オイルパーム産業における未利用バイオマス(オイルパーム伐採廃棄木)からのエネルギー創生技術と環境対策技術

独立行政法人 国際農林水産業研究センター(JIRCAS)     
生物資源利用領域 プロジェクトリーダー 小杉昭彦

1.はじめに

 パームオイルは食品や化成品の原料として用途も広く、世界の植物油脂のなかで使用量は最大である。需要拡大に伴い生産量も拡大し、2012年の世界の生産量は約5000万トンに達し、世界最大の植物油脂資源となっている(USDA“World Markets and Trade”)。オイルパーム(アブラヤシ)の生育には、高温多雨でかつ十分な日照量が必要とされ、プランテーション開発が可能なのは東南アジア、アフリカ、中南米の国々に限られている。

 とくにマレーシア、インドネシアでは大規模なプランテーション開発が行われ、両国を合わせて世界の87%前後を生産している。両国では、パームオイル産業は重要な基幹産業であって、マレーシアの場合、パームオイル関連製品の輸出額は約600億マレーシアリンギット(約1兆8000億円)と同国のGDPの8%を占めている。

写真1 オイルパームの古木
写真1	オイルパームの古木

 オイルパーム(写真1)は年間を通じて絶えず実の収穫が可能で、生産面積当たりの油脂生産性がダイズ(約550kg/ha)やナタネ(約800 kg/ha)よりもきわめて高く、3.4〜4.9 t/haにも達する。一方で、オイルパーム樹には経済的生産樹齢があるために20〜25年前後で一斉に伐採し、再植される(写真2)。マレーシアとインドネシアのオイルパーム栽培面積は、それぞれ約430万ha、約490万haあって、うち再植面積は、年間で各21万〜23万haになるとされている。これはほぼ東京都の面積に等しく、膨大な伐採廃棄木が発生することになる。

写真2 オイルパーム樹の再植現場
写真2 オイルパーム樹の再植現場

 オイルパーム樹幹は組織が脆弱(ぜいじゃく)なために、通常の木材加工には適さず、最外層の一部が合板材として利用されるのみで、大部分は粉砕、あるいはそのままの状態でプランテーション内に放置される(写真3)。なかには薬剤注入による立ち枯れ処分や、違法な火入れによる焼却を行なっている場合もあり、薬剤による土壌や地下水の汚染、あるいは煙害による健康被害が懸念されている。マレーシアではオイルパームの伐採廃棄木が年間2000万〜3000万本も発生していて、その有効な利用法の開発と共に環境負荷を与えない対策が強く求められている。

写真3 オイルパームのプランテーション内に放置される伐採廃棄木
写真3 オイルパームのプランテーション内に放置される伐採廃棄木

2.オイルパーム廃棄木の樹幹に含まれる樹液

 この樹幹の大きな特徴は、大量の樹液を含んでいることである。その含量は中心部分ほど高い傾向があるが、平均して約68%〜83%である(図1)。この樹液の糖成分を分析したところ、グルコース、フラクトース、スクロースが非常に多い優良な糖液であることが明らかとなった。対象樹幹によって若干の差異はあるが、伐採直後の全糖量はおおよそ7〜10%である。同一樹幹でみればその上下における糖含量の分布では、最下部では2割程度低いが、中間部から最上部までほぼ同程度である。また、葉柄基部から中央部分は、澱粉含量がとりわけ高いのが特徴となっている。

図1 オイルパーム廃棄木の樹幹に含まれる樹液含量
図1 オイルパーム廃棄木の樹幹に含まれる樹液含量

 一方、この樹液中に含まれる糖質以外の成分として、有機酸、アミノ酸、ミネラル、各種ビタミン類が豊富である。


3.サトウキビに相当するオイルパーム廃棄木の樹幹の資源価値

 オイルパーム樹の伐採後、作業状況によっては直ちに搾汁できない場合も想定される。そこで伐採後の樹幹の貯蔵が、樹液含量、樹液中の糖含量と組成に及ぼす影響に関して調査したところ、貯蔵中に糖含量が大きく増加するという、熟成現象ともいえる変化がみられた。その一例を図2に示す。伐採直後の樹液含量は68%〜83%で貯蔵期間中ほとんど変化しない。一方、糖含量は最大15%近くまで上昇する。製糖工業に利用されるサトウキビの搾汁液の糖含量が約16%であることから、適当な熟成期間を経ることによって、この樹幹がサトウキビに相当する原料になる可能性がある。

