アフリカの土壌特質と地力改善

京都大学 大学院 アジア・アフリカ地域研究研究科
教授 荒木 茂

1.アフリカの自然と土壌・人為

 この25年間、筆者はアフリカの各地で土壌と在来農業を調査する機会をもった。半乾燥帯から湿潤帯まで、人々が多様な地域の環境を巧みに利用しながら生計を維持し、決して恵まれた社会環境とはいえない状況のなかで、現在を生きているさまは、実に多様であった。それは土壌をはじめとする天然資源と、民族のもつ歴史・文化的、社会的文脈のなかで生きる人々が織り成す「曼荼羅(まんだら)」のような世界であり、直接的な自然利用と社会の構築が密接に結び付いた力強く、たくましい世界であった。

 今になって思うことは、アフリカの農村社会というのは、近代化路線からみて遅れていると評したり、その発展の道筋を直線的な経済発展論で理解したりできるものではなく、地球上には同時代的にさまざまな社会が共存し、それぞれに、その存在理由があるということである。たとえば森林破壊。農耕文明は、およそ1万年前に、世界のいくつかの地域で発生し、温帯の森林を破壊しながら世界に伝播し、人類史のなかで農業技術に改良を加えたり、近代科学を取り入れたりすることによって、食料の増産を果たし、人口を増加させてきた。

 アフリカがこのような道を選択しなかった、ということが今日のアフリカにおける、自然、動物と人々の共存によって示されている。700万年前に初期人類が類人猿から分化して以来、人類(旧人を含めて)は、さまざまな形で自然を改変してきた。サバンナも、火入れによって草の新芽の再生が促進され、それが大型野生動物と、家畜、つまりは人類との共存を支えてきた、という視点はあまり注目されていない。文化人類学的にみても、環境史のなかでアフリカが自然との共存において、如何にダイナミックな関係を築き上げてきたかという点が、未だ明らかにされていないのではないかと思う。本稿では主に、このようなアフリカの視点から、土壌がどのようにみえるか、ということを中心に話題を提供したい。


2.土とはなにか?

 「母なる大地」「生命を育む土」などという表現にみられるように、日本人は土にノスタルジックな思いを寄せることが多い。ヨーロッパ人も、然り。ミレーの晩秋、ベートーベンの田園交響曲などには、近代社会で失われつつある自然への郷愁が込められている。しかし、自然科学的、あるいは地球発達史的にみると、生命が土を作ったのであって、その逆ではない。生命の進化において陸に上がった生物(最初に植物、次に動物)が、古生代に共同社会を創り上げ、光合成による有機物の生成とミネラルの地球表層への集積と分解が成立して以来、生命は地上で大型化し、微生物と共働してそれを支える地球環境システムを創成・維持してきた。

 最近は話題に上がることが少なくなったが、ラヴロック(1984)は、「地球生命圏・ガイア」というコンセプトを打ち出し、生命が総体として自己の生存に望ましい環境を地球に創り上げてきた、と主張した。「大気中の酸素はなぜ、20%に維持されているのか」、「地質時代を通じてなぜ、大気中の二酸化炭素は減少を続けてきたのか」に、答えを与えるものである。土壌は、このような地上の生命維持システムの根幹を成している。根によって吸い上げられた地下の無機栄養分(P, K, Ca, Mg, Na, Mnなど)は地表近くに集積し、生物の合成・分解システム内に組み込まれ、それが寄与してバイオマスは増大したばかりでなく、進化・生物多様性の増大によって、地上のあらゆる環境への適応、進出を果たした。

 植生のあるところ、土壌は最大限保持される。図1に、カメルーンの熱帯雨林・サバンナ境界地域の地形・土壌関係模式図を示した。高度差が30mほどある丘の繋がりの間に、網の目状に川が流れ、丘の形が上に凸の斜面形を示すために、フランス語で半オレンジ丘陵と呼ばれている。事実上、このような地形と植生下では、土壌はほぼ永久的に保持され、一次生産力、生物多様性を支える究極のエコシステムが創られるといってよい。また、川は侵食能力をもたず、雨の排水路として作用している。これは人為の影響が最小限に抑えられた条件を示すものであるが、アフリカの地形・土壌・植生関係を捉えたものとして、かなりの一般性をもっている。

