『飢える大陸アフリカ』
─先進国の余剰がうみだす飢餓という名の人災─
2011年は東日本大震災、タイの大洪水と世界的に大規模な災害が頻発した年であったが、東アフリカのソマリアを中心とした「アフリカの角」と呼ばれる地域では、大干ばつにより1200万の人々が飢餓に直面するという非常事態が発生している。 本著は、「ウォールストリート・ジャーナル」紙の2人の記者が10年以上にわたって、アフリカの飢餓の現場へ足を運び、飢餓の状況を把握し、インタビューを重ねて、アフリカの飢餓問題の根本原因を追及したレポートである。アフリカの飢餓問題は、干ばつなどの気象条件に起因するが、それよりも政府の政策、社会構造に大きな課題がある場合が多いといわれている。本著では、さらに、先進国および国際機関のご都合主義や誤った対応に飢餓問題の原因があると指摘している。 昨年、ノーベル平和賞を受賞した、西アフリカ・リベリアのエレン・ジョンソン・サーリーフ大統領は、大統領就任後に次のように語っている。「我が国の産業化の基礎として、何を差し置いても農業を推進していかなければなりません。まず食料安全保障の確保と農業開発をやらなければ、産業化の目標はいつまでたっても達成できないのです。」「食料の輸入は、慎重に進める必要があります。援助を申しでてくれる国に対しては、『食料ではなく、種子と道具をください』と言わなければなりません。」 サーリーフ大統領は、アフリカ諸国の政府に自国の農家の支援をさせない世界銀行と国際通貨基金を激しく非難し、食料援助と構造調整の結果、アフリカ大陸全体での農業の発展が著しく遅れ、国際的な食料援助への依存度が増したのだと指摘している。「補助金について再検討します。輸入食料にお金を使うのではなく、農家への支援を強化します。我が国独自の補助金制度を確立して、完全な食料安全保障を確保し、食料を輸出できるようなレベルになるまで、農業を復興させなければなりません。」 これからのアフリカの農業振興のロードマップは、まさにサーリーフ大統領の発言のとおりであろう。そこで、わが国、日本がアフリカの農業振興のために何ができるかであるが、2008年に横浜で開催されたアフリカ開発会議で、サブサハラ・アフリカのコメ生産を向こう10年間で倍増させるイニシアチブを宣言している。ネリカ米の普及と営農技術の指導がこの生産倍増計画の主要な柱であり、ウガンダなどの国々で日本人専門家がネリカ米の普及に取り組み、成果を上げている。アフリカにおけるコメの消費量は年々増加しており、とくに西アフリカでは主要な主食として、その自給の達成が多くの国で国家的な政策課題となっている。現在普及しているネリカ米は陸稲であるが、生産量の高い水稲品種も開発されており、灌漑施設などの基盤が整備されれば、水稲品種も普及が可能であり、アフリカの飢餓問題の解決に大きく貢献するであろう。 東日本大震災の後に、宮澤賢治の詩歌がクローズアップされたが、「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」という賢治の言葉を想起した。海外の農業農村開発の支援に興味のある方も、いまはそれほどでもない方も、一読をお勧めする。 *悠書館刊 本体価格3200円 |