食料と農業のための
世界土地・水資源白書
─危機に瀕する生産システムの管理に向けて─

学習院女子大学 教授 荘林幹太郎

 2011年に刊行されたFAOによる『食料と農業のための世界土地・水資源白書─危機に瀕する生産システムの管理に向けて─』の英文要旨版(以下、「サマリー」)の筆者抄訳をもとに、その概略について紹介し、必要に応じて筆者のコメントを付すこと、という編集部からの要請を受けたのが本稿である。白書本体ではなくサマリーをベースにすることから、白書の詳細な内容についてではなく、一般読者向けの主要なメッセージについて論ずることが本稿の主目的となる。また、字数の関係で、抄訳の段階で筆者により適宜取捨選択がなされていることをご了解いただきたい。

 サマリーは、序文と概要の後、要約を4つの章(1章土地・水資源に係る挑戦、2章持続可能な集約化に向けた土地・水資源、3章挑戦の達成に向けて、4章結論)にわたり紹介している。
 サマリーでも再三述べられているとおり、土地と水は制度的にも政策的にも独立して取り扱われることが普通であり、わが国も例外ではない。しかし、これもサマリーのとおり、両者は相互依存する側面が強いことから、政策や制度を論ずる際にも統合的な視点が必要となる。そのような視点から、土地と水を可能な限り統合的に取り扱おうとした本白書の意義は大きい。

1章 土地・水資源に係る挑戦

<土地・水資源利用に関わる現状と傾向>

 農業生産(食料および繊維)の増加の大部分は、耕作面積の増加ではなく単位面積あたり収量(単収)の増加に起因してきた。過去50年間、耕地面積の増加は12%にとどまったが農業生産量は2.5〜3倍に増加し、そのうちの食料増加の40%は灌漑農地によってもたらされた。その耕地面積増加の12%も、純増ベースでみると灌漑面積が増加した結果であることを図1が示している。その結果、陸地面積の11%、水使用量の70%が農業利用に供されている。

図1 灌漑耕地と天水耕地の面積の推移(1961-2008)
図1 灌漑耕地と天水耕地の面積の推移(1961-2008)
出所:FAO (2010)


 一方、耕地の分布をみると表1のように、農業生産の増大が必要な低所得国における1人当たり面積は高所得国の半分を少し下回っている。人口と所得の増加を考慮すれば、食料需要増大の多くは低所得国で今後派生するであろう。このような地理的アンバランスを補償するための地球レベルでの食料生産の調整が必要となる。

表1 所得レベルによる世界の地域別の耕地分布

(単位:100万ha 100万人 ha %)

生産物 耕地面積 人口 1人当たり
耕地面積
天水作物作付地
最適地 良好地 限界地
低所得諸国 441  2,651  0.17  28  50  22 
中所得諸国 735  3,223  0.23  27  55  18 
高所得諸国 380  1,031  0.37  32  50  19 
世 界 1,556  6,905  0.23  29  52  19 
注:1)百分比は天水作物作付面積に占める「最適地」「良好地」「限界地」の割合。
出所:Fischerら(2010)を基に作成

 天水農業は、世界でもっとも主要な農業生産システムであると同時に農村地域の貧困層を支えている。温暖化によって、北半球の穀物生産はさらに生産可能地域を北上させる可能性がある。一方で、乾燥熱帯・亜熱帯地域では降雨が不規則になり生産性は低くなり、低所得国の本来の潜在生産力の半分を下回ってしまう。

 これに対して、作付適地での集約的農業の拡大は、農地の拡大圧力やそれに伴う森林・草地などの破壊を緩和する。精密農業や市場化の進展は多くの作物でみられる。また、灌漑農地も50年間でほぼ倍増し、なかでも地下水灌漑の増加は著しく、いまや灌漑の40%は何らかのかたちで地下水に依存している。投入財の増大を伴ったこのような「集約化」は天水農業の拡大を防ぎ、穀物の安定供給に貢献している。

 一方で、多くのケースにおいて生産量増加は、農業生産が依存する土・水資源の劣化をまねくような農法を伴う。すでに、劣化が農業生産に影響をもたらす水準に至っている地域もある。また、集約的農業は肥料や農薬の投入過剰によって、生物多様性の減少や水資源の汚染をもたらしている場合もある。