図1 半オレンジ丘陵の地形・土壌関係模式図
図1 半オレンジ丘陵の地形・土壌関係模式図


 一方、隣接するサバンナでは、長期間の人為の影響(火入れ、放牧など)によって森林が破壊され、表層の赤土が流出し、下層のピゾリス層(酸化鉄の礫(れき)層)が地上に露出するケースもみられる。この赤土は、土壌分類的には強く風化したフェラソル(Ferralsol)、オキシソル(Oxisol)と呼ばれ、粘土質ではあるが養分含量が極端に低く、植物の生育は専ら、表層に蓄積した腐植層や落葉の分解からの養分放出に依存している。カメルーン東部における主作物はキャッサバで、このような貧栄養の土壌でも、安定的な生産を保証している。前作にはトウモロコシや落花生を栽培し、キャッサバを2年間に2回収穫したあと、5年程度の休閑期間を設けて地力の回復を待つ。

 こうした焼畑/ブッシュ休閑システム(Slash-and-burn/Bush fallow system; 以下SBシステム)は、サブサハラ・アフリカ(サハラ砂漠以南のアフリカ)の半乾燥帯から湿潤帯にかけて普遍的にみられる農法で、3〜4年の耕作のあと、5〜10年の休閑を設ける場合が多い。耕作地の開墾方法や作物選択には地域の特徴がみられ、土壌窒素や植物体の養分を巧みに放出させる在来の知恵が多く見出される。SBシステムとは、自然の再生力に全面的な信頼を置いた農法であり、手間暇をかけずに「広く、薄く」土地を利用している限りは、自給を保証する合理的な農業である。しかし、地域によっては土地不足のために休閑期間を短縮させることが、収穫の減少を引き起こし、また自給が中心のために現金獲得の手段を、地域外への出稼ぎや小規模な商品作物(コーヒー、カカオ、タバコなど)栽培に求めるなど、経済的貧困の状態に置かれている地域が多い。


3.森林保全と農業の集約化

 SBシステムは世界のCO2排出量の20%に及ぶともいわれていて(WWF, 2015年11月22日確認)、地球温暖化対策として、熱帯・亜熱帯地域に広くみられるSBシステムを常畑化する動きが盛んである。また、熱帯雨林、生物多様性の保全活動が、国際的にも広範な支持を得て、アフリカ諸国はREDD+(途上国における森林減少と森林劣化からの排出削減並びに森林保全、持続可能な森林管理、森林炭素蓄積の増強:Reduction of Emission from Deforestation and forest Degradation)に積極的に取り組む姿勢をみせている。

 このREDD+とは、途上国の自国の森林保全のための取組に対し、経済的利益を国際社会が提供するというもので、伐採するよりも保全する方が、高い利益を生むようにすることで、森林破壊と温暖化の防止を目指す。また、地域コミュニティや、先住民族の権利も守りながら、このREDD+が実施されれば、気候変動や生物多様性の劣化をくいとめながら、地域住民の生活にも恩恵をもたらすことが期待されている(WWF, 上掲website)。

 カメルーン政府は、90年代後半より森林地域の囲込みを開始し、保護区、商業伐採地、地域住民居住地域としてアグロフォレストリ地域を線引きし、地域住民の持続的森林管理を目的として、コミュニティ・フォレストの登録を推進している。このような政府による土地の囲込みは、慣習的に森林を利用していた地域住民の生活域を制限し、国立公園、森林保護区での狩猟採集民の生計活動は認められなくなった。森林保全のためには、アグロフォレストリ地域、および森林境界地域における生業活動、とりわけ農業を振興する必要があり、農地の拡大を伴わない持続的な集約化を図ることによって、自給および現金獲得による生活向上を可能とするシステムの構築が必要となっている。

 図2に、アフリカ大陸における1990〜2012年の森林面積の減少と農地・放牧地面積の拡大を示した。国連食糧農業機関(FAO)による森林の定義は「樹高が5m以上で、10%以上の被覆率を示す0.5ha以上の土地」で、果樹園など商業目的の土地や都市の緑地などを除いている。したがって、熱帯雨林から、サバンナ林、半砂漠に至るあらゆる林地が含まれ、人の関与も地域によって多様である。この間に80万km2の森林が消失し、単純平均の年間減少率は4.8%に及んでいる。森林の減少は、1990年を起点とする農耕地・放牧地の増減によって、ほぼ相殺されていることが図から読み取れる。すなわち、毎年、日本の国土面積の1/10程度が耕地化されている。

図2 アフリカ大陸における森林の減少と農地の拡大(1990-2012)
図2 アフリカ大陸における森林の減少と農地の拡大(1990-2012)
注: 農地と放牧地は、いずれも各年の対1990年比の増加面積である。尚、基準とした1990年の数値は農地面積が20.3(10万km2)、放牧地面積89.0(10万km2)である。
出所:FAOSTAT, Website; アフリカ大陸のAgricultural area, Arable land, Permanent meadows and pasturesの面積を集計


