衛星画像を用いた浸水エリア図作成と
現地への技術移転について

国際航業株式会社 東日本事業本部
第三技術部 リモートセンシングプロジェクト
 原口正道、今井靖晃、鎌形哲稔、中西 平

1.はじめに

 国際航業株式会社は、財団法人日本水土総合研究所が2008年から実施している「海外農業農村開発地球温暖化対策検討調査事業(農村防災体制強化対策調査)」の一環として、インドネシアとラオスの両国において、衛星画像を用いた浸水エリア図作成と現地への技術移転を実施している。

 この業務は、国産の地球観測衛星ALOS(通称「だいち」)の画像を用いて、広域の浸水エリア図を低価格にて作成している点が特徴である。また、ラオスでは、浸水エリア図の背景図となる簡易な地図も衛星画像から作成しており、衛星画像のみからハザードマップの基礎となる情報を整備した点も特徴の一つである。さらに、国産のALOS衛星画像を利用した技術を先の両国に移転することで、日本製技術を生かした発展途上国支援を実施した点も特徴の一つである。

 本稿では、衛星画像を用いた簡易地図および浸水エリア図作成技術を紹介するとともに、現地研修によって、どのように技術移転を図ったか、その概要を紹介する。


2.衛星画像を用いた簡易地図作成技術

 簡易地図は、浸水エリア図の背景図となるもので、ラオスにおいては地球観測衛星IKONOS(イコノス)の画像を用いて作成した。

 衛星画像は衛星やセンサの種類に応じて解像力が異なり、認識できる地物の種類が異なる。IKONOS衛星は1999年にアメリカのスペースイメージング社(現GeoEye社)によって打ち上げられた衛星で、光の三原色の青、緑、赤の波長にくわえ、近赤外域の波長情報を取得できる解像度4mのマルチスペクトル(カラー)センサと、解像度1mのパンクロマチック(白黒)センサを搭載している。マルチスペクトルセンサで取得された画像とパンクロマチックセンサで取得された画像を鮮鋭処理(パンシャープン化)することによって解像度1mのカラー画像を作成することができる(図1)。

図1 鮮鋭処理の様子
図1 鮮鋭処理の様子


 この業務では、作成した解像度1mのカラー画像を目視判読することによって、さまざまな地物の情報を抽出し、簡易地図を作成した。抽出した情報は、主要道路(幅員7m以上および幅員7m未満)、水路、平常時水域、集落、農地、山林である。また、等高線については、主曲線を10m間隔、計曲線を50m間隔とし、衛星から作成されたDEM(Digital Elevation Model:規則正しいメッシュに対応する位置の標高値を数値データとして組み込んだもの)データを用いて作成した。作成した簡易地図を図2に示す。

図2 作成した簡易地図
図2 作成した簡易地図
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 簡易地図を作成するには、GIS(地理情報システム)のソフトウェアの操作技術や衛星画像から地表の情報を抽出する画像判読技術を必要とする。そこで、この業務の一環として衛星画像の入手方法や画像判読技術、GISソフトウェア操作方法などの技術を先の両国に移転するための研修を行った。研修については4.にて後述する。


3.衛星画像を用いた浸水エリア図作成技術

 浸水エリア図は、ALOS衛星に搭載された3種のセンサのうち、PALSAR(パルサー)というセンサで得られた画像から作成した。PALSARは、マイクロ波を利用した合成開口レーダと呼ばれるセンサ(SAR、サーとも称される)である。マイクロ波は雲を透過するため、曇天でも画像が得られる(図3)。

図3 SAR画像は曇天でも撮影可能
図3 SAR画像は曇天でも撮影可能


 また、SARはマイクロ波を斜め方向に照射するため、センサから照射されたマイクロ波が水面で鏡面反射する。このためSAR画像は、水面が暗く写る特徴がある(図4)。この特徴を利用し、通常時の画像と洪水時の画像を重ね合わせると、浸水エリアを抽出することができる。

図4 SAR画像の特徴
図4 SAR画像の特徴


 図5は、通常時のSAR画像と洪水時のSAR画像を重ね合わせた画像である。黒色で表示された箇所は洪水時に暗くなった領域、すなわち浸水の可能性が高い地域である。

図5 SAR画像を用いた浸水エリアの抽出方法
図5	SAR画像を用いた浸水エリアの抽出方法


 このようにして抽出した浸水エリアと簡易地図を重ねることによって、わかりやすい浸水エリア図を作ることができる。図6は、ラオスのビエンチャン県ナム・グム川で作成した浸水エリア図である。

図6 作成した浸水エリア図
図6 作成した浸水エリア図
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4.現地への技術移転

 衛星画像を用いた簡易地図および浸水エリア図作成技術を、関係機関に技術移転することを目的として、ラオスの農林省灌漑局職員16名、インドネシア関係機関職員13名を対象に、作成した両国のデータや地図を使用して現地研修を実施した(写真1)。

写真1 現地研修の様子(左:ラオス、右:インドネシア)
図1 LGED開発予算の内訳(2009-2010年度)


 現地研修終了後、研修参加者を対象に評価アンケート調査を実施し、各国の現状とニーズについて有用な情報を収集することができた。アンケート集計結果を表1に示す。とくに、(1)研修時間の延長や継続的な研修の実施、(2)参加者の通常業務に即した内容の追加、(3)簡易マニュアルなどの補足資料の作成、が両国に共通して高いニーズであることが分かった。

表1 アンケート集計結果
表1 地域住民の意向確認調査
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 また、GISの利用環境の整備も両国におけるニーズとして挙げられた。今回のようなGISを用いた研修を受講する機会が以前よりも増えてきている一方、多くの研修参加者がGISを利用する機会が普段はほぼ無いことが分かった。研修を介して身につけた知識やスキルを今後の業務に活用していくために、職員のGISスキル向上とともに、GISの利用環境の整備が必要とされている。

 さらに、国レベルだけでなく地域レベルでの研修実施に関しても、要望が上がっていた。中央官庁の職員だけでなく、地方政府機関職員への技術移転の必要性も高まっている。今後、多数の技術者が協働して広範囲の地図を作成するためにも、画像判読基準の確立が重要になってくると思われる。


5. おわりに

 衛星画像は広域性と反復性に優れており、広範囲のハザ−ドマップ作成に極めて有用なツ−ルである。国産のALOS衛星は、残念ながら2011年5月に運用を停止し、現在は画像が取得できない状態であるが、後継機のALOS−2(浸水エリア図作成に有用なSARセンサを搭載)、ALOS−3(簡易地図作成に有用な光学センサを搭載)の打ち上げ計画が進んでおり、順調にいけばALOS-2が2013年度、ALOS−3が2015年度に打ち上げられる予定である。

 宇宙分野はインフラ・システム輸出の戦略11分野の1つに挙げられており、発展途上国における利用分野開拓が望まれている。
 一方で、2011年10月にタイで発生した大洪水のように、発展途上国における洪水災害は依然として多発しており、産業集積が進んでいる昨今、わが国にとっても極めて大きなリスクになりうる。

 今後、発展途上国に対する防災技術移転の重要性は増すと考えられ、その一環としてハザードマップの整備が進むことを期待している。当社としては、コンサルタントとして衛星画像解析技術を生かして、その一翼を担えれば幸甚である。

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