同で実施する活動を強化すること。(3)PWQを適切に実施するための技術的ガイドラインを、参加国が共同で策定すること。(4)PWQをさらに効果的に実施することができるよう、その技術的ガイドラインを改善するための研究を実施すること。


(2)メコン河流域の環境モニタリング

 メコン河流域の水質調査は、1995年のMRC設立以前の旧メコン委員会(当時)の1985年から、継続的に実施されてきている。水質調査は、ラオス、タイ、ベトナムでは85年に、カンボジアでは93年に開始された。各国にある研究所でメコン河流域の水質調査を行い、その結果を共有し、GISを使用した情報データベースを構築し、データを蓄積している。これを利用することによって、将来の流域開発計画とその影響を推定することが可能となった。

 その後、単なる水質調査だけではなく、より幅広い環境モニタリングとして、水質調査の結果をもとに、(1)「水質に与える人為的影響」、(2)「水生生物の保護」、(3)「農業への利用の影響」についても、総合的に評価することへと発展した。これは、単なる水質調査だけではなく、生物多様性のモニタリングや、水環境システムに依存した人々の暮らしをモニターすることへと発展したことを意味する。

 2011年現在では、加盟4か国における48地点で、水温、pH、DO(溶存酸素)、COD(化学的酸素要求量)など18の項目について、水質調査を行っている。そのうちのメコン河本川などに位置する主要な22地点における水質の評価結果を公表している。また、水質調査の実施間隔については、ラオス、カンボジア、タイに位置する地点では2か月に1回、ベトナムでは毎月としている。これは、従来はどこの地点においても毎月観測していたが、1985〜2008年までの水質に関する各指標の変化の傾向を分析したところ、最下流のベトナム以外では各指標の観測データに大きな変動がなかったことから、2か月に1回へと回数を減らしたことによる。

 (1)「水質に与える人為的影響」、(2)「水生生物の保護」、(3)「農業への利用の影響」の、それぞれの評価に用いる水質調査の指標の種類については、人口増加、農業や漁業の発展、舟運の発展、水力発電、工業化などが、水生生物や人間の健康に影響を与えるであろう化学物質などの増加を考慮して、設定されている。

 22地点における2011年の観測結果に基づく評価は、次のようになっている。(1)「水質に与える人為的影響」については、「影響がない」が2地点、「若干の影響がある」が3地点、「影響がある」が11地点、「重大な影響がある」が6地点となっている。(2)「水生生物の保護」については、「非常に良好な水質」が20地点、「良好な水質」が2地点となっている。(3)「農業への利用の影響」については、22地点すべてにおいて「影響なし」となっている1)

 メコン河流域の水質などの環境は、今後の水力発電用ダムの建設、農業における灌漑面積の拡大、舟運の発達、気候変動などの影響で大きく変化する可能性がある。これらは、メコン河流域の水質の悪化をもたらし、水生生物などの生態系や、そこに居住する住民の生活にも影響することが考えられる。


<参考文献>
1) Mekong River Commission: The Lower Mekong Basin Report Card on Water Quality, 2p. (2013)

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