 図3には、サブサハラ・アフリカにおける森林のタイプ別割合を土地利用割合とともに示した。年降水量が1500mm以上の熱帯雨林から、1000〜1500mmの湿潤サバンナ林、500〜1000mmの乾燥サバンナ林が現在、それぞれ7〜9%の面積を占めるが、これらはこれまで人為による大きな破壊を受け、草原、耕地、放牧地へと化している(FAO, 2001)。放牧地には、半乾燥帯における牧畜民の放牧地、および南部アフリカにおけるヨーロッパ人由来のランチングと呼ばれる放牧地を含み、その他にはサハラ砂漠などの乾燥帯が含まれている。Houghton & Hackler (2006)は、土地利用変化によるCO2放出の査定を行い、アフリカの原森林植生の60%は白人が植民地化する以前の19世紀半ばにすでに失われて、以後150年間の消失は10%と見積もっている。アフリカには多くの自然が残されているという常識に反し、人類の生存と自然との交渉が長期間(おそらく2000年以上)継続して、作られた「自然と人との共生空間」を創出しているといえよう。

図3 サブサハラ・アフリカの土地分類
図3 サブサハラ・アフリカの土地分類
出所: Global Forest Resources Assessment 2000, Main Report, For Pap., 140, FAOなどから、筆者作成


4.焼畑/ブッシュ休閑システムの位置

 アフリカ農業がSBシステムによって営まれてきたことは前述したが、これが二重の意味で非難にさらされている。一つは森林破壊であり、もう一つは一次産業として国家経済に貢献が少ないことである。FAOによると農耕地とは、3つの形態の土地利用の集合であり、1年生作物畑(通常の穀物畑、野菜畑)、永年生果樹園、永年放牧・牧草地からなる。この定義からは、休閑地を含んだSBシステムが除外されている。つまり境界の確定されない利用地は、農耕システムとは見なされず、アフリカの農業実態と大きくかけ離れた認定となっている。先のFAOによる森林の定義からは、再生が十分でない休閑地は、森林として見なされていないので、SBは、森林とも農耕地とも見なされない、いわば空白地帯とされている。

図4 自然と人為の境界に位置するSBシステム
図4 自然と人為の境界に位置するSBシステム

 問題は、今後、SB地帯をどのように扱うべきかに関する議論が、十分にされていないことである。図4に示したように、SB地帯は、確定された「森林と農耕地」および「サバンナ、草原と農耕地」の間に位置する遷移帯として位置づけられる。農業集約化の必要から、SB地帯は常畑に移行したらよいのか、あるいは炭素隔離の要因として、森林に戻したらよいのかのコンセンサスを得るためには、具体的な地域の事例によって解決方法を蓄積していく必要がある。四方(2013)は、焼畑休閑とは、単に地力の回復期間として位置づけられるのではなく、森林再生に伴って成長する有用樹種の利用を伴う多目的なものであり、地域住民の生活を支える生態系の重要な要素をなすことを述べている。この視点に立てば、地域の土地利用を決定するのは地域住民であり、長期的な資源利用法を見通した、持続性のある焼畑代替方策を見出す必要があることが明白となろう。


5.グローバル経済下でのアフリカ農業・土壌

 2000年以降、アフリカ諸国は5%以上のGDP成長率を達成する国を輩出し、国際農産物価格の高止まりに起因する輸入代替農業を推進するために、自国農業を振興する機運が起こっている。これまで価格優位にある輸入食料に頼っていた都市住民が、自国の食料生産に目を向けるようになれば、アフリカの小農生産が、産業として国家経済において確固たる位置を占める可能性を有している。

 また、これまで援助漬けになっていたアフリカ農業を、好景気をバックに民間のビジネスとして推進していく動きが国際的にも活発になってきている。中国、インドによるアフリカへの直接投資が突出しているが、世界銀行、国際農業研究協議グループ(CGAIR)も民間の参入を取り込んだプロジェクトを推進しつつある。食料増産を専ら農地拡大に頼ってきたアフリカは、技術革新による単収の増大がみられず、人口当たりの耕地面積、生産量がともに低下していることは、アジア諸国と際立った対照をなしている。近代技術に裏打ちされた「緑の革命」が、効果を発揮できる余地が多く残されている。

 一方、先進国の立場からみると、国際食料需給の面から将来の世界的な食料不足を危惧する人もいて、食料安全保障の点から日本への食料供給を確保しようとする動きもみられる。大所高所の議論が交錯している点が否めないが、アメリカのトウモロコシ生産の余剰がエタノール生産に向けられていることからも分かるように、将来的に食料が絶対的不足に陥る事態は起こりえないといえよう。世界はその人口を養うことのできる農業生産力を十分に担保している。問題は、その生産力を展開できる耕地拡大の余地が、どれだけ残されているかにある。