図2 オイルパーム廃棄木の樹幹の糖含量の貯蔵による増加
図2 オイルパーム廃棄木の樹幹の糖含量の貯蔵による増加

 現在、JIRCASでは「より短期間での熟成」や「熟成オイルパーム樹幹の選別と特徴」など、制御可能にするため、糖含量上昇に関わる因子やメカニズム解明の研究を行なっている。マレーシア理科大学の協力の下、大学内のプランテーションエリアにおいて櫓(やぐら)を建設し、年間を通じてのパーム樹幹の上、中、下部分のサンプリングを行い、各部位の糖濃度分析を実施している。


4.オイルパーム樹幹の樹液搾汁装置の開発

 品種や部位によって異なるが、樹齢25年のオイルパームの伐採樹幹は、直径30〜60cm、長さが10〜12m、重さは1トン近くに達する。樹液を得るためには、この大きな対象物をハンドリングし、効率良く搾汁するシステムを組み上げる必要があった。樹皮の除去には既存の合板用桂剥(かつらむ)き機を使用できるが、シュレッダーと圧搾機は新たに開発を行なった(図3)。

図3 オイルパーム樹幹からの樹液搾汁システム
図3 オイルパーム樹幹からの樹液搾汁システム

 シュレッダーとしては、幅20cmの刃3枚を直列に配置した回転刃を用いてパーム樹幹を細片化した。圧搾機は、サトウキビの搾汁用圧搾機をもとに開発した。パーム樹幹は繊維がサトウキビと比較し短く、また粉状の柔組織を大量に含み、サトウキビ用の圧搾ローラーでは空滑りが生じるため、ローラーの表面形状をパーム樹幹の組織に適した形状にするなど改良が必要であった。

 こうした装置によって、1時間に約500kgのパーム樹幹を処理することができ、抽出用の加水をしない場合でも約80%の高い搾汁効率を達成することができる。一連の装置はマレーシア森林研究所に設置して、研究材料の調製のほかにも、事業化を目指す国内外の民間企業へのデモンストレーションにも利用されている。


5.オイルパーム廃棄木の樹幹からのエネルギー創生技術と環境対策技術

 前述したようにオイルパームの樹液は、その廃棄木の膨大な予想発生量やサトウキビの搾樹液に相当するほどの糖含量上昇を示す特性などを考慮すると、再生可能エネルギーを非食用原料から生産するうえで、きわめて有望なバイオマス資源である。私たちは再生可能エネルギーとして有望とされるバイオエタノール生産において、通常の酵母であるサッカロミセズ・セルビシエを用い、この樹幹から搾汁した樹液から、直接無処理で理論値に近い変換収率でバイオエタノールが生産できることを証明している。

 ちなみにコスト試算してみると、サトウキビ搾汁液からのエタノール製造コストは、一般社団法人アルコール協会の報告(2007)によれば、原料費、エタノール変換費を含め合計約45円/Lとのことである。一方、パーム樹幹からの製造コストをもとに試算すると、合計約29円/Lとなる。これは圧倒的に安価で調達できる原料のためである。原料費は生産費と収穫経費の合計であるが、パーム古木は廃棄物であり生産費をゼロと見なすことができる。

 なお、課題として安定的な廃棄木の調達と搾汁残渣の有効利用が残されている。経済的かつ環境負荷を軽減したオイルパーム樹幹利用方法を実現するためには、両者を満たす適切な生産規模と廃棄木収集範囲を設定する必要がある。排出されるパーム廃棄木の地域分布に基づいた安定調達に対する計画が必要であり、工場立地を含めた全体システムのなかで生産規模を検討することが重要と考える。

