特集解題

ARDEC 企画委員長 上田一美

 「人類と食料」という解答なき問題をめぐり、企画委員会では、それでも議論を重ねる。人類史をみれば、自然淘汰や戦災、災害、疾病など、「人類の叡智」とは無縁の力や所業が、人口調整を、結果として果たしてきた。一方、人口圧力を緩和、解消できるような農業生産でのミラクル調整は望めない。

 ならば、せめて「将来は何とかなる」という楽観的錯覚に溺れることだけは、回避すべきであろうと認識するに至った。その議論の過程で出てきた、さまざまなテーマを、専門家に科学的に整理してもらう──これが、本号の企画となった。OPINION(巻頭言)から並ぶ各タイトルはバラバラとの印象をもたれるであろうが、実はいずれもが、特集のテーマ─「食」の楽観的常識への覚醒─の核心につながっている。以下に、各執筆者の視点を、私見を交えて要約してみる。
 さてその前に、特集では戦時は想定しなかったが、アメリカの第31代大統領フーバーが第2次世界大戦中に語ったとされる言葉を紹介させていただく。The first word in war is spoken by guns, but the last word has always been spoken by bread.


無料食堂試論

 詩的で哲学的な文章で、読む度に印象が変わる。もっとも基本的な人間の考え方に、貴重な示唆を与えてもらっているようで、「本質を突く」とは無縁の情報過多に置かれている私たちに、爽快でさえある。人類の「餓え」の実態は、どのようなものか? マスメディアは、本質を報道しているか? この問題に、人間としてどう取り組むべきか? ─改めて考えさせられる。私の個人的所感であるが、食料、農業および栄養に関わる諸国際機関の実態は、どうなっているのであろうか。もっと透明度を高め、実態を広く理解してもらわないと、前線の支援現場で命を懸けて働いている人や拠出金を担っている各国の納税者に、ニューヨークの心地よい高層ビルに構えている本部は弁明のしようがないのではないか。

昆虫食は世界に広がるのか

 国連食糧農業機関の「昆虫食」に関するレポートを、実に丁寧に考察している。まず、「昆虫食を強く勧めながらも、その議論は慎重でバランスが取れたものになっている」と、レポートを敢えて評価している。そのうえで、昆虫の大量飼育コストが軽視されていることを、鋭く指摘している。私が懸念するのは、昆虫飼育の産業化が成功したならば、「貧困層は虫を食えばいい」という展開である。

なぜ貧しい国はなくならないのか

 開発経済学、とりわけ農業開発戦略に関して、あらゆる分野から体系的に整理されたもので、関係者には必読である。開発戦略の構築の重要性、戦略実施にあたっての実施の順序の重要性も具体的に言及されている。さて、私の個人的所感であるが、開発経済に関与する諸国際機関には、そろそろ抜本的改革が必要ではないだろうか? 尚、『アフリカ 苦悩する大陸』という書籍において、その著者が『デーリー・テレグラフ』の2002年8月27日付の次の要旨の記事を引用している。「アフリカ大陸にはマーシャルプランの6回分の援助資金が、すでに注がれている」

農業分野における栄養改善への貢献

 ミレニアム開発目標の飢餓改善のモニター指標によれば、2015年目標の達成が困難である。そうした状況下、漠然とした農業生産力増強ではなく、栄養改善に実際に貢献する農業生産を目指すことが、国際社会で強く認識されるようになっている。この間の経緯を、慢性的飢餓人口の対総人口比などの数字を交えながら、わかりやすく示している。

オイルパーム産業における未利用バイオマスからの
エネルギー創生技術と環境対策技術

 「エコ」だ、「ヘルシー」だと洗剤や食品で、パームオイルを消費するほどに、オイルパームのプランテーション拡大のため、生物多様性の豊かな自然林が伐採されてゆく。ヨーロッパを中心に「伐採」への懸念が強まり、「持続可能なパームオイルのための円卓会議(RSPO)」も存在してはいる。さて、本稿では、そのプランテーションでの廃材の利活用につき、タイトルに相応しい実用的技術が詳細に記述されている。

望ましい国際防災協力体制構築のための提言

 防災対策を、公共財と本質的に同等と捉えているのは興味深い。こうした位置づけに立脚して、防災・減災システムの構築、人材育成を具体的に、かつ詳細に提唱されている点は注目に値する。私の個人的所感であるが、公共財として核シェルターひとつも持てない国、日本にあっては、提言内容がすんなりとは理解されないのであろうか。

あなたの被災生活を支える災害食

 多くの実例から得られた教訓を、網羅的にまとめてあり、災害国に暮す日本人には必読の内容といえる。「さまざまな状況に対応する災害食」が定義され、説明がなされ、通常のこの種の報文にはない明確さがあって理解しやすい。実際、災害では、個人の食料備蓄は持ち運べないし、気が動転していて、食べるどころではなく、水は絶対に必要らしい。

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