国際かんがい排水委員会(ICID)の
かんがい施設遺産登録制度について 1. はじめに かんがい排水分野の国際的な組織のひとつとして、国際かんがい排水委員会(International Commission on Irrigation and Drainage、以下「ICID」とする)がある。インドのニューデリーに本部を持つICIDは、かんがい排水にかかる科学的、技術的知見によって、食料や繊維の供給を世界規模で強化することを目的として、1950年に設立された。2014年8月時点で96か国(台湾を含む)が加盟していて、わが国は1951年に閣議決定により加盟した。 これまでICIDは、毎年、常任委員会や各種作業部会および国際執行理事会を開催し、ICIDの政策・運営等に関する議論、技術・情報の交換等を行ってきた。一方、逼迫(ひっぱく)する世界の水需要のうち約7割を農業用水の利用が占めているという事実があり、かんがい排水分野に関わる我々は、より効率的な水利用を行いつつ、食料の増産と安定供給に貢献してきていることを、他分野へも積極的に説明やPRを行っていかなければならない。そういった状況のなか、ICIDは2014年に「かんがい施設遺産(Heritage Irrigation Structures)制度」を創設し、9月16日の第65回国際執行理事会(於韓国、光州広域市)にて第1号の遺産登録を行ったので、本稿にてそれを紹介する。 写真1 国際執行理事会にて各国からの参加者
2. かんがい施設遺産とは かんがい施設遺産とは、2012年の第63回国際執行理事会(於オーストラリア、アデレード)にて、ICIDのガオ会長(当時、中国)の提案に始まったものである。 この制度はかんがいの歴史・発展を明らかにし、理解醸成を図るとともに、かんがい施設の適切な保全に資することを目的として、建設から100年以上経過し、かんがい農業の発展に貢献したもの、卓越した技術により建設されたもの等、歴史的・技術的・社会的価値のあるかんがい施設を登録・表彰するために創設された。施設が登録されることにより、かんがい施設の持続的な活用・保全方法の蓄積、研究者・一般市民への教育機会の提供、かんがい施設の維持管理に関する意識向上に寄与するとともに、かんがい施設を核とした地域づくりに、活用されることが期待されている。 遺産登録への応募申請は各国の国内委員会(日本国内委員会事務局は農林水産省農村振興局整備部設計課)が申請主体となり、一括してICID本部に申請する。申請後は本部に設置されている審査会により審査され、申請された施設の登録の可否が決定される。遺産登録された施設はICIDの持つさまざまな媒体により周知され、表彰状やプレートが贈られることとなっている。 なお、登録対象は農業水利施設であり農業生産に直結するものであるため、遺産登録以降も補修・改修は自由に行うことができる。
3. 2014年遺産登録の概要 2014年は8か国から29施設が、かんがい施設遺産に応募され、ICID本部の審査の結果、5か国17施設が遺産登録されることとなった。その内訳は表1の通りである。この決定を受け、これら施設を擁する各国の国内委員会が9月16日の第65回国際執行理事会にて表彰状を受領した。
4. 日本の登録施設の概要 2014年にかんがい施設遺産登録された施設の概要は写真4〜12のとおりである。これら施設の詳細については(農林水産省ICID日本国内委員会ホームページ)に取りまとめられているので参照されたい。
5. かんがい施設遺産の今後の見通しとまとめ 2014年の登録施設は過半数が日本の施設となる快挙であったが、国際執行理事会における事務局等のコメントによれば、「本制度は今年が初の試みであり、登録要件の精査などを進めていくとともに、より多くの国から、より多くの申請がなされ、かんがい施設遺産が発展することを期待したい」とのことであった。よって、来年度以降も世界各国から多くのかんがい施設が遺産登録となることが期待される。 かんがい施設遺産登録されると、前述のとおりICIDの各種媒体によって、世界的に周知されるとともに、日本国内でも地元紙などに掲載されることもあり、国内外を問わず広く認知度が高まることが期待される。また、このかんがい施設に特化した遺産制度そのものの認知度が高まるにつれ、農業水利施設や土地改良区などが、いつも社会に大きく貢献していることが、よりいっそうPRされることともなるであろう。来年以降も、日本から多くの施設が、かんがい施設遺産に登録され、制度としても定着し、全世界に日本の農業水利施設とその管理主体の素晴らしさが、広く情報発信されることが望まれる。 |