気づきからの開発
   ──問いかけ法の可能性──

独立行政法人 国際農林水産業研究センター(JIRCAS)
農村開発領域 主任研究員 山田雅一         


 開発途上国における農業農村開発プロジェクトや同様の調査においては、私たちのような外部の者が、対象となる地域の人々へ関与し、何らかの活動を行うことになる。これらの活動は、私たちが地域を訪れている間は継続するが、私たちが去ると同時に縮小もしくは停滞、さらには実施されなくなってしまうことがある。では、どのようにすれば、「地域の人々が、自らの手で、継続してゆこうとする活動に近づけていけるのか」。この問いに対する、ひとつの回答となりうるものが「問いかけ法」である。
 「問いかけ法」は、国際農林水産業研究センターが、農林水産省の補助金によって西アフリカ・サヘル地域のマリとニジェールにおいて、2008〜2012年にかけて行った「農業生産資源保全管理対策調査」のなかで考案したものである。本稿では、同調査において、マリで実施した女性グループによる菜園活動を題材に、「問いかけ法」について概要を報告する。

1.調査の目的と内容

 調査対象国となった両国では、農業が基幹産業ではあるが、半乾燥地帯という厳しい気象条件の下に、不安定な農業生産を余儀なくされている。くわえて近年、年平均3%を超す人口増加などに伴い、資源収奪的な農業生産活動による土地の劣化と、生活燃料となる木質資源の過剰採取などにより、自然資源の劣化がさらに進展することが懸念されている。このような状況の下に、「農業生産資源保全管理対策調査」では、土地や植生など自然資源の保全と持続的利用を地域のもっとも中心的な課題としてとらえ、自然資源の保全を担う住民組織による行動計画の作成と実施、地域行政官の住民支援という手法により、農業生産資源の保全と農業農村の持続的な発展を目指すこととした。

2.菜園と女性たち

 対象地域の農村においてはミレット(トウジンビエ)が主食であるが、同様に日常的に広く消費されている野菜や果実が栽培されている菜園に焦点をあて、食料確保および収入多様化の点から重要な活動と位置づけた。ミレットの栽培は各農家の家長である男性が主として従事しているのに対し、菜園は女性がその運営を担っている。その規模はミレット栽培農地と比べれば小さいものである。しかし、家族の食べ物と、わずかではあるが新たな現金収入を生み出し、家族と家計を支える場として、女性たちの関心は非常に高いものがある。

 多くの農家の家屋の傍には小規模な菜園があって、女性たちが主食とともに食事に供するソースの材料となる野菜や果実を栽培している。しかし、水源となる井戸が家屋近隣にあればよいが、そのようなケースは限られている。また、菜園として利用する土地に関しては、土地の利用権を管理する村長、および家長の許可が必要で、女性たちにとって自由に拡大できる状況にはなかった。

3.菜園活動の計画作りと「問いかけ」

 このような現状の下、これまで農家ごとに行われていた菜園を、新たに農地と水源を確保したうえで、共同菜園として実施することを私たちの提案として考えた。そこには、いくつかの課題が想定された。まず、女性たちにとって共同管理の経験が浅く、一度の研修や技術指導を講じることで軌道に乗せることは容易ではなく、また、生じるであろう課題も村によって異なることが想定された。というのも、経済的制約が大きな農村では、時として課題を課題として認識しないか、あるいは課題をおぼろげながら認識しても、敢えてそれを明確化することなく放置し、「問題の先送り」をすることが、たびたび見受けられたからである。

 これらの生じるであろう課題とその対策を住民自身が明確に認識し、自らが対策を講じていくことによって、活動はより継続的、主体的なものとなる。「問いかけ」による課題解決の後押しは、この課題の発掘から対策を講じるまでを、私たちや地域の行政を含めた外部の支援者が絶えず「問いかけ」をすることで、課題解決までの道のりを、最終的には住民自身が指し示すことができるよう、ファシリテートするものである。

4.「問いかけ法」の内容

 課題の「問いかけ」による課題解決を活用した住民による活動計画作りは、「課題の明確化」、「対策の具体化」および「対策の実施」の3つの過程によってあらわされる(図1)。この3つの過程がサイクルで示されるように、課題が解決に至らない、もしくは新たな課題が生じた場合、この過程は解決に至るまで「問いかけ」を継続する流れとなっている。

図1 「問いかけ」による課題解決
図1 「問いかけ」による課題解決

 このサイクルが、外部支援者のファシリテートがなくても、住民自身で実施されたとき、はじめて継続的・主体的な活動になったということができる。
 課題の「問いかけ」について、その「問いかけ」をする内容は活動への参加者の問題認識の度合いによって、使い分ける必要がある。問題を「認識していない」場合は問題の有無を「問いかけ」、「おぼろげながらも、認識している」場合は明確化を図り、「認識しているが、その対策を取っていない」場合は、より具体的な対策を引き出す「問いかけ」を行うことが望ましい(表1)。

表1 問題認識の程度と「問いかけ」の内容
表1 問題認識の程度と「問いかけ」の内容

 課題対処の内容とその実施時期は地域の特性や参加者の事情(活動への理解度、基礎教育程度、活動実施への意欲、問題の緊急性、村落活動などによる時間的制約)に対応して、臨機応変に決定される必要がある。また、参加者自らでは解決することが困難な課題、たとえば技術的な課題(農薬の使い方など)や高額な施設整備を要する課題(水資源確保のための井戸の設置など)に対しては、外部支援者の技術指導や資金援助を検討し、解決を図っていく。

 なお、「問いかけ」の方法はワークショップやグループ内会議などの場で実施し、課題を有する当事者同士(個人、グループ、村落組織など)が協議できる環境を提供する必要がある(表2)。