 本年6月、JIRCASではこれらの一連の技術の実用化を推進するため、株式会社IHI環境エンジニアリングと共同で、東南アジアにおけるパームオイル産業の環境汚染対策の将来の事業化に向け提携を行うことを発表した(2014年6月17日付 日刊工業新聞)。ここでの取組としては、前述のオイルパーム古木伐採後の放置による環境汚染問題、およびパーム搾油工場からの排水による水質汚染や汚濁物質の腐敗によるメタンガスの大量放出という問題を、共に解決をしようという試みである。

 実証実験では、搾油工程から出てくる排水とオイルパーム伐採廃棄木からの樹液を株式会社IHI環境エンジニアリングが研究開発したメタンエネルギー化技術「高速メタン発酵リアクター(IHI−ICリアクター)」に投入し、メタンガスを得る。得られたメタンガスは工場の発電に利用するほか、圧縮天然ガス化や液体燃料化することによって、農園や工場で利用するトラックの燃料にすることが可能で、パーム農園と搾油工場の両方に対して、環境対策技術と未利用バイオマスの利活用技術を提供することができると考えている(図4)。私たちは、これらの技術開発を「農業」と「石油化学工業」の融合モデル「AGRI CHEMICAL:アグリケミカル」と呼び、「環境負荷を低減しながら持続生産可能な農業」の実現、普及を目指している。

図4 オイルパーム産業からのエネルギー創生技術と環境対策技術
図4 オイルパーム産業からのエネルギー創生技術と環境対策技術

6.おわりに

 ここで紹介したオイルパーム伐採廃棄木の樹幹からの樹液の利用技術開発の発端は、伐採された樹幹の断面にはすぐにカビが繁殖するという、研究者の観察や知見から偶然に見出された成果である。海外研究や海外現場を知ることの重要性を、改めて認識させられた一例である。

 JIRCASでは、マレーシアの共同研究機関(マレーシア理科大学とマレーシア森林研究所)および日本企業と共に、オイルパーム樹液の利用に関する一連の技術に対して、パームオイル主要生産国において知財化を進めていて、本技術を通じて、東南アジア地域における持続的なエネルギー創生技術および環境対策技術の導入と普及に貢献してゆきたいと考えている。そのためには、共同研究機関、現地企業、相手国行政機関や政府の協力、理解が必要なことはもちろん、技術力を有する日本企業の参入が必要不可欠である。

 近い将来、本稿で紹介された技術は、マレーシア、インドネシアをはじめとするパームオイル主要生産国の環境・エネルギー問題解決に貢献すると同時に、持続的農業生産を推し進めることができると考える。一方、わが国にとっても近隣国で多様なエネルギー資源が生まれれば、その確保や化石燃料消費量の低減化を通じて、温室効果ガス削減義務の達成に貢献できよう。これらの国々とのWin−Winの関係構築の一助となることを期待したい。


<参考文献>
Kosugi A, Tanaka R, Magara K, Murata Y, Arai T, Sulaiman O, Hashim R, Hamid ZA, Yahya MK, Yusof MN, Ibrahim WA, Mori Y. Ethanol and lactic acid production using sap squeezed from old oil palm trunks felled for replanting. J. Biosci. Bioeng. 110, 322-325, 2010
森隆、小杉昭彦、村田善則、荒井隆益、「日本エネルギー学会誌」日本エネルギー学会, 2010
Yamada H, Tanaka R, Sulaiman O, Hashim R, Hamid Z.A.A, Yahya M.K.A, Kosugi A, Arai T, Murata Y, Nirasawa S, Yamamoto K, Ohara S, Yusof Mohd Nor Mohd, Ibrahim Wan Asma, Mori Y. Old oil palm trunk: A promising source of sugars for bioethanol production. Biomass and Bioenergy, 34, 1608-1613, 2010
Murata Y, Tanaka R, Fujimoto K, Kosugi A, Arai, Mori, T, Togawa E, Takano T, Ibrahim Wan Asma, Elham P, Sulaiman O, Hashim R, Mori Y. Development of sap compressing systems from oil palm trunk. Biomass and Bioenergy, 51, 8-16, 2013

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