 灌漑農業は、生産や所得の増加という直接的な便益を、また下流の洪水防止などの間接的な便益をもたらす一方で、河川の環境的な流水量の減少や下流の水利用の変化、さらには湿地の喪失などの費用をもたらす。すでに、費用が便益を上回る事態も発生している。環境劣化が農業生産に影響している地域もある。

 大規模な集約的農業の拡大も森林保全に貢献する一方、気候調整力・土壌炭素・生物多様性の減少、文化価値の喪失などをたらす。小規模農業も土壌劣化や温室効果ガスの排出などをもたらす。

コメント:1章の現状分析は、土地・水資源に関わるマクロ状況を簡潔にまとめ、有益な情報が多い。灌漑農業が食料生産力の増強を実質的に支えてきたこと、食料の生産力と必要量に地域的アンバランスがあることなど、比較的に周知の事柄ながら、図表を交えてわかりやすい。そのなかで、本白書の重要な政策概念となっている「持続可能な集約的農業」につなげるために、集約的農業が食料増産に与えた影響について一定の積極的評価がなされている。一方、生産とその他の要素に係るトレードオフを強く意識することが本白書のもう一つの特徴で、その議論につながる情報として集約的農法の環境などへの悪影響も示されていることに注目されたい。

<土地・水に関する政策・制度・投資>

 土地所有権や水利権が明確に定義されていない、あるいはそれらに関する規制が弱いことが制度的問題として挙げられる。このため、慣行的あるいは歴史的な利用権を法制度上に位置づけることが、土地・水の責任ある利用の確立への重要な第一歩となる。

 農業開発政策は生産条件の良好な地域や、灌漑、施設、さらにはモノカルチャーへの移行などへの投資に重点を置いてきた。そうした政策の恩恵は、不適切な農法のもと地力の乏しい農地で生産を行っている大多数の小農家を迂回してしまうこととなった。また、これらの投資の多くは短期的な利益を重視するため、長期的な資源劣化を引き起こした。

 農業における土地・水資源の利用は「政策の罠」に陥っている。農業政策は拡大する需要に対応してきた一方で、投入財の過剰使用や地下水過剰揚水を引き起こした。同様に、水政策も供給・貯水能力を高める一方で、過剰な水需要を増加させることになり、灌漑用水の低料金政策が非効率な水利用を助長させた。

 土地と水は密接な関係にありながら、その制度は相互に独立して構築されている。土地と水の相互依存性や利用における競合性から、両者に係る制度を協調的なものにすることによって、資源不足への対応や新たな市場機会の活用への貢献が可能になる。流域ごとの統合的な政策が指向される場合においても、土地と水を統合的に取り扱うものにはなっていない。

 農業インフラ(道路、灌漑施設、貯蔵施設など)や制度に関する公的および民間投資の水準は過去20年にわたり低下してきた。農業インフラ投資は市場環境の変化に的確に対応できていない。より「賢明な」投資が、食料供給の世界的安定の確立にとって重要な要素として認識されている。土地・水資源利用に関する競合性から、いっそう効率的な資源配分や環境規制が必要となる。

 大規模な農地取得が、土地・水資源が豊富なアフリカ、アジア、ラテンアメリカの一部にみられる。それらは開発の機会を提供する可能性がある一方、現地の小農家から土地・水へのアクセスを奪う懸念がある。多くの国において、彼らの権利や福祉を保護する十分な方策が整備されていない。

コメント:もっとも特徴的な記述は、土地に対する政策・制度と水に対するそれの統合性の欠如の指摘であろう。たとえば、水に対する総合的なレポートとしては、途上国の文脈でみると世界銀行による2004年の戦略レポートがよく知られている。本白書は、水を単独に取り扱ったそれらのレポートよりも広角的な視野を示し、その成果の一つがこの指摘とみることもできるだろう。

 一方、土地は(サマリーで述べているとおり、途上国ではある種のコモンズとして取り扱われうる場合もある)個別所有権の対象となることが一般的な財である。これに対して、非排除性の程度が灌漑システムの形態によって大きく異なり、その結果、私的財からオープンアクセス資源まで幅広い財に区分される可能性の高い水資源を土地と同列に取り扱う問題については、ここでは触れられていない。たとえば、土地については、私的財としての性格を反映して、それへの政策的あるいは制度的対応としては規制的な手法が採用されることが多い。これに対して、準公共財としての性格が強い場合の水資源については、政府供給なども選択肢の一つとなる。このように、政策や制度の位相は両者間で大きく異なる。