 

表2 「問いかけ」の方法とその適用
表2 「問いかけ」の方法とその適用

5.ファシリテーターの役割

 課題の「問いかけ」による活動計画作りにおいて、ファシリテーター(本調査においては、農業技術指導能力を有する農業普及員)は重要な役割を担う。菜園活動においては女性グループが主体であり、男性普及員だけではなく、女性普及員にファシリテーターとして参加してもらうこととした。これらのファシリテーターが、女性たちの身近で、常に課題の存在を「問いかけ」て、その問題認識を明確にすることで、女性たち自らが主体となって問題を克服してゆくための自信と意欲が生まれ、さらなる活動への当事者意識が段階的に高揚することを促した。なお、ファシリテーターは「問いかけ」を行う際に以下の点に留意した。

・具体的できめ細かく、参加者が十分に理解しやすい「問いかけ」の内容や方法

・決まった答えしか期待できない「問いかけ」ではなく、参加者自らの考えや行動を促す・引き出す姿勢

6.共同菜園活動の事例紹介

 課題の「問いかけ」を用いた活動計画作りによる共同菜園の設立と活動への支援は、2010年度と2011年度にわたり、マリのセグー州とクリコロ州の合わせて4村(B村、S村、C村、Y村)を対象に実施した。そのなかで、菜園開設の計画作りから始まり、乾期・雨期、それぞれの栽培・収穫終了時において、その作期の評価と次の作付計画作りを行った。
 計画作りにあたって、現状の課題を女性たちと整理し、解決策も併せて検討した結果が表3である。

表3 菜園に関する課題と解決策
表3 菜園に関する課題と解決策

 これらの課題は、女性グループが主体となりつつも村の住民組織、外部者の協力のもとに解決を進める必要があることから、以下のように分類した。

−女性グループと村の住民組織が検討し、解決していく課題

−女性グループが検討し、解決していく課題(組織化、もしくは既存組織の強化)

−ファシリテーターなどの外部者による研修で解決していく課題

 このように分類することにより、女性グループにとって、「自分たちに何ができて、何ができないのか」ということが明確になり、また「できない部分は、どのように補っていくか」ということを考え、行動を起こすきっかけとなった。その後、4村はそれぞれの次のような展開をみせた。

<B村の事例>

 共同菜園がすでにあったが、毎年、雨期に冠水し被害を受けていた。また、近隣の井戸から菜園まで、灌漑用水を毎日運ぶ必要があり、その重労働が問題として菜園参加者から挙げられた。女性グループはファシリテーター役の農業普及員との話し合いにより、解決策として、菜園の移設、菜園内での井戸の新設を計画した。これらの計画は、当初、村長の許可が得られなかったが、数か月にわたって、女性グループと村長とが話し合いを重ねた結果、実現する運びとなった。なお井戸の新設は、村の住民組織と女性グループの話し合いにより、村内の男性が工事を行い、井戸建設に必要なセメント購入経費の一部に女性グループが、参加者から毎月集めている積立金を充てることになった(写真1)。

 
写真1 井戸に支えられる水やり
写真1 井戸に支えられる水やり

<S村の事例>

 共同菜園がすでにあったが、菜園を家畜の食害から守る柵が壊れていたため、利用者が減って、放棄された区画が多数あった。そこで、女性グループと農業普及員の話し合いにより、女性グループが積立金のなかから労賃を村内の男性グループに支払うことで、菜園の柵の下部に枝をめぐらせて補強をした(写真2)。

 
写真2 補強された柵
写真2 補強された柵

<C村の事例>

 女性グループと村の住民組織との話し合いにより、住民組織役員から農地の無償提供の申し出があり、そこに共同菜園を設けることになった。また、栽培希望の多かったジャガイモを導入した結果、2作目以降、作付面積が拡大した。余談ではあるが、女性たちが日々菜園での活動に割く時間が長くなり、住民組織代表の男性からは「女性たちが毎日、菜園で作業をして、食事の時間が遅れ気味で困っているよ」という話があった(写真3)。

 
写真3 ジャガイモの収穫
写真3 ジャガイモの収穫

<Y村の事例>

 共同菜園用の土地を確保し、井戸と柵を設置して、作付けまでこぎつけながら、豪雨によって菜園の半分が流される被害に遭い、活動の継続が危ぶまれた。しかし、女性グループとファシリテーター役の農業普及員、住民組織の三者の協力により、菜園の移設、柵の再設置、そして井戸の新設がなされた。この村では、灌漑用だけではなく、飲用も含め、水不足が最大の課題であったことから、女性グループの基金だけでなく、住民組織の基金からも資金を投入して、井戸建設費がまかなわれた(写真4)。

 
写真4 新設された井戸
写真4 新設された井戸

おわりに

 上述したC村やY村の事例をもとに、両村を管轄するB市では、新たなプロジェクトへ「問いかけ法」を採用するなど、その利用が広がりつつある。

 「問いかけ」は、私たちと対象となる人々との間にシンプルな内容の質問、回答を積み重ねるなかで、人々に「気づき」をもたらし、そこを起点に具体的な計画を作成すること、そして状況に応じて計画を修正しつつ実現することへつなげていくものである。その際、対象とする地域、実施しようとする活動、その主体となる人々、そして人々を取り巻く自然や社会・経済環境などの条件により、「問いかけ」の内容と得られる回答、そこから導かれる対策は異なってくることに留意しなければならない。そこで、(1)本稿、そして(2)本調査によってとりまとめた「自然資源の保全と管理のためのガイドライン」と(3)技術マニュアルを参考にしていただけると幸いである。

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