ベイスン灌漑:1年周期の洪水を灌漑に利用する方法であり、ナイル川の沿岸で約6000年もの間、伝統的に行われてきた。洪水は、8〜9月に通水能力が毎秒30〜300立方メートルの水路でベイスン(堤防で囲まれた面積400〜1万6000haの輪中農地)に導水され、0.5〜2mの深さで1〜2か月間にわたり湛水される
13)。この方法では肥沃な薄層が1年ごとに規則正しく堆積するため、永年にわたり耕地が疲弊することなく地力が増大した。また、洪水ごとの湛水と排水によって、地中塩類が溶脱されたため、塩類集積は回避できた。「エジプトはナイルの賜」といわれるゆえんである。この方法は19世紀前半までみられた。