 こうした差異から、筆者は、セクター横断的な水資源政策と土地政策の整合に先立ち、水資源政策と農業政策の整合性に関して、重層的な議論が必要と考える。少なくとも先進国(OECD加盟国)の文脈でみれば、農業支持政策と水資源政策が深刻な不整合をもたらす可能性がある。たとえば、水資源政策のなかで提唱されることが多い効率的配分実現のためのフルコスト・リカバリは、農業支持政策と衝突する可能性が高い。その場合、両者の整合をどう図るべきか。実際、EUの共通農業政策の改定作業では、その整合性確保は重要な政策事項として議論されている(荘林、2012)1)

<2050年に向けての土地・水資源利用の展望>

 2050年には、人口と所得の増加によって農業生産物需要は70%増が見込まれている。2009年を基準とすると、低・中所得国では100%の増加になり、世界規模では年率1%、低・中所得国では同2%の増加を意味する。その対応の中心は既存耕地における集約度の強化になることが予想されている。

 途上国における食料増産は、灌漑が中心的役割を担う「集約化」に依拠することになる。用水供給量の増加、灌漑効率の改善、単収の増加などが必要となる。その結果、灌漑面積も灌漑使用水量も増加すると予測されるが、増加率は2050年までの全体でみると、面積で6%、用水量で10%にとどまる。しかし、いかなる増加であれ、他セクターとの水配分と環境影響をめぐるトレードオフに直面する。

 気候変動も農業に影響を与える。平均気温の上昇は高緯度地域では農業生産にプラスに、低緯度地域ではマイナスに作用する可能性がある。デルタや沿岸地帯は海面上昇の影響を受ける。夏期の灌漑を雪解け水に依存している地域も悪影響を受ける可能性がある。温暖化の適応・緩和戦略は、干ばつや洪水などの極端な気候現象に伴うリスクを軽減する方策に集中するとともに、気温上昇がもたらす影響にも対応しなければならない。

コメント:2050年までの予想を示した本節では、灌漑を中心とした集約化による単収増加の重要性が強調されている。そのこと自体に大きな異論はないであろうが、一方で前節のコメントとも関連して、ここでの議論の対象の大半は実質的には水資源となっている。生産性の向上などの観点では土壌劣化も重要な懸案事項となるが、劣化防止のための政策や制度の創設には、土地自体が私有財産であることから一般的には種々の困難が伴うことを反映しているとも推測できる。

<危機に瀕する土地・水システム─何が、そしてどこで>

 世界中で、多くの農業生産システムが、人口増加圧力と持続不能な農法によって危機に瀕している。世界全体の指標では隠れてしまう地域レベルでの危機が地図で示されている。本白書では、生産に適切な土地・水資源の賦存量やそれら資源へのアクセスが地域において制約を受けている場合に、「危機に瀕している」と定義する。「危機に瀕している」9つの生産システムは、(1)天水農業(高地)、(2)天水農業(熱帯半乾燥)、(3)天水農業(亜熱帯)、(4)天水農業(温帯)、(5)灌漑農業(水稲中心)、(6)灌漑農業(水稲以外)、(7)放牧地、(8)森林、(9)その他、地域において重要な生産システム、である。

コメント:9つの生産システム分類を行ったうえで、それぞれの区分において必要に応じて地理的細分類がなされている。たとえば、灌漑水田農業の分類においては、「東・東南アジア」と「サブサハラ・アフリカなど」に細分類し、それぞれに応じた丁寧な分析がなされている。

2章 持続可能な集約化に向けた土地・水資源

 農業の2050年までの増産の4/5強は既存耕地の生産性の向上によってもたらされるという前提で、そのための具体的な3つの対策を本章で論じている。

<土地・水資源の生産性ギャップ─潜在力の未活用>

 天水農業地域の生産性は土壌養分の不足や流出、土壌構造の脆弱性、不適切な土壌管理のために低い。土壌保全農業、アグロフォレストリー、耕畜連携、灌漑養殖複合農業などの総合的な農法を採用することによって、生産性は改善される。

 これら総合的農法は農業農村開発戦略の一部として実施されたときに有効であることが明らかになっているが、導入のリスクや初期の低収益性によって普及が進まない可能性もある。農家が自らの状況に応じて、適切にそれらの農法に転換できるようなインセンティブ・パッケージの提供が必要となる。