 熱帯雨林と生物多様性の保全には国際的関心が集まり、REDD+を通しての地域住民をサポートする体制が整いつつあるが、ほかの森林はどうであろうか。図3に示したように、アフリカには、熱帯雨林を上回るサバンナ林が分布していて、この植生帯を大規模開発の対象とするプロジェクトが各地で企画されている。日本政府もモザンビークにおいてダイズ、トウモロコシの一大生産基地を創成するプロジェクトを推進しつつある(プロサバンナ)。このような森林の農地への大規模な転換が、CO2排出規制をどのようにクリアしていくのか、また効率のよい大規模開発が、現地の小農のインセンティブをどのように喚起していくのかに関して、議論を深める必要があろう。

 図5に、アフリカ農業集約化への可能な道筋を示した。土地に制約がない条件では、大規模経営によって労働生産性を上げ、面積によって生産を確保する道筋があるが、アフリカがこれに該当するであろうか。世帯当たり耕地面積が1ha程度とされるアフリカの小農にとっては、省力化を図るよりは有り余る労働力を土地に投入し、土地生産性を上げるアジア型の農業開発を目指す方が、より現実に即しているのではないだろうか。もちろん世帯の労働生産性を上げ、他産業に就業する者を輩出するようなビジネスチャンスが到来すれば、多様な展開が期待される可能性は残されている。いずれにせよ、開発に際しては、森林セクター、農業セクターの連携の取れた長期的開発戦略を構築することが緊急の課題であろう。

図5 アフリカ農業集約化への道筋
図5 アフリカ農業集約化への道筋


6.おわりに

 筆者らは、この5年間、カメルーンにおいてJST/JICA・SATREPSプログラムを実施してきた。東部州の森林地帯、おおび森林/サバンナの境界地帯で、森林伐採の代わりに非木材森林産物(果実など)を有効利用することによって生活向上を図るとともに、地域の主食であるキャッサバの生産・加工・販売を支援することによって農業の生産性を高め、森林保全に貢献する基礎研究、実践支援を行なってきた。森林保全への努力に対しては、REDD+を通じて外部からのサポートが得られる仕組みが考えられるが、農業の集約化は、どうであろうか。

 村で生産するキャッサバ加工品の人気が高まり、需要が増え、労働、生産財のさらなる投入が採算に合うようになれば、持続的な生産への展望、くわえて、そのような生産が地域全体に普及する展望が開ける。しかし、ここで留意しなければならないのは、森林保全への努力(利用に関する制限)の代償である農業集約化によって、土地への負荷、つまり土壌収奪は高まり続けると予想されることである。先進国は経済的な採算ベースで石油エネルギーを、土地荒廃の代償としてつぎ込んできた。アフリカにもこのようなシステムを持ち込めば、森林保全への努力が、その周辺部での土壌荒廃を引き起こすことになり、結局は環境保全的見地からして、「元の木阿弥(もとのもくあみ)」である。「SB の常畑化」および「持続可能な生産のカギとなる表層土壌の侵食防止(土壌保全)」に要するコストは、通常、小農が自主的に管理できる範囲を超えている。それを敢えて、現地の小農に求めるのであれば、代価を支払うべきである。さて、それを負担するのは誰であろうか。私は、国際社会ではないかと考える。

 さらに、グローバル経済がアフリカにおける食料増産を必要とするならば、経済的採算ベースではなく、土壌保全を現実に保証する仕組みを取り入れるべきことを主張したい。つまり、住民に利益を還元するだけでは不十分で、それがさらなる農地拡大、土壌収奪を促進することにもなりかねないからだ。

 最後に、土壌にも生物資源と同様に「自然の権利(Right of Nature)」があるということを国際世論に訴えたい。国際土壌年にあたり、国際的にも十分に意味があるアフリカからのメッセージであると考える。


<引用文献>
Araki, S., & Foahom, B., 2015. Towards sustainable models for intensifying resource use applicable to forest and forest/savanna zones of Cameroon, Proceedings, FOSAS International Symposium held Nov. 11 and 12, 2015 at Yaounde.
FAO, 2001 .Global Forest Resources Assessment 2000, Main Report, For Pap., 140, FAO, Rome.
Houghton, R. A., & Hackler, J. L., 2006. Emissions of carbon from land use change in sub-Saharan Africa, Journal of Geophysical Research, vol. 111, G02003: 1-12.
ラヴロック,J. E. 1984. 『地球生命圏─ガイアの科学』工作舎,東京.
四方篝,2013.『焼畑の潜在力─アフリカ熱帯雨林の農業生態誌』昭和堂,京都.

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