 一方、灌漑農業についても、その潜在力が十分に発揮されていない。水生産性が低いということは、水資源の効率的利用から得られる経済価値を喪失していることと同じである。水力発電を含む多目的ダムや小規模貯水施設の建設などによって灌漑用水の供給能力の増強は可能であるが、量的には限定されたもので、既存施設の管理の向上が重要となる。大規模灌漑システムにおいては、インフラ施設の近代化とともに、水使用の効率性を歪曲するインセンティブを除去する必要がある。また、小規模灌漑システムにおいても、知識や技術の普及などによって、水生産性向上の余地がある。

コメント:潜在生産力の十分な発揮の必要性について適切な指摘がなされている。ただ、そのためのインセンティブ・パッケージの内容についてはここでは明示されていない。

<持続可能な土地・水資源利用のための政府支援>

 農家は、土地・水資源の持続可能な利用のための主体であるが、種々の要因によって持続不能な利用を強いられているとの認識のもと、3つの公的投資の必要性を主張する。

(1) 国家レベルでは、道路、貯蔵施設、土地・水資源保全施設などの公共財に対するものや、民間投資を誘引する投資。

(2) 持続可能な土地・水資源利用のために必要な規制、またそれらの利用を奨励する制度への投資。たとえば、研究開発、インセンティブや規制システム、土地利用計画や水資源管理などの分野。

(3) 流域(あるいは灌漑プロジェクト)レベルでは、計画的な土地・水資源利用をもたらすような統合的計画。

 土地所有権や水利権の不備が生産性向上の阻害要因である場合、土地・水管理制度が強化される必要がある。共有資源システムとして法制度化する、あるいはそれらを個別所有権に分割するなどが考えられる。

 土地・水に係る重層的なステークホルダーの参加が、セクター間の効率配分や、効率利用を促進する技術や統治構造の導入を通じて、水生産性を向上させる。参加型の集合的灌漑管理などが事例であり、政府は意思決定の分権化と農家のより大きな責任分担を進めることに、灌漑政策改革の力点を置くべきである。

 集約化と保護・保全のレベルや方法、商業作物と主食作物あるいは成長と所得配分のバランス、国内食料安全保障の水準、都市住民および農村住民の間での費用負担などの決定に際しては、トレードオフへの配慮を重視する必要がある。その際に肝要なのは、明晰な分析と幅広い国民の関心の反映であって、参加型のプロセスと透明性が重要となる。

 土地・水資源の効率的管理のための最初のステップの一つは、両資源の劣化をもたらす歪曲(非効率かつエネルギー集約的な農業や地下水過剰揚水を誘引するような低廉なエネルギー価格付けなど)の除去である。その後、望ましい農法を支援する価格インセンティブや規制を導入する。その際、生態系サービスへの支払い(PES : payments for environmental services)が、農家の負担と社会全体に及ぶ便益を再調整できる可能性がある。

コメント:本節で注目すべき内容は、さまざまなトレードオフへの対応を強く要請している点にある。荘林(2011)2)は、OECD諸国の現代農政がかかえる本質的な問題の一つは、農政目的が多元化し、またそれらの間にトレードオフ関係が生じる可能性があることにあるとした。くわえて、それらの多元化された政策目的が、それぞれに関係する他セクターの政策の影響を受けることから、農政のなかでのトレードオフのバランス化がいっそう困難になると議論した。そして、そのようなトレードオフ関係を有する目的間の調整を行うための新たな農政システムが必要だとした。そのような観点からは、トレードオフについての言及に、筆者は強い共感を持つ。

<国際協力および投資の必要性>

 国際協力も土地・水資源の統合的な管理のために協調する必要がある。多くの国際機関が両資源保全の重要性を認識しながらも、統合的取り組みは欠如している。

 土地・水資源の保全のために必要な世界レベルでの投資も不足している。たとえば、2007年から2050年の間に灌漑の開発・管理に1兆ドル、土壌保全や洪水防止などに1600億ドルが必要と推定している。新たな資金フローの可能性としてPESや炭素市場が挙げられる。国際的投資は各国の投資を補完する必要があり、各国はそれを促進する政策・制度などの整備を進めるべきである。

コメント:国際協力の必要性についても総論として大きな異論はないであろう。一方で、そもそも、土地と水の統合的な政策の経験が先進国においても欠如あるいは不十分であることを考えると、援助側に知見や経験が備わっているとは考えにくい。そのような状況を考えると、この提言は援助国にとっても大きな「挑戦」であろう。

 また、PESと炭素市場に新たな資金源としての期待がかけられている。国際的なレベルでみた場合、PESがどの程度の規模になるかは不明であるが、炭素市場については排出権取引の制度設計にも大きく依存するものの、農業分野にとって大きな可能性を秘めている。先進国で運営中あるいは計画中のほとんどの排出権市場においては、農業を「オフセットプロジェクト」(排出権市場において、キャップを課せられている者の間の取引に加えて、規制を課されていない者が、通常の排出量から減ずる、あるいは吸収する量をクレジットとして市場で売却できること)として含んでいる。自発的市場でも、世界銀行が支援しているケニアでの農地土壌プロジェクトがクレジットを売却するなど、農業部門の市場への参加が漸増している(荘林:2010)3)。わが国の試行的な制度のもとでも農業部門を積極的に含めるべく、クレジット算出の方法論がいくつか確定している。

3章 挑戦の達成に向けて

 農業が立ち向かうべき挑戦は、食料生産量を2050年までに少なくとも70%引き上げ、食料安全保障と貧困農民の生活を改善し、生態系サービスを保全し、土地・水資源利用に係る競合を調整することにある。これらの挑戦は、以下の配慮なしには達成されない。

・現行農法の土地・水資源への負荷を軽減するような形態への転換

・集約的農業の負荷の速やかな軽減、貧困緩和、食料安全保障と生活の安全保障の分散化、生態系サービスの保全と一体的になされる食料増産

・高い人口密度、拡大する貧困、そして土地・水資源への限定的なアクセスなどの小規模農業に伴う負の影響の削減

・危機に瀕する農業生産システムへの対応の優先化と危機管理の進行のモニタリング

・持続可能な農業と均衡ある農村開発のための投資、経済、貿易政策

・危機に瀕するシステムへの対応と気候変動に対する緩和と適応を同時に実施するために、地域レベルでの取り組みを拡大していくような統合的計画・管理アプローチを通じての持続可能な集約化の実施

 持続可能な土地・水資源利用に向けた取り組みが依拠すべき原則として、参加型アプローチの広範な適用、生産から販売までの市場チェーンに関連した基礎的な公共財への投資の強化、地域および国際レベルでの土地および水資源に係る機関の協調の推進、グリーン経済と持続可能な農業を支援できる国際貿易合意などが必要となる。

コメント:これまでの議論・分析を踏まえて多くの提言がなされている。本章でも「集約化」が基本で、その負の影響を軽減しつつ、生産を拡大するための原則などが示されている。このなかで貿易政策への言及もある。周知のように貿易政策には各国間のポジションの相違にくわえ、途上国・先進国間での構造的な対立も存在する。グリーン経済や持続可能な農業を推進する貿易政策の在り方に関する考え方についても、当然に大きな相違が生じる。本稿では、その詳細に立ち入るスペースはないが、いずれにしろ、農業を「支持」する場合、その正当性が強く求められるべきという価値観が共有される必要があると考える。

4章 結 論

 より持続可能な土地・水資源管理に向けて、政府および農家を含む民間部門はよりいっそう積極的な行動をとりうる。生態系への悪影響を限定しつつ食料増産を図る選択肢はある。しかし、そのためには土地・水資源管理について大きな変革が必要で、国や世界レベルの政策や制度は協調的なものに変更する必要がある。微調整にとどまる「通常のやり方」では不十分なのである。

コメント:サマリーの結論は簡潔かつ明晰である。土地・水資源政策の連携の重要性を最後に強く協調するものとなっている。前述のとおり、そのような「挑戦」に先進国が応えられるのか、あるいはどのような形態で応えるべきなのか、それが本白書が突きつける最重要課題だと考える。

<参考文献>
1) 荘林幹太郎(2012)「EUにおける水政策と農業政策の整合性議論と政策的含意」『農業農村工学会誌』80巻12号

2) 荘林幹太郎(2011)「現代農政システムの制約要因と展望」『農業経済研究』第83巻第3号pp165-174.

3) 荘林幹太郎(2010)「農業のオフセットプロジェクト化に向けて」『日本政策公庫AFCフォーラム』58(1), pp.11-14.

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